第4話:「俺の装備に触ったら死ぬぞ?」と忠告したのに、強引に奪おうとした元仲間の末路

「おいレン! その宝、よこせェェェッ!!」

ギルドの静寂を切り裂いて、元パーティ『鉄の牙』のリーダー、ガレンが叫んだ。

目は血走り、口元からは汚い涎が垂れている。

さっきまで「化け物だ」と俺を置いて逃げていたくせに、目の前の『国家予算セット』を見た瞬間、恐怖よりも強欲が勝ったらしい。

「いや、『よこせ』って……これは俺がソロになってから拾ったものだけど」

「うるせぇ! お前はまだ正式な脱退届を出してねぇ! つまり『鉄の牙』の一員だ!」

「そうだ! メンバーが拾ったアイテムは、リーダーが管理するのがルールだろがあああッ!!」

めちゃくちゃな理論だ。

取り巻きの魔法使いや盗賊も、武器を構えてジリジリと距離を詰めてくる。

「おい貴様ら! ギルドの中で強盗まがいの真似をする気か!?」

ギルドマスターのガイルがドスの効いた声で一喝するが、今の彼らには届かない。

彼らの視線は、俺が着ている『覇王の鎧』と、カウンターの『賢者の石』に釘付けだ。

「どけ邪魔だッ! レン、その鎧を脱げ! 豚に真珠だ!!」

ガレンが剣を抜き、俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきた。

その手は、確実に俺の『覇王の鎧』に触れようとしていた。

「あ、」

俺はとっさに制止した。

「悪いけど、触らない方がいいよ。死ぬから」

「ハッ! 偉そうに指図すんじゃねぇ! 荷物持ちごときがァ!!」

ガレンの手が、俺の肩――正確には《覇王の鎧》の装甲板に触れた。

カチッ。

その瞬間、俺の視界に赤い警告ウィンドウがポップアップした。

【 警告:敵性存在の接触を検知 】

【 発動スキル:神域の絶対不可侵(アンタッチャブル・ゾーン) 】

【 効果 】

害意を持って触れた対象に対し、物理法則を無視した「無限の運動エネルギー」を付与し、強制排除する。

【 排除先 】

大気圏外(※生存確率は運次第)

「あ、これアカンやつ――」

俺が言い終わるよりも早く。

物理エンジンがバグったような轟音が炸裂した。

バチィィィィィィィィィンッ!!!!

「あぐべッ!?」

ガレンの手が弾かれたのではない。

彼の全身が、まるで超高速のダンプカーに正面衝突されたかのように、くの字に折れ曲がった。

「が、ガレン!? てめぇレン! 何をしやがった!!」

仲間たちが激昂し、一斉に俺に飛びかかってくる。

盗賊が短剣を突き出し、魔法使いが炎の魔法を放つ。

「いや、俺は何もしてな……」

俺が弁解する隙もなかった。

【 全方位オートカウンター:起動 】

俺の鎧から、黄金の衝撃波がドーム状に展開される。

ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!

「「「ほげえええええええええええッ!?!?」」」

世界から重力が消えた。

飛びかかってきた3人の体が、真上に――そう、垂直に打ち上げられたのだ。

ギルドの天井?

そんなものは豆腐のように貫通した。

ズボォッ!!

天井に人間サイズの綺麗な穴が3つ空く。

彼らの悲鳴はドップラー効果を残して急速に遠ざかり、雲を突き抜け、空の彼方へと吸い込まれていった。

「あ……」

俺たちはポカンと天井の穴を見上げた。

青空が見える。

そして遥か上空で、キラーン☆ と星が瞬いたのが見えた気がした。

「…………」

ギルド内が、死のような沈黙に包まれる。

全員が口をあんぐりと開けて、天井の穴と、無傷で突っ立っている俺を交互に見ていた。

「……なんか、すごい静電気だったな」

俺がボソッと呟くと、ギルドマスターのガイルが、ガクガクと震えながら俺の足元に崩れ落ちた。

「ひ、ひぃぃ……」

「あ、大丈夫ですかガイルさん? 天井の修理費は、この賢者の石で払いますんで」

俺が『国家予算(石)』を差し出すと、ガイルは涙目で首を横に振った。

「い、いらん! 金はいらん!! その代わり頼む!!」

ガイルは土下座の勢いで頭を下げた。

「どうか機嫌を損ねないでくれ!! 怒りで王都ごと地図から消すのだけはやめてくれぇぇぇッ!!」

「ええ……?」

周りを見渡すと、屈強な冒険者たちが全員、俺に対して平伏していた。

アイナさんに至っては、カウンターの裏で「南無三……南無三……」と拝んでいる。

どうやら俺は、知らない間に『ギルドの守り神(兼、破壊神)』として認定されてしまったらしい。

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