第6章 大樹



 ブルク村 タツミ児童保護院-


「そんな外泊は許可出来ないな。まず、どこに何をしに行くのかをちゃんと言いな

さい。」

「だからそのー・・・王都に行って王様に謁見するまでに、もう少し自分の祝福を調べ

たり、試したりしておきたいんだよぉ。絶対に色々と聞かれるはずだし、その時に

なって「分かりません」ばっかじゃ恥ずかしいじゃん?だから安全なドミ林に籠っ

て、周辺で抽出の練習とかしながら調べたいんだ!」

「ドミの森は近いんだし普通に行って帰って来れるだろ?なぜ泊まる必要があるん

だい?」

「そ、それは・・・ちょっと色々あって。」

「色々って何かな?」

「王都に行くまでに実質3日間しか無いじゃん。調べたい事は山ほどあるのにさ。

だから森に籠って余計な時間をバッサリと削りたい!それに食べ物も水も現地調達

出来るし!ねー、タツミ、お願い!!」

「・・・うーん。」

 タツミが眉間に皺を寄せ、腕組みをして考え込む。

「こんなにヒロが一生懸命にお願い事をするのって珍しいよね。・・・外泊を許して

あげてもいいんじゃない?野営は安全なドミの林に張るみたいだし、すぐに見に

行ける距離でしょ?」

 エレナが助け舟を出してくれた。

「でも3泊も野宿するというのはちょっとね。それに帰って来たら、またすぐにヒロ

は王都に向けての長旅になるんだから。」

「だったらヒロ、さすがに連泊は心配だから途中で一度帰って来て。しっかり休んで

からまた森に行けばいいでしょ?」

「うー・・・、うん。分かった!そうする!!」

「うーむ。・・・そうだな・・・いや、しかしだな、・・・うーん・・・。」

「タツミ、頑固過ぎると嫌われるよ。」

「じ・・・十分気を付けて行っておいで。だけど約束通り必ず一度は帰って来るんだ

ぞ。いいね?それと私も何回か見に行くからね。」

「分かった!」

 エレナの援護射撃が効き、タツミが墜ちた。

「やった!!!行って来る!!」

 -エレナのこの交渉力って算術の祝福とか関係してんだろうか?・・・ただオカン化

してるだけかもしれんが・・・侮れん。

 ヒロは早速野宿の準備に取り掛かった。



 翌早朝-

 ドミ林を抜けて半刻程歩いた先にある丘の上にひっそりと聳え立つ秘密基地、

あの美しいドミの大樹の前にヒロは立っていた。

-やっぱでけーな・・・このドミの樹。

 思わず見上げるヒロ。

 硬い樹皮に触れながらドミの大樹をゆっくりと周回していくと、途中で幹の中に

大きく開いた洞が見えて来た。

-あった。ここだ。

 顔を近づけて中の匂いを嗅いでみる。

 甘くクセのある香り・・・ツグの実に似た強い匂いが相変わらず漂って来る。

 ヒロには、この匂いに心当たりがあった。

 そう・・・抽出を繰り返した古竜王の死骸から匂って来た匂い、あの独特の甘い

匂いだ。

-竜の死骸の匂いがなぜこの洞の中から匂うのか?・・・答えは一つ。

 ヒロは持参した畑仕事用の鍬を地面に突き立てた。

「さてと、掘るか!!・・・っと、その前に」

 用意してきたランタンに火を灯し、洞の中を照らしてみる。

 意外と広く、長年をかけて出来た洞のようで、硬い樹皮で覆われた空間になって

いる。

 中に入り、独特の匂いの元を丹念に探してみた。

「あれ?なんだここ・・・」

 地面の一部が崩れ落ちてぽっかりと穴が開いており、そこから匂いが漂って来て

いる事に気付いた。

「地面に穴?・・・ってことは、この下に空洞があんのか?」

 ランタンをかざして覗き込むが光が思うように届かずに暗闇しか見えない。

「うわー・・・全っ然見えねー。出来るだけ冒険者っぽくやりたかったけど・・・仕方

ない。もう祝福使っちゃうかぁ・・・。」

 ヒロがランタンを置いて「暗視」を発動させる。

 そうして改めて穴の中を覗くと、深く広い洞窟のような空間が続いているのが

はっきりと見えた。

 雫が垂れているような定期的な反響音も微かに聞こえてくる。

-やっぱ地下洞窟だ。しかもかなり広そう。・・・この洞窟のどこかに竜の死骸が

あるってか?

 ヒロは新鮮な空気を求めて一度洞の外に出た。

-うーむ。竜が洞窟を住処にしていて寿命で死んだ・・・とかかなぁ・・・

「ってか、鏡の森の地下に洞窟が広がってるとか聞いた事無いんだが。」

 ヒロが息をつく。

-竜の死骸なら頑張って掘り起こせば一攫千金だーくらいに軽く考えてたけど・・・

一筋縄じゃいきそうにねーなこれ。やっぱ外泊するって言って出て来て正解だった。

 大きく伸びをした後、再び洞の中に踏み込んだ。

-まずは地下洞窟の把握から・・・か。探知と察知、索敵、遠視、千里眼・・・辺りを

同時使用してっと。

 獲得した祝福の使い方や効果を把握出来ているのは、聡明叡智や慧眼、看破など

に起因している事もヒロは理解している。

-よーし。じゃ、始めますか!・・・・・・おっ?・・・なんかいる!!え・・・!めっちゃ

いるじゃん!!・・・おいおい!!何だこりゃ!!

 大樹の地下には巨大な迷路状の洞窟が広がっており、そこには夥しい数の魔族が

うごめいていた。

-ドミの木の効果って地下には届かないのか・・・。

 更に鑑定と観察、竜眼を発動させてみると、魔族の個体名や個々の状態、保有して

いる祝福や能力、装備、熟練度に到るまで一気に把握できた。

-とりあえず・・・・・・発見。北に2.09km、地下0.33kmの地点に広場の様な

大空洞。その中央に古竜の死骸。・・・で、この大空洞へとつながる全ての通路に魔族

・・・計40905体が分散して配置。まるで外敵の襲撃を警戒しているかのように・・・

全員で死骸のある大空洞を守ってやがる。何を企んでんだこいつら?まあでも-

「殲滅すりゃあいいだけか。」

 ヒロがクスリと嗤う。

-目立つ個体は・・・大空洞の南側の洞窟で待機してる1024体と・・・北東の袋小路に

いる2976体。西方に延びる洞窟にいる1874体も結構強そうだな・・・。激ヤバ

なのは中央の大広場に隣接してる南西の空洞で待機してる425体、それと隣の空洞

にいる616体。・・・んで、この地下洞窟で一番強い奴は・・・・・・やっぱ中心の大広場

で竜の死骸のすぐ近くに陣取ってる個体。ダントツでこいつだな。」

 ヒロがゆっくりと息を吐いた。

-こういうのって魔窟って言うんだっけ?マジで今回気付けて良かった。村のすぐ傍

に魔窟が出来てるとか洒落になんねーし。

 肩に担いでいた荷袋を地面に置く。

「さてと。どこから攻めるかなぁー・・・。」

 ヒロの指先が地面を指しながら滑らかに移動していく。

「やっぱ真ん中に陣取ってる一番強い奴からだな。先に殺っとくか。」

 一瞬で身体強化を終わらせたヒロの姿が瞬間移動で掻き消えた。



 完全な闇の中にいるはずだが、暗視と千里眼の祝福のおかげで、まるで陽の下に

いるかのように周りがはっきりと見渡せている。

 そしてヒロの眼前、僅か10mほど先で巨大な竜の死骸が黒い霧のようなもので

縛られており、驚くべき事に竜は死して尚もモゾモゾとうごめいていた。

 その悍ましい竜の死骸の前で腕組みをしていた人型の魔族・・・魔人がヒロの方を

振り返り、驚きの表情で固まった。

「・・・な、何者だ、貴様!!」

 ≪何言ってんのか分かんねーよ。念話も使えねーのかお前。≫

 突然自分の背後に現れた人間族の少年が、顔色一つ変えず念話で語り掛けてきな

がら大胆に近づいて来る異常な状況に、魔人は一瞬混乱した。

 ≪お前、ザブラって名前かー。称号は真祖?・・・吸鬼族の王なんだ。ふーん。≫

-な、なぜこいつは俺の名を!?・・・ああ、そうか、鑑定系の祝福持ちか!

 ザブラは警戒心を露にしつつも余裕の冷笑を浮かべた。

-鑑定系ならば戦闘能力なぞ皆無。恐れるに足らん。

「人間。どうやってここまで来たかは知らんが・・・迷い込んだ己の不運を恨むが

いい。」

 ザブラがありえない速度で地面を駆け抜ける。

 更に勢いを増して地面を蹴ると、強烈な飛び膝蹴りがヒロの顎を正確に捉えた。

 肉塊がひしゃげる感覚。

「脆いな、人間・・・っっ!?」

 その時、吸鬼王は気が付いた。

 ひしゃげたのは己の膝だった事を。

「ぐぅぁっっ!?」

 尋常ならざる衝撃とそれに続く激痛に思わず体勢を崩しながらも、ザブラは必死

に少年から距離を取る。

 ヒロは片手でザブラの蹴りを受け止めた瞬間、回復も再生も不可能な完全なる破壊

を齎す古代黒魔術「真滅」を撃ち込んで、ザブラの脚を破壊していた。

 その吸鬼王に対し、逆に神速で距離を詰める。

 ザブラが気付いた時には右腕が強引に捩じ上げられ、地面に突っ伏して動きが完全

に封じられていた。

-な、なんだこのガキっっ

「グッ、グアアアア!!」

 逃げ出すどころか、捻じ切れる寸前の腕を庇って身動き一つ取れず、ただ激痛を

堪えるしか出来ずにいる。

 刹那、背中が踏みつけられる衝撃と共に、物凄い破砕音が右肩から聞こえて腕が

引き千切られた。

「ウゥガアアアアッッッ・・・」

 そのまま背中を踏みつけられ動きを封じられたザブラは、激痛の中、生れて初めて人間族に「恐怖」を感じた。

「グフェッッ・・・グフォッ・・・グフォ‥‥ッ!」

 髪を掴まれ強引に顔が引き上げられると同時に、背中を踏みつける力が一層強く

なり、ザブラは己の胸部が急速に圧壊していっている事に気付いた。もはや呼吸も

出来なくなり、本能的に息を止める。

 ≪相手の力量も分かんねーのに飛び込んで来るとか・・・お前、戦闘は素人か?≫

 少年からの念話が聞こえた途端、ザブラは背中から胸部にかけて激しい衝撃を

感じた。

「ぐぇっはっっ!?」

 少年の右足がザブラの胴体を踏み抜いたのだ。

「カッハアアアアッ・・・ヒュー・・・ヒュー・・・」

 圧倒的な力の差。

 本来ならば、どんな外傷でも瞬時に完治、再生出来る「超回復」の派生能力が働く

はずなのだが、なぜか回復系、身体強化系の効果が尽く無効化されており、経験

した事の無い程の激痛と苦悶がザブラを襲った。

「ぐ、ふぅ・・・」

 ザブラの意識が遠のいた瞬間、今度は己の右の腿が踏み抜かれ、同時に掴まれて

いた髪が頭皮ごと引き千切れた感覚が走った。

「ギィャアッ・・・」

-な、何が起きてい・・・こいつはいったい・・・

 全ての魔族の王の中でも屈指の存在たる己が何も出来ず、ただ純粋な暴力と破壊を

経験している現実を受け止めきれないでいる。

 踏み抜かれた胸の大穴はギリギリのところで魂核を外れた様だが、体中から魔力

と力が急速に抜けていく感覚に襲われ、続いて体内を鋭い棘のついた鞭で叩かれて

いるかのような激痛と痺れを感じた。

 ザブラの全身が激しく痙攣しだし、苦痛の余り左手が地面を掻き毟る。

《最上級の古代黒魔術の呪詛3つブチ込んでっから逃げられねえぞ。・・・ん?なー

んだ。お前も古代黒魔術系の派生能力いっぱい持ってんじゃん。なら言わなくても

分かるか。》

 少年の念話が脳内に響くと同時に、少年の右手の五指が己の後頭部に突き立て

られ、吸鬼王は再び強引に顔を引き上げられた。

「ヒグ、、、ウウゥ・・・」

 目の前には、まだ幼さの残る人間族の顔。

「き・・・貴様・・・何者だ、なぜ・・・我等をお、ハァハァ・・・襲う・・・」

《何言ってんのか分かんねーっつってんだろが。念話くらい勉強して来いや。》

 少年の念話が脳内に響くと、少年の指が吸鬼王の頭により深く食い込んで高く

持ち上げ、背骨が限界以上に反り返って異常音を奏で始める。

 そして全身が断末魔を上げ始めた。

 この上ない恥辱と苦痛の中で、己の死を覚悟した吸鬼王ザブラと少年の視線が一瞬

重なり合う。

 吸鬼王は少年の右目の瞳孔が縦に裂け、赤く光っているのを見逃さなかった。

-り、竜眼・・・?な、・・・なぜ人間如きが竜眼を-

《思考も記憶も全部見せてもらったー。なんだお前、かなり悪い奴じゃん。・・・ま、

死んでよし。》

「まっ・・・待っ-」

「抽出。」

 吸鬼王の存在が永遠に消え去った。


 少年が振り返り、黒い霧に縛られ今も蠢く古竜の死骸、・・・強制的に死竜と化して

いる古竜に近づいていく。

 吐き気を覚える程に濃密な甘い香りと共に、剝き出しの骨や灰色と緑色に変色

した泡立つ筋肉が見えていた。

 そして、その翼と四肢は悶えるように小刻みに震えている。

「ひでーな・・・。お前も疲れたろ。ゆっくり休みな。」

 ヒロが手をかざすと醜悪過ぎる古竜の躰が一瞬で消え去った。

「さてと。」

 あらためて大空洞を見渡してみる。

 魔族達は、この大空洞から放射状に延びる各洞窟内に分散して配置されているよう

だが、こちらに向かって来る気配は全く無い。

「古竜の死骸を縛っていた封印結界のおかげで、音や振動が外部に漏れてないのか。

んー、洞窟はけっこう頑丈っぽいし・・・一発でっかいのブチかまして、ここに全部

集めますか・・・。」

 両手を胸の前で合わせると、少年を中心に黒炎が吹き荒れた。

「大掃除開始だ。」

 突如、巨大地下洞窟の中心部で巻き起こった轟音と激震に、魔族達は一斉に反応し、中央の大空洞を目指して動き出す。

 吸鬼、魔鬼、闇鬼と呼ばれる魔人の集団や、深紅に妖しく光る蝙蝠の群れと、漆黒

の鼠や巨大蜘蛛の群れ、そして魔狼と呼ばれる魔獣の群れが次々と大空洞になだれ込

んで来る。

 そして全ての魔族がヒロの存在を視認し、もの凄い勢いで突っ込んで来た。

「うわっ!ちょ・・・多っ!きもっ!!」

 ヒロは神速で範囲抽出を何十、何百と連発していく。

-おー!?どんだけ範囲連発しても、消費する生命力より回復量の方が上回ってん

じゃん!

「これ、永遠に無双出来るわ。」

 とはいえ、討伐が進むにつれて範囲抽出から漏れる超高速移動をする敵が目立って

きた。

-蝙蝠とか鼠とか素早いだけの雑魚が多過ぎだ!範囲やめて一匹づつ抽出とか面倒

臭過ぎて死ねるし・・・

「お前等・・・ちょい止まれぇっ!!」

 ヒロが吠えた瞬間、大空洞にいる全ての魔に属する者達がピタリと動きを止めた。

 この世のものとは思えぬ威厳と殺気を纏ったヒロの一喝に、魔族達は恐怖と驚愕

に満ちた目を向けて従った。

「おー。使えるじゃん、この力。」

 尋常ならざる威厳と威圧によって相手を畏怖させ、身も心も縛る古竜の能力、

威格強制である。

「掃除が捗る捗るぅ!うううおおおおおおおお!!!はいっ!はいっ!はいっ!」

 もの凄い速さで大空洞が綺麗に片付きだした。


「・・・ふうぅ、これでよーし。一応・・・処理出来たかな。」

 頭の中を駆け巡る文字に酔いそうになるが、文字を意識しないならまだ耐えられ

そうだ。

「うぷっ・・・。あとはここから逃げ出した奴等だけど-」

 意識を索敵に集中する。

-西に向かう洞窟を伝って219体が逃走中。・・・あとは・・・・・・ん?北東に延びる

洞窟に1体が逃・・・・・・ん?違うな。あれっ?

 ヒロが目を見開いた。

「・・・と、とりあえず西に逃げてる奴等から先に処理すっか。」

 ヒロは西に延びる洞窟に瞬間移動した。


 洞窟の中を高速で駆け抜けていた魔狼族の集団が、何者かの気配に気づいて

ピタリと足を止めた。

 そして一斉に前方に向けて警戒の唸り声を上げる。

「はい、魔狼の群れ見ぃーつけた。ってか、逃げてんじゃねえーよ。」

 ヒロが肩を回しながら姿を現した。

 そして臆することなく、魔狼の集団に近づいていく。

「ウウウウオオオオオオオオオオゥゥゥゥゥゥ!!!」

 先頭の巨大な魔狼が、ヒロの圧に耐えきれなくなったのか、洞窟が崩れるかと

思わせる程の強烈な咆哮を上げる。

「人の子よ、なぜ我等の邪魔をする!なぜ我等を襲う!」

「ん?お前は人間の言葉が話せんのか。ってか、俺が悪いみたいに言うじゃん。

こっちは正当防衛なんだが?最初に襲って来たのはお前等の頭の吸鬼王だし、俺を

見つけて真っ先に襲って来たのもお前等の方だろが。」

 ヒロが眼前の巨大な狼を見つめる。

「へー・・・お前、魔狼王なんかー。最上位種の王って核魂は特級っぽいけど・・・古竜王

みたいに神級の奴って中々いないのかな?やっぱお前の魂核も特級?もしかして神級

だったりする?」

 優しく微笑むヒロ。

 魔狼王ウォルはジリジリと後退しながらもグルルルゥッと盛大に威嚇を続けた。

「下郎がっ!」

 魔狼王の背後では、魔狼の群れが一斉に来た道を戻って行く。

 ヒロの視線が群れを追うと、魔狼王が間に割って入るかのように巨体を翻し、再び

強烈な咆哮を浴びせ掛けて来た。

「うるせーから黙れ。クソ犬。伏せ!」

 ヒロの「威嚇強制」が魔狼王ウォルを貫く。

 生れて初めて他者に感じる、異常な程の恐怖心と、心の底から湧き起こる畏怖の

念が魔狼の王を縛り上げる。

「グ、グゥ・・・。」

 ウォルは少年に対して頭を垂れ、地面に伏せた。

「ふーん・・・。自分が犠牲になってでも群れを逃がそうとしたのか、お前。」

 ヒロがゆっくりと手を前に出す。

「やっぱ魔族でも・・・王は王なんだな。」

 己の死を確信し、全てを諦めて黙り込んだ魔狼王の姿が忽然と消え去った。

 次の瞬間、ヒロは逃走中の魔狼の群れの真ん中に瞬間移動で姿を現し、一発の

範囲抽出で全てを抽出し終えた。

 少年はゆっくりと振り返り、完全に無音になった空虚な空間を見つめる。

「殲滅完了。」

 少年の声が沈黙した闇の中に消えていく。

「あとは北西の洞窟にいる奴だけど・・・・・・とりあえず見に行くか。」

 ヒロの姿が掻き消えた。


 地下洞窟の中央大広場から北西に向けて延びている洞窟-

 マントを羽織った人影が、光結晶石が入った小型のランタンを掲げて洞窟の中を

必死に駆け抜けていく。

-大きな音が聞こえて来たのは、こっちの方向であってるはずだけど・・・私の方向

感覚、仕事しろ!

 走っていた足を止め、何か音が聞こえないか耳を澄ませる。

-音が完全に消えちゃった。・・・でもあの爆発音、あれは絶対に採掘作業の音。

だったら人がいるはずだし、出口もあるはず!急がなきゃ!!

 まるで無限に続くかのように思える地下洞窟の遥か先を見つめた。

 そして再び走り出す。

「ハァハァ・・・」

 苦しそうな息遣いと足音が薄暗い洞窟内に反響し、そして吸収されていく。

「痛っ。・・・もう足が限界。でも・・・向かわなきゃ。」

 気力を振り絞って痛む足で踏みだし、再び走り出そうとした瞬間にマントが引っ張

られてのけ反った。

「ちょい待ち。」

「きゃあああっっ!!」

 いきなり背後から聞こえた声に驚き、思わず悲鳴を上げて蹲る。

「そのマントと軽防具、騎士団の人っすよね?装備も持たずに手ぶらでこんなとこ

いたら死ぬよ?」

 思いのほか優しい声音が頭上から聞こえてくる。

 恐る恐る見上げると、自分が落としたランタンの灯が少年の姿を浮き上がらせて

いた。

「うう・・・うわあああああん・・・」

 女騎士は突然現れたヒロに飛びついて泣き出した。

「ちょ、離して。く、苦しいから。離・・・してっ!」

「うああああああん・・・・・・」

 尚も必死に少年の体にしがみ付いた。


「で、なに。どうしたんすか。」

 やっと泣き止み、少し落ち着いてきた若い女騎士に話しかけてみる。

「総司令が・・・君が何か企んでるから・・・情報を集めて報告しろって・・・うっ・・・うう

う・・・」

 また泣き出した。

-なんでおっさんに俺の計画がバレてんだよ!バレる要素あったかぁ?・・・・・・あ、

経連に持ち込み増やしていいか聞いたからか?

 溜め息をついて少女を横目で見るヒロ。

「だから私、君を尾行して・・・」

-え!俺を尾行?・・・全く気付かなかった!!この人、ヘタレっぽいけどけっこう

優秀なのかも!?

「ど、どっから俺を尾行してたんすか?」

「き・・・昨日、ブルクに到着して・・・」

「昨日!!」

「保護院内の音を集音で聞、聞いたら・・・、君達が外泊の件で揉め・・・揉めてる声が

聞こえてきて・・・」

「集音ってなんすか?」

「私のし、・・・祝福。視認先の音を集めて聞く・・・の。」

「ほぉ。で?」

「き、君がドミの林に行くっていうから、そ、そのまま先回りして・・・ずっと待って

たけど誰も来な、来なくて・・・集音で周辺を探し回ってやっと動いてる人影を見つけ

たと思ったら、た・・・大樹の中に消えてっちゃって・・・」

「あー、うん。」

 -それ尾行ちゃうやん。

「いつまでたっても出て来ないから・・・樹に近づいてみたら急にドーンドーンって

地面が揺れて、馬が、・・・お、驚いて私、振り落とされて・・・そし、そしたらぽっか

り開いた穴から地下洞窟に滑り落ちちゃって・・・それで、それで、上がれなくて、

洞、洞窟で迷子になっ・・・うううう・・・」

-あー・・・、俺が派手に大空洞の広場で暴れたからかー

「なるほど。とりあえず体とか大丈夫っすか?」

「足痛いし・・・肩と背中も痛くてえ・・・うっうっ・・・ヒック・・・」

 ヒロは自分の古代神聖術を確認し、続いて今の戦いで新たに獲得した聖属性魔法

と見比べてみた。

 -どっちも上級で回復系の祝福があるけど・・・効果は断然古代神聖術の方が上か。

「ちょっと動かないでね。」

 ヒロの掌に光が収束する。

 古代神聖術の中の「完癒」という祝福により、女騎士は精神と全身が急速に癒さ

れ治癒していくのを感じ、それに伴い活力までもが満ちて来た。

「え、・・・・・・治った。」

 驚いた女騎士が泣き止む。

「おねーさん、名前聞いていい?」

「ディオン駐屯部隊、ニカロ斥候小隊所属の・・・マ、マキです。」

「とりあえず俺はこれで保護院に帰るんだけど、マキさんも戻った方がいいすよ。」

「道が分かんないのっ!つ、連れてってっ!」

「なら駐屯地まで送るね。」

「え、待って。報告出来る事が何も無いもん。・・・ディオンにはまだ戻れない。」

-助けられた挙句、なにか情報もよこせと?

「はあぁ・・・。んじゃ、とりあえず一緒に保護院に来ます?」

 溜息をつくヒロに、涙を拭いながら頷くマキ。

「念の為、手をつなぐよ。」

「え?」

「飛ぶんで。」

「飛ぶ?」

「空間転移。」

 空間転移?と聞きかけて、マキは少年と手をつないだまま、保護院の玄関前に

座り込んでいる事に気が付いた。


 保護院の食堂-

「いやー!ほんと戻って来て良かった!どうだい、やっぱり野宿なんかより落ち着く

だろー!」

「そんなの当たり前じゃん・・・。調べたかった事とか、意外とサクっと終わっちゃっ

てさ。」

 ヒロが野宿を止めて帰って来た安堵感からニコニコ顔のタツミが、ウンウンそう

だろそうだろと頷く。

「すみません・・・。急にお邪魔するどころか、夕食までご馳走になっちゃって-」

「かまいませんかまいません!貴方も大変でしたね!ほんとゆっくりしてって下さい

ね!」

 タツミがマキにも満面の笑みで微笑む。

「ありがとうございます。」

 湯浴みを終え、タツミの大きな木綿のシャツとダブダブのハーフパンツを借りて

着ているマキが申し訳なさそうに頭を下げた。

 が、その膝の上ではネルが「ここはもう俺の場所だ!」と言わんばかりに、ふん

ぞり返っていた。

 マキの隣にはエレナが座り、レース編みを教えてもらっている。

「ねえ、マキさん。この曲がるところって・・・」

「あ、そこはね、最初に入れる穴を飛ばして、こっちの穴に先に通すの。ここね。

・・・そして、こうして・・・こう。」

「なぁるほどぉ!」

 会って1刻も経っていないというのに、もはや完全に仲の良い姉妹のようである。

 老人ばかりの村で同世代や若い女子がいなかっただけに、エレナはすぐにマキを

姉の様に慕いだしていた。

 一方、マキはエレナに編み物のコツを教える合間にも、可愛くて仕方ないネルを

抱き締める事を忘れていないようだ。

「あ、マキさん。エレナの部屋にベッドが1つ空いてますから、今日はもう遅いし

泊まって行って下さい。明日の朝になれば洗って干してある服や装備も乾いてると

思いますから。」

 タツミが笑顔で薦める。

「でもなんか、本当にお世話になりっぱなしで・・・」

「いいじゃない!泊まって行って、マキさん!」

 お姉さんが出来た事がよほど嬉しいのか、エレナが必死に説得する。

 マキの膝の上では「逃がさんぞ」と言わんばかりにネルが勢い良く弾みだした。

「じゃ、じゃあ・・・あの・・・甘えさせて頂きます。」

「やったぁ!!」

「どうぞどうぞ!」

「よーし、じゃあ今夜はたくさん話そうね、エレナちゃん。」

 -ん?騎士団にエレナの報告をする気かな、この人。

 ヒロが苦笑して立ち上がった。

「じゃ、俺は湯浴みして寝るー。」

「はい、おやすみ!」

「おやすみ、ヒロ。」

「ヒロ君、今日は助けてくれてどうもでした。」

「いえいえー。マキさん、明日の午後にでも駐屯地まで送るよ。報告の事は心配

しなくていいから。」

「え?なんで?」

「とびっっきりの情報を駐屯地に着くまでに教えてあげるよ。サイモンのおっさん、

絶対に大騒ぎするはずだからさ・・・。まあ頑張ってね。」

「えっ?」

 ニヤニヤしながら何度か振り返りつつ、ヒロが扉の向こうに消えていった。



 -あああ・・・疲れたぁー。

 湯浴みをしてベッドに転がったヒロが大きく伸びをした。

 -眠いけど・・・今日の成果を確認だけしとくかぁー・・・。

 抽出情報に集中する。






 抽出管理始動



 抽出により

 吸鬼王の頭部1 吸鬼王の胴体1 吸鬼王の肢4

 闇鬼王の頭部1 闇鬼王の胴体1 闇鬼王の肢4

 魔鬼王の頭部2 魔鬼王の胴体1 魔鬼王の肢6

 魔狼王の頭部1 魔狼王の胴体1 魔狼王の肢4

 変異体:死古竜の頭部1 変異体:死古竜の胴体1 変異体:死古竜の肢6 

 吸鬼の頭部3612 吸鬼の胴体3612 吸鬼の肢14448

 闇鬼の頭部2989 闇鬼の胴体2989 闇鬼の肢11966

 魔鬼の頭部1876 魔鬼の胴体934 魔鬼の肢5872

 魔狼の頭部3011 魔狼の胴体3011 魔狼の肢12044

 紅蜘蛛の頭部8989 紅蜘蛛の胴体8989 紅蜘蛛の肢71912

 闇眼の頭部10934 闇眼の胴体10394

 魔鼠の頭部10431 魔鼠の胴体10431 魔鼠の肢41724

 召喚眷属各種の頭部2987 召喚眷属各種の胴体2879 召喚眷属各種の肢

 5998


 変異魔石1 特級魔石860 最上級魔石2628 上級魔石3498

 中級魔石42 下級魔石7 魔塊3498

  

 魔剣ヴォルガ1 魔剣バルクス1 呪剣アダンテ1 魔葬の宝剣1 鬼剣ダラス1

 旋風黒鞭1紅牙斧1 漆黒幻杖1 魔杖カルマ1 闇精霊の大杖1 べニエルの

 呪槍2 魂滅槍1 暗黒呪弓1 劫火の魔弓1 断罪の大鎌1 魔槌ファネル1

 黒炎盾2 守護の黒盾2 魔双樹の大盾1 

 魔装ウルツガルト1 魔装デスベラート1 魔装フォング1 魔装キュベロス1

 魔装ラグア1 魔装ギール1 獣装ゾディアン1 霊装ヴァラハラ1

 堕天使の血ローブ1 漆黒呪印のローブ1 幻想のローブ9 魔霧のローブ87

 真無月のマント22 血華のマント31

 魔手甲・死斬棘1 魔兜・闇血の蔽い1 滅天小手(風)56 滅天小手(火)56

 原罪の首輪1 傲慢の首輪1 彷徨の首輪1 古代魔女カラの腕輪1 魔双樹の

 腕輪1 混沌の指輪1 暴虐の指輪3 タナトゥスの指輪1 慟哭の指輪1 黒 

 魔印の耳飾り2 クエンスの耳飾り4 真魔の眼帯1 闇視の黒眼帯1 

 魔性の黒帯3 

 剣1257 槍869 弓1434 弩27 杖1121 槌76 棍棒91

 盾133

 重装備921 軽装備2036 ローブ2899 マント69 装飾具4256

 水の入った革袋992 松明148 トーチ88

 

 闇の宝珠1724 暗黒宝珠393 血の宝珠578 盟約の宝珠26 命の

 光珠764 時の光珠72

 カリム宝玉(赤)1989 カリム宝玉(青)822 カリム宝玉(黄)74 カリム

 宝玉(白)403 カリム宝玉(緑)126

 サヴィスの護符225 闇露の護符26 魔精霊の護符355 時の精霊ギウの

 護符28

 薬草ボロニ329 ルジェの牙442 デルアスの棘785 ヴァースの実535

 アスの実331

 アクシュの実22 サバロンティアの種489 カインの魔草464 アザリア

 の魔草572 ウェリの魔草89 ダリアンの魔草487 

 魔水晶石55 闇水晶石93 黒水晶石448 火水晶石450 水結晶石20

 土結晶石209 氷水晶石55

 水の封印結晶15903 火の封印結晶4091 養魔結晶体2005

 変異した死素結晶体1 

 魔砂309 魔水34894 暗黒素体4122 魔活性素体40905

 を獲得




 一次抽出

 熟練度            28698340775489

 魔力             臨界抽出に昇華

 霊力             289372

 胆力             6539863


 を獲得



 二次抽出

 祝福:

 身体強化を獲得        臨界抽出に昇華

 能力強化を獲得        臨界抽出に昇華

 能力増幅を獲得        臨界抽出に昇華

 精神強化を獲得        臨界抽出に昇華

 耐性強化を獲得        臨界抽出に昇華

 魔力強化を獲得        臨界抽出に昇華

 魔力増幅を獲得        臨界抽出に昇華

 自己回復を獲得        臨界抽出に昇華

 身体修復を獲得        臨界抽出に昇華

 生命再生を獲得        臨界抽出に昇華

 絶対防御を獲得        臨界抽出に昇華

 精神防御を獲得        臨界抽出に昇華

 物理防御を獲得        臨界抽出に昇華

 魔法防御を獲得        臨界抽出に昇華

 超回復を獲得         臨界抽出に昇華

 飛翔を獲得          臨界抽出に昇華

 神速を獲得          臨界抽出へ昇華

 瞬間移動を獲得        臨界抽出に昇華

 探知を獲得          臨界抽出に昇華

 察知を獲得          臨界抽出に昇華

 剣術を獲得          臨界抽出に昇華

 槍術を獲得          最上級へ昇華

 弓術を獲得          最上級へ昇華

 格闘術を獲得         臨界抽出に昇華

 暗殺術を獲得         最上級へ昇華          

 召喚術を獲得         最上級へ昇華

 錬金術を獲得         臨界抽出に昇華

 錬成術を獲得         臨界抽出に昇華

 封印術を獲得         臨界抽出に昇華

 結界術を獲得         臨界抽出に昇華

 操魔術を獲得         最上級へ昇華

 催眠術を獲得         最上級へ昇華

 狩猟を獲得          最上級へ昇華

 指揮を獲得          最上級へ昇華

 昏倒を獲得          最上級へ昇華

 昏睡を獲得          最上級へ昇華

 麻痺を獲得          最上級へ昇華

 混乱を獲得          最上級へ昇華

 暗黒化を獲得         最上級へ昇華

 精神汚染を獲得        最上級へ昇華

 思考阻害を獲得        臨界抽出に昇華

 記憶操作を獲得        最上級へ昇華

 奇襲攪乱を獲得        最上級へ昇華

 物理支配を獲得        臨界抽出に昇華

 精神支配を獲得        臨界抽出に昇華

 存在支配を獲得        臨界抽出に昇華

 暗視を獲得          臨界抽出に昇華

 憑依を獲得          最上級へ昇華

 幻覚を獲得          最上級へ昇華

 幻惑を獲得          最上級へ昇華

 魅了を獲得          最上級へ昇華

 魅惑を獲得          最上級へ昇華

 洗脳を獲得          最上級へ昇華

 調伏を獲得          最上級へ昇華

 索敵を獲得          最上級へ昇華

 解毒を獲得          最上級へ昇華

 解呪を獲得          最上級へ昇華

 擬態を獲得          最上級へ昇華

 偽装を獲得          最上級へ昇華

 影化を獲得          最上級へ昇華

 透化を獲得          最上級へ昇華

 消音を獲得          最上級へ昇華

 消臭を獲得          最上級へ昇華

 消気を獲得          最上級へ昇華

 隠形を獲得          最上級へ昇華

 鑑定を獲得          最上級へ昇華

 分析を獲得          最上級へ昇華

 解析を獲得          最上級へ昇華

 神判を獲得          最上級へ昇華

 闇言を獲得          臨界抽出に昇華

 魔言を獲得          臨界抽出に昇華

 滅言を獲得          臨界抽出に昇華

 呪言を獲得          臨界抽出に昇華

 呪詛を獲得          臨界抽出に昇華

 呪幻を獲得          臨界抽出に昇華

 呪操を獲得          臨界抽出に昇華

 呪縛を獲得          臨界抽出に昇華

 呪滅を獲得          臨界抽出に昇華

 呪力を獲得          臨界抽出に昇華

 吸力を獲得          最上級へ昇華

 闇糸を獲得          最上級へ昇華

 魔糸を獲得          最上級へ昇華

 呪糸を獲得          最上級へ昇華

 斬糸を獲得          最上級へ昇華

 爆糸を獲得          最上級へ昇華

 操糸を獲得          最上級へ昇華

 炎糸を獲得          最上級へ昇華

 縛糸を獲得          最上級へ昇華

 封糸を獲得          最上級へ昇華

 炎獄殺呪を獲得        最上級へ昇華

 暗黒呪言を獲得        最上級へ昇華

 魂魄操作を獲得        最上級へ昇華

 因果断絶を獲得        最上級へ昇華

 言語習得を獲得        最上級へ昇華

 調律調整を獲得        臨界抽出に昇華

 魔眼を獲得          臨界抽出に昇華

 邪眼を獲得          臨界抽出に昇華

 鬼眼を獲得          臨界抽出に昇華

 心眼を獲得          臨界抽出に昇華

 操眼を獲得          最上級へ昇華

 浄化を獲得          最上級へ昇華

 闇属性魔法を獲得       臨界抽出に昇華

 無属性魔法を獲得       臨界抽出に昇華

 火属性魔法を獲得       臨界抽出に昇華

 風属性魔法を獲得       臨界抽出に昇華

 土属性魔法を獲得       最上級へ昇華

 水属性魔法を獲得       最上級へ昇華

 聖属性魔法を獲得       上級へ昇華

 古代闇呪術を獲得       最上級へ昇華

 古代神聖術を獲得       上級へ昇華

 隷属化を獲得         臨界抽出に昇華

 眷属化を獲得         臨界抽出へ昇華

 加護付与を獲得        最上級へ昇華


 派生能力:          1755389を獲得




 三次抽出

 守護精霊   闇の大精霊ヴォ―ド 魔双樹の精霊シルヴィア 

 召還眷属   死霊王ゴルボ 不死女帝アデリア 暗黒騎士オルガ 従魔アグリ

        紅蝙蝠618 闇蜘蛛829 魔鼠1673

 誓約奴隷   魔族23 獣族244 精霊族1197 人間族107


 称号     真祖 吸鬼王 魔鬼王 闇鬼王 魔狼王 暴虐の支配者 黒英雄

        不死鬼 魔剣士 闇の守護者 黄昏の魔女 黎明の魔女 暗殺鬼

        殺戮の覇者 極火の狼

 加護     創造神 魔神 真祖 暗黒樹 深淵なる理 闇の大精霊ヴォ―ド

        魔双樹の精霊シルヴィア 


 効果     祝福強化各種 能力強化各種 心身強化各種 魔力強化各種

        胆力強化各種 霊力強化各種 耐久力強化各種 感覚強化各種

        興奮 狂暴化 暗視 死霊化 真祖の血呪 反魂呪刻 不死化

        魂核暴走 無限遅延 思考遮断 暴虐活性 無道活性 極大神圧

        大魔の呪詛 攪乱混迷 精神蹂躙 虚無 不動呪 暗黒緊縛 

        祝福無効化 神罰封詛


 を獲得


 同種・同系統の祝福、派生能力を統合済み

 同種・同系統の効果を統合済み


 称号     「魔を祓う者」「完殺者」「征服王」「制圧王」「覇王」「身儘の王」

        「破魔の支配者」「狂乱の覇者」「殲滅の狂王」 

 派生能力   「注入反転」「抽出反転」  


 を取得。



 抽出              臨界抽出に昇華

 一次抽出            臨界抽出に昇華

 二次抽出            臨界抽出に昇華

 三次抽出            臨界抽出に昇華

 範囲抽出            臨界抽出に昇華

 抽出管理            臨界抽出に昇華

 注入              臨界抽出に昇華

 心身調律            臨界抽出に昇華








「うっわ!・・・なんか凄い事になってるし!」

 思わず声が出る。

-臨界抽出ってなんだ?・・・・・・ああ!最上級を超えて更に上の段階に昇華したのか!

・・・最上級の成長限界を突破して、まだ加算継続状態が続いてる!・・・へー、最上級の

まだ先があったんだ・・・。数値化されてないって事は、つまりもう数値化とか段階

表記が出来ない域まで来てるって事だよな?

「うーむ・・・。」

 思わず唸るヒロ。

「とりあえずよしとする・・・か。お!?」

-今回は装備品も抽出出来てんじゃん!!・・・それに三次抽出・・・精霊に眷属に

奴隷、称号と加護までも抽出してんか!もう何でもかんでも抽出する気だろこれ!

それに効果?・・・あ、抽出したやつらにかかっていた特殊効果、異常状態も奪える

んかいっ!

「マジですげーな・・・。おっと、」

-抽出で奪った誓約奴隷に人間族がいる。あの魔族のクソ共め・・・。とりあえず

奴隷は種族関係無く全部解除しといてやるかー。俺いらねーし・・・。

 意識を集中すると1571個の誓約紋が宙に浮かぶ。

「隷属解除。隷属誓約解除。隷属刻印削除。」

 ヒロが呟くと誓約紋が空気に溶け込むように一斉に消えていった。

-これでよし。

 ヒロが大きな欠伸をする。

「んで・・・」

-抽出で奪ったのとは別に・・・新しい称号を9つ獲得。効果すげーな・・・生命力極大

増加、心身、祝福と派生能力・・・加護、称号、召喚眷属と守護精霊の極大強化とか

まである。それに超絶回復、超絶再生に成長調律、不老か。もう完全に突き抜け

ちゃった感・・・が・・・半端ねー・・・。

 瞼が重く感じた。

-・・・あと・・・派生能力2・・・つ。注入反転と抽出・・・反転・・・で・・・・・・元に戻せ・・・

る・・・

 少年は微睡みに堕ちて行った。



 翌日 ブルク郊外の昼下がり-

「でっ!?サイモン総司令が大騒ぎする情報ってなんなんですかっ!」

 収穫した青果をディオンの街に売りに行くというルーテル爺さんの荷馬車に同乗

させてもらう事にして、果物や野菜が入った木箱や樽に紛れて荷台で揺れているマキ

がヒロに尋ねた。

 もう馬車が出るというのに、エレナとネルと離れたくない、もう一日だけ一緒に

いると盛大に駄々をこねまくり、半分騙し討ちのようにして馬車に乗せられた為、

マキの言葉の端々が刺々しい。

「ちゃんと教えて下さいっ!!」

「鏡の森の地下に魔窟が出来てた・・・です、はい。」

「え?・・・ま、魔窟!?あそこって魔窟だったの!?」

「うん。魔族の中でも強そうな4部族が大集合してた感じ。各部族の王もいたし。

数は全部で4万越してたかな。」

「えっ、待って!?あそこに・・・魔王4体、魔族が4万体もいたの!?」

「うん。いたねー。」

 -わ、私・・・本当に死にかけてたんじゃ・・・

 改めて身震いするマキ。

「それが本当なら、その数は駐屯部隊だけじゃとてもじゃないけど対応できない

わ。大至急で王都に応援要請を出して、隣国とも共闘-」

「ん?いや、もう処理したよ。」

「処理って?」

「殺した。」

「誰が?」

「俺が。」

「何を?」

「魔族。全部。」

「ふぅ・・・・・・」

 マキが空の雲を眺める。

 長閑な時間が流れた。

「あ、嘘だよね?」

「本当っす。」

 再びマキが空の雲を眺める。

 長閑な時間が流れた。

「・・・あの、マキさん」

「待って!も、もしかしてだけど、黒竜の群れを一瞬で倒した謎の人物って・・・・・・君

の事っ!?」

「えっと、ドミの林の件なら俺だけど。でも内緒にしといてね。目立ちたくない

からさ。とりあえず経連への納品の件なんだけど、吸鬼、魔鬼、闇鬼と魔狼、その他

雑魚と召喚されてた眷属とかも含めて、全部合わせて4万匹分の魂核と死骸と装備

を追加するって、サイモンのおっさんに伝えといてもらっていい?」

「ふぅ・・・・・・」

 マキが空の雲を眺める。

 長閑な時間が流れた。

「あの・・・ね。吸鬼、魔鬼、闇鬼って・・・最上位種の第6類強種に分類されてるけど、

災害級の個体がいっぱい居過ぎて・・・実質第7類強種の部族だって言われてて、地獄

の三鬼族とかって呼ばれてるんだけど・・・ね。」

「あー、だろうねー。」

「あ、それに魔狼って魔神の眷属って言われてるの。騎士団でも討伐の前例が無い

し、記録も文献も残ってないんだ。襲われたら人、皆死んじゃってるから。分類上

は第7類強種に属してるんだけど・・・」

「へー。」

「それも全部倒しちゃったんだ?」

「秒殺。」

「ふぅ・・・・・・」

 マキが空の雲を眺める。

 長閑な時間が流れる。

「う、疑う訳じゃ無いけどなんかおかしくない!?そもそも君は魔窟の存在をどこで

知ったの!?」

「マキさん、最上位種の竜の死骸ってさ、ツグの実に似た独特の変な甘い匂いがする

って知ってた?」

「し・・・知らないけど。」

「ドミの林で古竜王を倒した時にすげー臭かったんだよ。・・・で、少し前にあのドミ

の大樹の中からもそれと同じ、独特な匂いがしてた事を思い出したんだよねー。」

「あ、君が消えたあの大きなドミの樹?」

「そそ。」

 -甘い匂い・・・そういえば確かに・・・

「だからあの樹の麓のどっかに古竜の死骸が埋まってるはずだって思ってさ。ついで

にそれも見つけて掘り起こせば、素材を経連に売って金になるじゃん?だからマキ

さんも集音で聞いてた通り、泊まり込みを強行して掘り起こしに行って、樹の洞の

中を探ってみたら魔窟につながる穴を見つけたって流れ。」

「・・・・・・。」

「で、まあ、とりあえず魔窟に突入して、一番偉そうにしてた吸鬼王の頭の中を覗いたんだよ。おかげで色々と分かってさ。で、とりあえず殺-」

「ま、待って。頭の中を覗くって何?どうやって覗いたの?。」

「ん?普通に後頭部を掴んで持ち上げて、こう。・・・で、竜眼で見た。」

「そ、・・・そうなんだー。吸、吸鬼王の後頭部をね・・・へ、へー・・・。え?竜眼?」

「うん。あとはちゃっちゃっと魔窟を大掃除してマキさん拾って帰宅。」

「大掃除?」

「全殺し。」

 ヒロが人差し指を上方に向ける。

 釣られてその方向にマキが視線を向けると、耳元でチュィンッ!と音がして風圧で

顔が歪み、遥か先の岩山に光線が大きな風穴を開けた。

「ふぅ・・・・・・」

 長閑な時間が流れる。

「今まで生意気な話し方してすみませんでした。反省してます。本当です。許して

下さい。」

 マキが頭を下げる。

「え、怒ってないっすよ?」

 長閑な時間が流れた。


 ディオンの街の外壁門で、2人はルーテル爺の馬車から降りた。

「ありがとうね、ルテ爺!また岩兎捕まえて持っていくね!」

「うんうん。気ぃ付けてな。」

「ルーテルさん、ありがとうございました!本当に助かりました!!」

 マキが頭を下げる。

「うんうん。また村に遊びにくりゃーええ。」

 ルーテルが笑って手を振ると、手綱を引いて馬車を出発させた。

「報告は任せて。総司令に一字一句正確に伝えておくわ。」

「うん、よろしく。昨日の時点では地下洞窟に魔族は残ってなかったけど、また変な

のに棲み憑かれてもウザいっしょ。どう管理するかはそっちで決めてもろて。」

「そうね。実際に魔窟になった実績のある地下洞窟だし、放置してたら魔窟どころか

迷宮化する可能性だってあるかも。騎士団で早急に対応します。」

「うっす。じゃ、俺帰るね。」

「待って。最後にひとつだけ聞きたいんだけど!」

「何?」

「吸鬼王の頭の中を覗いたって話。」

「ん?」

「色々分かったって言ったよね。・・・他に何が分かったの?」

 マキがヒロを見つめる。

「鏡の森に古竜王と黒竜の群れが現れたと思ったら、次は地下に魔窟が出来てて

三鬼族と魔狼達でしょ。魔族の最上位種が余りにもあの森に集まり過ぎてる。あそこ

でいったい何が起きてるの?」

 マキからの視線が痛い。

「んー。そうだなー・・・」

 ヒロが頭を掻いた。

「分かっているのは、魔族の中で内紛が起きてたって事。仕掛けたのは吸鬼王。

あいつは魔族の中の一部族の王って立場に満足出来てなかったんだ。魔王じゃなく

魔神になりたかったんだよ。・・・全ての魔族の頂点にね。」


 天族、精霊族、魔族、獣族、人間族。

 五大種族にはそれぞれ神たる者がいるとされている。それらを総じて五神柱と

呼ぶ者も多い。

 誰がいつ、どのようにして神になったのか、神になれたのかは分からない。

 古来よりの言い伝えでは、全てはこの世界と全ての理を創った天族の「神」、

創造神マルドゥクスによる「召し」だとも言われているが、その真偽は謎のまま

である。


「これ以上の事は今はまだ言えないかな。ってか、この事はサイモンさんにも黙って

て欲しいんだ。何か分かったら俺からちゃんと報告するよ。」

 ヒロの脳裏に、吸鬼王の記憶に残っていた緋色のローブを着た男の姿が浮かんだ。

 あの「死古竜」という限りなく魔神に近い存在・・・未曽有の力を宿す魔物を造り

出すのに必要な古代遺物や古代呪物と方法、それら全てを吸鬼王に授けた男。

 ≪この究極の力を従え魔神の座を奪え。貴殿が新たな魔神となれ。≫などと魔族間

の争いを焚きつけ、動乱を起こそうとしていた「人間族」の男。

 -他種族の戦争を煽るとか、何考えてんだあの馬鹿は。・・・ツラは覚えたからな。

「じゃ、そういうことで。またね、マキさん。」

 ヒロの姿が掻き消えた。



 翌日-

「ただいまー!今日は森兎と甘茸が採れたよー。」

「お!お帰りヒロ。ほお、甘茸か!珍しいね!」

「お帰りなさい。ネルが喜びそう!」

 エレナがヒロから荷籠を受け取る。

「今日も抽出で試したい事があるって言ってたけど、研究の成果はどうだったんだ

い?」

「うん、色々分かった!でも、抽出って誰に聞いても分からないしさー、まだまだ謎

が多いんだけどねー。」

「そりゃそうだろうなぁ・・・。ま、焦らずじっくり調べればいいさ。」

 腕をまくりエプロンを手に取ったタツミが、ヒロの肩を叩いて微笑んだ。

「うん。」

 猪のように走りこんで来たネルを抱き止めた勢いで、ヒロは食堂の長椅子に

ドサッと座り込んだ。

 ヒロにとって今日は非常に有意義な一日だったといえる。

 叡智聡明と竜眼、慧眼、看破と鑑定を使いながら、森の動物やごくたまーに遭遇

する魔族や獣族を相手に、抽出と派生能力の検証を繰り返し、自分が持つこの特異

な力について理解を深める事が出来た。


 ・どんな対象にでも「注入」する事が出来るので、祝福の他者への譲渡が可能。

  また武器、装備への付与も可能。

 ・ただし熟練度だけは注入が出来なかった。どうやら創造神の定めた理に反して

  いる模様。

 ・抽出物の貯蔵空間は無限、無時間の特殊な異空間だった。


 などが今回の研究成果である。


「あ、そうだ。タツミー、魔装とか魔剣って見た事ある?」

 ヒロは魔窟での戦いで抽出した武器や防具を思い出し、ふとタツミに尋ねてみ

た。

「ん?いきなりどうしたんだい?」

「いや、ちょっと街で魔剣の噂を聞いたというか聞いたっぽいというか。・・・なんか

性能とか凄いんでしょ?」

「うーん、そうだね。どっちも現物なら何度か見た事あるよ。・・・そもそも魔剣や

魔装というのはね、創造神マルドゥクスが作ったとされる、特別な武器や防具一式

を指す言葉なんだ。防具は魔装と呼ばれて、重装鎧、軽装防具、法衣だったりする

んだけど、仕様的にはこの3種類が主だと思う。対して剣を含め武器類は魔器と呼ば

れていてね、防具とは違って種類はかなり多い。確か確認されているだけでも100

種類を超えていたはずだよ。使い方が分からない武器まであるって話だしね。僕が

見たのは魔剣と魔槍と魔鞭、鎖が付いた投擲用武器みたいなのもあったなぁ・・・。

でね、魔器も魔装も例外無く高品質で、国宝級の逸品ばかりなんだよ。まあ、そう

評価されるだけの大きな特徴があるんだけどね。」

「特徴?」

「例えば、魔装には「マルドゥクスの恩寵」という呼ばれる特殊効果が付与されて

いて、装備ごとに特別な祝福の効果が付与されているんだよ。」

「へえー!」

「マルドゥクスの恩寵には別の効果もあって、魔装装着者が所有している誓約奴隷が

持っている祝福を自由に使う事も出来るようになるんだ。」

「ん?まぁじで?」

「うん。もちろん行使出来る祝福の数には限界があるらしいけど、装備によって違う

みたいだね。・・・まあ、一人に一つだけという祝福の理を超えて、一夜にして複数の

祝福持ちになれる夢の衣装という訳さ。それにね、誓約奴隷の祝福を代理行使した

時に消費する生命力や魔力、霊力なんかは、当の誓約奴隷から消費されるもんだか

ら、装備者自身の負担は実際皆無に等しい。」

「ほおお・・・」

 -そういや、吸鬼王も死古竜を誓約奴隷にして自分の魔装に組み込もうとしてた

し・・・今考えたらとんでもねえな。

「まあ、嫌な言い方をすると、どの種族でも奴隷制度や奴隷売買が無くならずに横行

している理由の一つがこれなんだよ。国も金持ち連中も競ってそうした特殊装備の力

を欲するし、その種の欲望は際限が無いから。」

「・・・ほーん。なるほど。」

「他にも聖装、霊装、獣装、武器なら聖器、霊器、獣器と呼ばれる装備もあるんだ

けど、呼び方が違うだけで同じものと考えていいよ。」

「へー、そうなんだ。」

「ただし、問題が一点。そういう特殊装備は誰でも装着出来るわけじゃないんだ。

それぞれ装備条件というのがあってだね、条件が厳しいと熟練度の指定があったり、

特定の種族や部族だけとか、性別や年齢、特定の称号や加護が必要って場合もある。

だから装備条件が緩ければ緩い程、高価だったりするねえ。」

「タツミ、詳しいね。」

「こう見えても元冒険者だぞ。そういう情報交換が一番盛んな人種だから。」

「魔器とか聖器?とか、そういう武器類も同じように特殊な効果があんの?」

「そうだね。武器にも「マルドゥクスの恩寵」の効果が付されているし、装備条件

となる様々な縛りもある。でもそれは武器防具だけに限ったものじゃないんだ。

防具以外の装備品とか装飾品、道具類にもあったりするんだよ。」

「へー!」

「ま、いずれにせよ「マルドゥクスの恩寵」が付与されている装備や装飾品は固有

の名前が付いているんだ。鑑定とかしてもらった時に装備の固有名が付いていれば

大当たりだね。だからこの種の品は一括りに「名前付き」とも呼ばれたりしてるん

だよ。覚えておくといい。」

「ふーん・・・。色々あんだねー。」

「あるんだよー。あとはそうだなぁ・・・あ、そうそう!そういう名前付き装備よりも

更に上位の装備が実はあってね・・・」

「まだ上があんの?」

「まあ、ここまでくると神話とか伝承とかの域になっちゃうんだけどね。各種族の

神達・・・五神柱の為だけにマルドゥクスが創ったとされる装備があるとされている。

神装とか神器って呼ばれてるけど、なんか夢があるよねー!」

「いやー、あんま憧れないかも・・・。とりあえず俺はこの服で十分だわ。」

 ヒロの呆れ顔に、タツミが笑った。


 翌日-

「ただいまー!」

 皆で朝ご飯を食べていると、カイトが保護院に入って来た。

「え!?」

「カイトじゃん!!」

「お、お帰り!!」

 ネルが猪のようにカイトに突進していく。

「おっす、ネル。みんな、ただいま!・・・おいヒロ、お前やりやがったな。」

「おはようございます!」

 カイトの後ろからマキが顔を出した。

「あ、マキさんも!」

「どうも、ヒロ君。二日ぶりね!」

「マキちゃん!!」

「おや!?君達どうしたんだい!?」

 駆け寄っていくエレナの背後で、タツミが驚いて目を丸くしている。

 案の定、カイトに抱き上げられていたネルをマキが強奪した。

「2人とも急にどうしたの!?」

 エレナが嬉しそうに声を上げると、カイトが窓の外をクイクイと指差す。

 釣られて視線を向けたタツミとエレナが思わず窓の外を二度見した。

 外には、完全武装したディオン駐屯騎士団の大部隊が続々と到着しているよう

だった。

 そしてついに、筋肉お化け副指令が保護院に入って来た。


「・・・という訳なんだ。それでタツミ殿、ヒロ少年を少しの間だけ借り受けたい。

彼が魔窟に関して一番詳しいし、何よりも彼に現場の封鎖と封印の助力を願いたい

のだ。どうか許可して貰えないだろうか。」

「そ、それはいいですが・・・ヒロ、今の話は本当なのかい?」

 まだあまり話を飲み込めてないタツミが複雑な表情で尋ねる。

「あー・・・、まあその、本当というかー、そういう感じというか。・・・ま、魔窟は

たまたま見つけただけなんで・・・俺は何も・・・」

「はあぁ・・・。」

 タツミが溜め息をつく。

「たまたまだったんだよ、たまたま!ついでだし、ちょっと森の地下洞窟を探検

したって感じ!」

「ヒロ。君はたまたまちょっと探検して40000もの魔族と戦ったんだね?」

 タツミがヒロの目を見つめる。

「どうしてその事を私に隠してたんだい?」

 タツミの圧に負けてヒロは視線を外した。

「だって変に心配かけたくなかったし・・・それに戦ったっていうかー・・・ちょ、ちょっ

と掃除しただけだし・・・」

「副指令殿、とりあえず分かりました。この子に取らせるべき責任もあるでしょう。

ヒロ。騎士団の皆さんがわざわざ一緒に行って下さるんだ。ちゃんと後始末をして

おいで。話はそれからにしよう。」

 タツミがカエラに向き直って深く頭を下げる。

「この子をよろしくお願いします。」

「あ、いや、待ってくれタツミ殿。誤解をさせてしまって申し訳ない。ヒロ少年は

悪さをした訳ではないのだ。寧ろ彼はこれ以上ない素晴らしい働きをしてくれた。

この村を、しいてはこの国を救ったと言っても過言ではないのだからな。王国も今回

の働きを見過ごす事はないだろう。貴殿には保護者として是非とも胸を張って頂き

たい。」

「そ、・・・そうですか!あ、ありがとうございます!」

 息子の失敗を懺悔する父親の顔から、我が子を自慢する父親の顔に変わっていく

タツミ。

「ですが、今後はこういう無茶をしないようによく言って聞かせますので。」

「ああ、そうしてもらえると助かる。」

 カエラが笑った。

「じゃあ少年、」

「待って、カエラさん。今から俺が騎士団と一緒に森に入って行ったら、村の人達に

悪目立ちしない?なんか色々と周りにバレたりすんじゃない?」

 面倒臭い仕事から抜け出そうと、必死に知恵を絞り出すヒロ。

「確かにそうだな・・・。では、騎士達で君をガッチリ囲んで行くか!外から見えない

ように!」

「よけい怪しいって。もうそれ犯人の護送じゃん。」

 ヒロが苦笑した。

「いいよ、俺が今から魔窟の地図書くから。地図さえあれば俺が居ても居なくても

一緒でしょ。あと・・・」

 ヒロがカイトを見た。

「カイトにこの子やるよ。もしも洞窟に魔族が戻って来てたら、この子を呼べば瞬殺

してくれっから。」

 ヒロがカイトに「召喚眷属:暗黒騎士オルガ」を注入する。

「あとこれも・・・祝福の成長速度を加速させるんだと。」

 続けて「会得促進:最上級」をカイトに注入した。

「剣の練習頑張れよ!」

 カイトの頭の中に次々に文字が走る。

「え?えっっ!?」

「マキさんにはこれ。ズバリ、結界術!」

 マキに「結界術:最上級」を注入する。

「えっ!?こ、これって・・・!?」

「もう分かったと思うけど、その祝福は回復結界、防御結界、殲滅結界、封印結界の

4つの術が使えるから。生命力はそこそこ消費するけど、あの魔窟の広さくらいの

封印ならマキさんでも大丈夫だよ。疲労感は感じるだろうけど立てない程じゃない

はず。ま、余裕っしょ。俺の代わりに封印を頑張って。で、・・・カエラさんには-」

「ま、待て、少年!いったい何をやって-」

 問答無用でヒロがカエラに「真祖の加護」を注入した。


 真祖の加護:心身強化・筋力向上・体力向上・瞬発力向上・移動速度向上・

       自己治癒力向上・自己再生力向上・老化遅延・危険察知 を獲得


 カエラの脳内に文字が走る。

「な、・・・何だこれは!!加護!?・・・ち、力が湧いて来る・・・!!」

「実は俺さ、抽出したものは注入を使って他の人に渡したり、物とかに付与して

渡せたりするんだよ。カエラさんにはカイトを助けてもらった恩があるし、それ

あげる。けっこう良いっしょ。」

 ヒロが笑う。

「あと、エレナには鑑定やるよ鑑定。これ便利でけっこう使えるからなー。エレナ

の「算術」なら商人関連の仕事に就くだろうし、相性良いはず。」

「はい?え、待って、」

 エレナに「鑑定:最上級」を注入する。

「わわ!!」

 目を丸くするエレナ。

「で、タツミにはこれね。」

 タツミに「魅了:最上級」を注入する。

「・・・ん?え?なんだ・・・これ!!なぜ祝福の能力が・・・私に・・・えっ?」

「タツミ、今の俺の話聞いてなかっただろ?・・・ま、いいけど。」

 ヒロが溜め息をついた。

「タツミさー、俺達の世話ばっかで女の人と出会えてないし、付き合おうともして

ないじゃん?だからこの祝福で良い人見つけて結婚まで頑張って。使いどころ

間違ったら人生終わるよ。」

「え・・・おいおい・・・。」

「甲斐性とかの祝福があったらそれも注入するんだけどさー・・・。」

「お、大きなお世話だ!」

 タツミが照れ隠しにヒロを背後から羽交い絞めにした。

「少、少年?これはつまり・・・」

「さっき言った通り。俺が抽出した祝福を皆に注入した。俺はどうせまたすぐ抽出

して覚えちゃうし、お裾分けってやつ。」

 カエラが何かを確かめる様に肩を回し、両の掌を何度か握り締めて黙り込む。

 そして真剣な眼差しをヒロに向けた。

「少年、今の能力は絶対に他言無用だ。いいか、何があろうと絶対に秘匿する

んだ。君がしている事は創造神マルドゥクスの御業、能力の引き継ぎに他ならない。

世界は君を奪う為に必ず殺し合いを始めるだろう。・・・だからこそ、この能力は必ず

秘匿し、行使する際は細心の注意を払うんだ。・・・いいかい?理解出来ようが出来ま

いが、今はこの言葉を心に刻んでくれ。この力は絶対に秘匿するんだ、少年。」

 カエラの言葉を聞き、ヒロはカエラを見つめ、そして床を見つめた。

-確かにこの人の言う通りだ。・・・俺、自分の祝福に浮かれて何も考えて無かった

かも。

「うん・・・確かにそうっすね。分かった。ちゃんとここに刻んだ。」

 ヒロが胸の中心を親指で突いた。

「よし。・・・皆も絶対にこの事を他言しないよう、くれぐれも注意してくれ。相手が

例え総司令でも、領主や国王であったとしてもだ。皆がクリシュナの平和を願い、

少年の今後の幸せを思うのなら、今日の出来事は秘密にしたまま各自墓場まで持って

行くんだ。」

 カイトとマキが真剣な顔で敬礼をして応じ、エレナは隣でカクカクと何度も頷い

た。

「大事な事に気付かせてくれて感謝します。カエラさん。ヒロ、」

 タツミがヒロの頭に手を置き、頭を下げさせると同時に自分も深く頭を下げた。

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。心から礼を言うぞ少年。・・・この加護、ありが

たく使わせて頂く!」

 いきなり抱き締められたヒロは、自分の骨が軋む音を初めて聞いた。





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