心に残る魔法

@lucksann

第1話 変わりゆく生活の始まりを告げる?

 私は人の笑った顔を見るのが好きだ。笑った時に見せるビー玉みたいなキラキラした瞳を見るのが好きだからだ。私の中ではどんなものと比べても、一番心惹かれたものは笑顔でずっと見ていたいと思えるほどだった。だから不器用なりに色んな人に笑ってもらえるように、そして笑顔が見たいから楽しいを振りまける仕事に就職したいと思いイベントプランナーという仕事に就いた。だけどどんなに楽しいを振りまけても私の心はどこかポッカリ穴が空いてて、満たされるはずの心が満たされていなかった。


肌寒い朝、鳴り響くアラームに起こされて嫌々ながらも起き上がる。朝ごはんを食べて、身支度を整え鏡の前でどうにもならない癖毛と目つきの悪い目を見てどうすれば改善されるかと考えながら家を出ていく。そして満員電車の人混みに押し潰されながら会社の最寄りまで行き降りて会社に向かう。そんないつもと変わらない日々を今日も過ごす。そう思っていた。いや、途中まではいつも通りだった。多分自分から狂うような行動をしなければいつも通りの日々がずっと続いていたはずだ。だけど今日は違った。電車に降りて会社に向かっていると小学一年生ぐらいの子が膝を怪我して泣いていた。周りの大人たちは会社に急いでいたのか、それともすぐ泣き止むだろうと思っていたのか通り過ぎていく人たちが多かった。だけど私はその子を放っておくことができなかった。私は笑っている姿を見るのが好きだ。だからこそ泣いている姿は見たくなくてこの子が笑えるようにと思い近づいた。


「大丈夫?少し待っててね。」


そうして私は鞄から持ち歩いていたポーチから絆創膏などを出して消毒をしてから貼ってあげた。


「これで大丈夫。もう痛くない?」


だけどその子はまだ痛そうで涙目で傷を見ていた。私はこういう時こそ笑かせばいいのでは!?と思い考えた結果簡単なマジックを見せてあげることにした。


「ねぇ。お姉さんの手。よく見てて」

「?……ひっっ…うわぁぁぁぁぁん!」


まずい、泣かせてしまった。一体何のマジックしたのかというとあの親指が取れちゃった!というかの有名なマジックをしたのだが小学一年生、本当に取れたと受け取ったのだろう。イベントプランナーという職業に就いてから少しは不器用がマシになったかと思ったが、まだまだやはり不器用だったのだろうと思い泣いているこの子を見てどうしようと慌てふためていた。


「これはこれは!どうしたんだい?そこの小さなレディ?」


誰だ?と思い振り返ってみるとそこには白髪が混じった灰色の髪で、髭が生えていて、それでいてスーツがとても似合ういわゆるイケオジがいた。


「む!どうしたんだい?あー怪我をしてしまったから泣いているのか!どれどれ私が笑顔になるおまじないをかけてあげよう!私の手をよ〜〜〜く見て〜…」


私と同じ方法で彼はこの子を笑わせようとしているのだろうか?そう思い私も彼の手を見ていた。


「ん〜〜……はっっ!」


『ポンっ!』


ポンっ!という音と共に彼の手からカーネーションが出てきた。そしてそれと同時に女の子からキラキラな笑顔も飛び出していた。


「おじいちゃんすごい!魔法みたい!」


まさにその通りだった。手品の道具などもなさそうだったし、そもそも用意してたらそれこそ怖い、本当に魔法のようだと大人ながら思ってしまった。


「ふん!すごいだろう!小さなレディが言う通りこれは魔法さ!これはおじいちゃんと小さなレディ、そしてお嬢さんの3人の秘密!ということで!ほら!笑顔になったことだし元気に学校に行ってきなさい!」

「うん!ありがとう!おじいちゃん!お姉さんも!ありがとう!」

「え、あ、うんバイバイ」


その子は私たちにそうやって挨拶をした後カーネーションを片手に元気に学校に行っていた。今回私は笑わせようとしたけど、結果は泣かせてしまった。こんな不器用な自分が嫌になってしまう。まだまだ経験不足ということか、と思い会社に行く足を進めようと助けれくれたイケオジに一声かける。


「ありがとうございました。では私はこれで。」


そう会釈してその場を立ち去るつもりでいた。


「お嬢さん!少し待ってくれたまえ。」


なんだろう?そう思い振り返ってみると


「もう一度私の手をよ〜〜く見て〜〜…」


彼は先ほど女の子を喜ばせた手品をしようとしているのか?と思いもう一度よく手を見てみると。


「はっ!」


『ポンっ』


音と共に出てきた花は先ほどとは違い一本の赤いバラのブーケだった。違う花も出せるのか!本当に魔法なのだろうか。


「お嬢さんの笑顔が見れてよかったよかった!今日は良い1日になりそうだ!」


笑顔…さっき魔法なのかと思った時私は無意識に笑っていたのか。


「ありがとう…ございます。」


そうしてもう一度別れを告げた後私は会社に向かった。




「あ!紬ちゃんおはよっ……えっ…ど、どうしたの紬ちゃ……!?」


会社に着いてからの第一声が同僚の茉白ちゃんの驚きを隠せない声。


「何か…変?」

「いや変ではないんだよ!?変ではないんだけど……今までにないくらいの笑顔してるから…」


笑顔…まだ先ほどのイケオジが見してくれた魔法とやらに心踊らされているのだろうか。こんなに笑ったのは久々かもしれない。


「ん?紬ちゃんそのバラどうしたの?」

「あ、これ?」


私は茉白ちゃんにことの経緯を話した。


「えー!何それ〜!めっっちゃ!ときめく〜!ちょっと見してくれない?」


そう言われ私は彼女にバラを渡した。


「うわ〜なんというかロマンチック〜!紳士的なおじさまっていいよねぇ〜!憧れる〜!」


憧れるのも無理はない。確かにあれは世に言う『イケオジ』だったのだから。


「で!どんな人だったの!」

「どんな人?えーと、髪が白髪が入った灰色で髭が生えてて、それでいて身なりはすごく綺麗で…スーツがすごく似合ってた。…あーあと。すごく…元気?愉快?喋り方がなんていうか…胡散臭い人だった。」


事実だ。だって女の子のこと小さなレディって言い方してたし。


「へ〜不思議な人だったんだねぇ〜。ん?なにこれ?ブーケになんか挟まって…ねぇ!これ!」

「ん?どうしたの?」


彼女は興奮気味にメッセージカードを持っていてそのカードをよく見てみると『柳沢 威』そして電話番号が書かれていた。


「ナンパ…?いやそんなまさか私如きが…。」

「いやナンパじゃない!?ナンパじゃない!?紬ちゃんやる〜!」


そんなやる〜!と言われてもなぁと思いメッセージカードを見つめていた。


「連絡はするよね!?」

「え?しない…と思うけど。」

「えー!しないの!?だって聞いてる限りいい人そうじゃん!絶対するべきだって〜!」


そう…なのだろうか…普通はしないと思うが。だけどまぁまた話したいと思える程にはいい人だなぁとは思っている。そしてまた魔法が見たいなと思う自分もどこかにいるのだ。




「つっっかれた〜…」


疲れ果てた。仕事から帰ってきて片手に鞄ともう片方の手にはコンビニ弁当が入ったビニール袋を持ってリビングにへたり込む。ここのところ仕事が忙しすぎて自炊ができていない。そのためコンビニ弁当を買う日々。


「お風呂…」


疲れた体を頑張って動かす。お風呂に入って上がったら家事を一通り終わらせてテレビを見ながら買ったコンビニ弁当を食べる。家に帰っても一人暮らしのため誰もいない。朝起きて、会社に行き、人をどうやったら笑顔にできるか考え、疲れ果てて家に帰ってきて眠る。その繰り返し。今思えば私はみんなの笑顔のことを考えてはいるが。自分が笑顔になるようなことはここしばらく考えていない気がする。いつからだろうか。全く覚えていないほど私は…。だけど今日は少し違った。柳沢さんの魔法とやらに心踊らされ無意識のうちに笑顔になっていた。今でもまだあの時感じたワクワクを忘れてはいない。また…あんなふうにワクワクできたら。笑顔になれたらきっと毎日前向きに生きられるんだろう。そう考えているうち私は寝る準備を終えてベッドの上でメッセージカードと睨めっこしていた。


「電話…していいのだろうか…でも普通はしないよね…。」


悩みに悩む。スルーすることもできるがここで電話をしなければ私はまたいつも通り笑顔のない、色のない生活に戻ってしまうのではないか。ふと思ってしまう。そう頭で考えてしまうと何か悲しくて、寂しくて私は意を決して電話をすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心に残る魔法 @lucksann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ