スーパースピード・フロントライン 現代ダンジョン対策室のトリプル能力者は人型エネミーとヒーローの間で戦う
明丸 丹一
プロローグ その可能性に食い殺されるぞ
シールドが悲鳴を上げた。
装甲戦士ライノの巨大な盾が、黒いブレードを真正面で受け止める。床がめり込み、重量級の足が一歩も退かない――はずだった。
「……来るぞ」
くぐもった声が全体回線に乗るのと同時に、異形の人型……シャドウブリンガーが軌道をずらした。
盾の縁を滑り、死角へ潜り、分厚い装甲の隙間へ黒刃をねじ込む。
「っ――」
ライノの声が途切れ、赤い液体が装甲の継ぎ目から噴いた。
次の瞬間、蓮のバイザーに淡々と表示が出る。
『ライノ:バイタル反応消失』
編集もBGMもない死が、重い装甲のまま床に転がった。
そして――赤い光が、こちらを向く。
(やっぱ、俺らも狩る気だ)
視界から消えた。
一度目。
気付いた時には目の前。真正面からの一閃。
反射で腕を上げたが、シールドが割れ、胸が裂ける。肺から空気が全部抜け、床が迫る。
(あ、また――)
その瞬間、耳の奥で『カチッ』と何かが噛み合う音がした。
現実の音じゃない。脳内にだけ鳴る、スイッチの作動音みたいなやつだ。
視界の隅に、誰にも見えないはずの小さな表示が点いた。
『Try 1/3』
蓮の喉から息が漏れる前に、世界がブチッと切れた。
◇
深層フロア。ラックの林。赤い警告表示。ライノの残骸。
数秒前と同じ光景が、何事もなく立ち上がる。
身体は無傷。スーツの警告も消えている。
なのに、胸を裂かれた痛みだけが『記憶』として残っていた。
血の匂い。肺が潰れる感覚。床に吸い込まれる重さ。
それは『終わった』はずなのに、まだ皮膚の裏側に貼り付いている。
(……巻き戻った。俺だけ)
周囲の隊員は何も知らない顔で動いている。
時間が戻ったことに気づいているのは、蓮だけだ。
そして、その分だけ、蓮の心だけが遅れていく。
二度目。
来る方向は読めた。シールドを斜めに当てて軌道を外す。
いける――と思った瞬間、下から刃が迫って来た。
尾か、蹴りか、何かが蓮の左脚を持っていく。膝から下の感覚が消え、倒れ込んだ顔の上に赤い影が覆いかぶさる。
(次は、頭だ)
刃が落ちる、その刹那。
また『カチッ』だ。
今度は胸の奥が熱く、目の奥が白く焼ける。吐き気が一気にこみ上げる。
『Try 2/3』
表示が点った瞬間に、世界がまた切れた。
◇
――三度目。
胸を裂かれた感覚も、脚を失った感覚も、頭を割られる予感も、全部残っている。
身体だけが数秒前に巻き戻り、精神だけが置き去りだ。
つまり、これはやり直しじゃない。
死んだ記憶を抱えたまま、生き残るためのもう
吐き気が喉まで上がる。指が震える。
なのに、足は前へ出た。
「全班、後退態勢――」
神崎の指示が始まる前に、蓮は息を吸った。
「隊長、前に出ます」
自分の声が、やけに低い。
「アイツは絶対、こっちを刈りに来る。だったら最初から俺が正面を取った方がマシだ」
通信が一瞬止まり、神崎が短く返す。
「……死ぬな」
「はい」
赤い光。黒い外骨格がこちらを見た瞬間に消える。
来る。真正面。最後だけ軌道をずらす。二度の死が教えた癖だ。
蓮は一歩、前へ。わざとシールドを低く構える。
ズレる未来へ滑り込む――二回目に死んだ角度とは別の方向。
視界の端を黒いブレードが掠め、腕が痺れる。だが砕けない。
目の前に胸部装甲。隙は一瞬。
「っらぁっ!」
合金ソードが黒い外骨格を浅く裂いた。薄い手応え。
それでも、初めて攻撃が通った。
時間が薄くなる。
赤い目が、真正面から蓮を捉えた。
「……お前は俺だ」
ヘルメット越しなのに、脳に直接響く掠れ声。
「だが―—その
喉が焼ける。
(嫌だ。俺は――あんたみたいになりたくない)
◇
始まりは数週間前―—。
DPA……Dungeon Protection Agency。迷宮災害対応を担う機関の能力診断を受けたことが始まりだ。
その時は気軽な、人生ガチャのつもりだった。
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