選択肢
@Ezaki28
第1話 おかしな本を拾って。
とある春の日、俺は一冊の本を拾った。装飾の丁寧なその本は、題名が書かれているべきところに何も書かれていなかった。
パラパラとページをめくってみる。そこにもやはり何も書かれていない。
…なんだこの本?
そう思い、あったところに戻そうとしたのだが、何を思ってか俺はもう一度本の一ページ目を開いていた。
すると、何も書かれていなかったそのページに、ふわふわと文字が浮かび始めた。
呆気にとられている俺の気などいざ知らず、文字は浮かび続ける。
————お手にとってくれてありがとう。この本は、あなたの選択によって物語が進んでいきます。最初にお尋ねします。あなたが好きな物語は、ファンタジーですか?サスペンスですか?ミステリーですか?
………………創作なんて小三以来だぞ。しかも当時ボロックソにこき下ろされた記憶しかないのだが。
———物語を終えるまで、この本はあなたの元へ戻ってきます。海に捨てようと、燃やそうと、ビリビリに破り捨てたとしても。必ずあなたの元へ帰ってきます。
こっっっわ!!!!え!?呪いの本じゃん!!ていうかなんで俺本と話しているんだ?いや、本が言葉を発しているわけではないのだけども。
しかし、この感じからするとこの本の言っていること(?)は本当くさい。今やあらゆることが科学で補われているこの世界に、こんな魔法じみた訳のわからんものが存在するとは。
何のためなのか、どうしてなのか、疑問は尽きないけれども。捨てたら呪われそうなのは確かなので、取り敢えず持っていくことにした。
しかし本当に俺は創作というものができないのだが大丈夫なのだろうか。ミステリーとかサスペンスなんててんでダメだぞ。謎解きとか作れるほど頭良くないし人が死ぬ話はアニメでも漫画でも嫌いだし。
てことは俺が唯一書けるのはファンタジーか?
—————ファンタジーが選択されました。
はや。ソッコーで決めよったこの本。
—————得意なファンタジーの系統はありますか?
んなこと言われても………。あ、FFみたいなRPGは好きだな。得意かどうかは別として。
————RPGが選択されました。
あなたはこれから、魔王を倒す旅に出ます。あなたの名前を教えてください。
本名でやるのもなんだかなぁ。テキトーにきめ…。
————本名でなければ物語は進みません。
融通の効かない本だ。そしてツッコミが速い。
面倒だけど本名でやるかー。恭典っと。
————勇者キョウスケの冒険
ここはとある世界。この世界では魔王が存在しており、魑魅魍魎が跋扈している。人々は常に魔物に怯えながら過ごしている。
そんな中、とある小さな村の若者が勇者として選ばれた。彼の名はキョウスケ。それなりに腕が立ち、魔法もそこそこ出来る少年だ。
これから、彼の勇者としての旅が始まる。
…それなりの腕ってのとそこそこの魔法っていうのが凄くリアル。まぁ、とても正しい表現だと思うけども。
————装備を確認してください。
○使い慣れた剣 こうげき 5
○使い慣れた盾 ぼうぎょ 5
○木の枝 まほう 3
待てちょっとおかしくない?何この“木の枝”って。せめて杖じゃない?木の枝て!!しかも雑魚い。それにショボい。どうしようもない装備だな!
村を出て最初の街へ向かう途中、道の真ん中で倒れている女性を発見したキョウスケ。駆け寄ると、女性に目立った外傷は見つからなかった。
————行動を選択してください
▷ゆり起こす
▷声を掛ける
▶︎襲う
選択肢ぃ!!!なんで一番危ない上に選びたくもないやつに最初からなっている訳!?おかしいだろうがよ!!
ゆり起こすところだろ!声掛けても人ってなかなか起きないだろ!はいゆり起こす!
“ゆり起こす”が選択されました
キョウスケが女性の肩に手を触れると、華奢な肩がびくりと震える。そして彼女は双眸をゆっくりと開いた。
何度か瞬きをし、ゆらりと上体を起こす。そしてキョウスケを見るなりこう言った。
「随分と弱そうな冒険者ですね」
…今更ながら、襲うが一番正しい選択肢だったのではと思えてきた。もしくはそのまま魔物にでも襲われてしまえ。
———行動を選択してください
▷ 苦笑する
▷ 睨みつける
▶︎ 組み敷く
…この本、怖い。何なの?そんなに勇者が嫌いなの?それとも俺が嫌なの?
“苦笑する”が選択されました。
女性は苦笑いを浮かべるキョウスケを見、切れ長な瞳を丸くした。
「見た目にそぐわず、中々肝が据わっていらっしゃるのですね」
彼女は言い、立ち上がる。パタパタと衣服についた土を払い、改めてキョウスケに向き合った。
「ご挨拶が遅れました。私はレム。ここより西にある国にて騎士をしていました。貴方は?」
丁寧にお辞儀をする彼女に対し、キョウスケは…。
▷普通に挨拶
▷格好つけて挨拶
▶︎ 口説く
…うん。きっとこの本は俺のことが嫌いなんだな。
“普通に挨拶”が選択されました。
キョウスケは軽く頭を下げ、簡潔に自己紹介をする。黙って聞いていた彼女は腕を組んだ。
「アレア村から勇者が選ばれたという話は聞いていましたが、貴方だったのですか。………言いたいことはそれなりにありますが、取り敢えず王都へ向かいましょう。ここから1時間ほどで到着しますので、ご案内します」
主人公の村、アレアっていうのか。確かラテン語で“サイコロ”という意味の単語だったよな(厨二病真っ盛りの時に記憶した)。
……サイコロ、か。何か意味でもあるのかな。
キョウスケは頷き、先を歩く彼女についていく。
———何か尋ねますか?
▷王都ってどんなところ?
▷魔物が見当たらない
▶︎スリーサイズは?
確かにスリー……んっ、魔物が見当たらないのは気になる。
“魔物が見当たらない”が選択されました。
キョウスケは前を歩く彼女に何故この辺りは魔物を見かけないのか尋ねる。すると彼女は少々誇らしげに説明を始めた。
「我らがグラナトゥム王国は鍛え上げられた騎士団が周辺を守っていますからね!大抵の魔物は王都に近づかないのです!」
目には見えないが、どうやら彼女の鼻は伸びているようだ。キョウスケはそれをへし折るかの如く、何故道端に倒れていたのか尋ねた。
彼女はバツが悪そうに俯く。
「それが…。恥ずかしながら、私は中枢性過眠症を患っておりまして…。貴方の村に向かう途中で眠ってしまったのです」
中枢性過眠症って何だ?教えてグー◯ル先生!
ええと、ナルコレプシー?えー、日中急に眠くなるとか交感神経の怠慢じゃないの?副交感神経活発化しすぎじゃないの?
————何か言いますか?
▷「大変でしたね」
▷「先天的なものですか?それとも後天的なものですか?」
▶︎「危うく襲ってしまうところでした」
危うくもないですし!襲おうともしていませんでしたけど!?
“「先天的なものですか?それとも後天的なものですか?」”が選択されました。
キョウスケは彼女にいつからその病気を持っていたのか尋ねる。彼女は歩みを止めこそしないものの、硬く拳を握りしめていた。
「…数年ほど前です。フォルミカでの戦いの最中に頭を殴られて昏倒し、それからです。
…………今やもう、騎士というのも名ばかりの足手纏いの斥候です」
後ろからは彼女の表情は読めない。しかし、握った拳からは血が流れている。病気になる前は優秀な騎士だったのだろう。キョウスケは胸を痛めた。
今は完全にシンクロしてるわ。俺も胸が痛い。絶対悔しいってこんなの。その“フォルミカ”というのが人なのか国とかなのか分からないけどさ。
キョウスケは懐からハンカチを取り出し、レムに渡す。彼にそれを渡されてから彼女は自身の手の状態に気付き、慌てて受け取った。
「あっ、すみません、気を遣わせてしまったみたいで…。ありがとうございます」
彼女の言葉にキョウスケは…。
▷「当然のことをしたまでです」
▷「治す方法、一緒に探しますよ」
▶︎「見ていて居た堪れなかったので」
…まぁ後天的な病気なら治す方法もきっとあるよな。
“「治す方法、一緒に探しますよ」”が選択されました。
彼は病気を治す手伝いを提案する。後天的なものなら希望があるかもしれないから、と。
キョウスケの申し出にレムは信じ難いとでも言いたげな表情で瞬きした。
「………見ず知らずの人間に、それもいつ倒れ込むかも分からないような人間にそこまで優しくできるとは…。貴方は相当なお人好しですね」
彼女に出会ってから数度目の苦笑を溢し、肩を竦める。飾り気も何もない彼の態度に、レムは初めてキョウスケを見て微笑んだ。
「おかしな人だと最初は思っていましたが、貴方は良い人ですね。ありがとうございます」
キョウスケは疑問を感じ、何故おかしな人に思ったのかを彼女に尋ねる。レムは彼の懐にある物を指差した。
「普通、木の棒を杖として使う者は居りませんから」
………登場人物にまで突っ込まれるってどういうことなのさ。
キョウスケは困ったように頰を掻き、かくかくしかじか説明した。自分の村では魔法に関する技術が乏しくて杖を造れるものがおらず、仕方なく村の近くに生えているミステルの枝を杖として使うことにしたのだと。
それを聞いたレムは瞳を瞬き、懐から杖を取り出した。
「これをお使いください。シダーを切り出して造ったものです。それ程攻撃力はありませんが、木の枝よりは幾分マシなはず」
キョウスケは“魔法の杖”を手に入れた!
装備しますか?
▶︎はい
▷いいえ
今回は最初から正しいやつを選んでいるのね。いつもこうなら良いのに。
キョウスケは魔法の杖を装備した。
“まほう”が7になった!
「さぁ、もう直ぐ王都に到着します。まずは装備を整え、それから王に謁見しましょう」
———今日はここまでにしますか?
▶︎はい
▷いいえ
なんだかんだで自宅に着いたし。今日はここで終わりにしよう。続きはまた明日やるかな。
それにしてもこの本、本当にただ選択するだけで物語が勝手に進行していくからやり易い。これなら俺でもエンディングまでいけそうだ。ゲーム感覚でちょっと楽しくなってきたし。
さーて後は飯食ってリングフィットやって風呂入って寝よ。
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