人の子心、竜と魔性の親心

鈴懸

第1話 ユウエン



「そのいのち、ムダにするな。びろ」



 戦争で両親を目の前で殺された。


 おくれた僕を助けてくれた人が、僕にくれた言葉。

 その言葉だけをどころにしてここまで来た。


 ここは東の大陸の王城おうじょう

 僕を助けてくれた人たちが居る城。

 ここに来るまでに三年かかった。


 あの人たちはまだここに居るのだろうか?

 会えるのだろうか?





紅玉こうぎょく様。多分、お客様ですが…」


 一般開放している城の西側の担当警備隊員が紅玉こうぎょくのところにやって来た。


「多分? 客?」


 紅玉こうぎょくが首をかしげる。


「それが、子供なのですが。

 あか琥珀こはくの竜のお姫様と、

 それにつかえている体の大きなあかの男の人に会いたいと」


 隊員が頭をポリポリときながら困惑顔で話す。


「それ、オレと彩偉さいさまだな…」


 紅玉こうぎょくは隊員と顔を見合わせた。




 西門に行くと八歳ぐらいの男の子が待っていた。


 紅玉こうぎょくはその子供の顔を思い出せなかった。

 男の子は紅玉こうぎょくを見るなり駆け寄って来た。



「あ、あの…僕、以前あなたに助けていただいて。

 えっと、会いたくて、あの、お礼も言いたくて…」


 男の子は矢継やつばやに話すが紅玉こうぎょくには話が見えない。



「ちょっと、待て。落ち着け、ボウズ」


 紅玉こうぎょくは男の子をせいする。


「お前、名前は? いつオレに会った?」


 紅玉こうぎょくが質問する。



「あ… 名前はユウエンと言います。

 三年前に北方の地でおくれた僕を助けてくれて。

 それで竜のお姫様とケンカになって…」


 ユウエンと名乗った男の子は話した。



 彩偉雷さいらいと戦場でケンカと聞いて紅玉こうぎょくは思い出した。


「あー、あの時の子供か⁉」



 戦場で親を殺されおくれて炎に巻かれていた子供を助けたはいいが、

 単独行動をして彩偉雷さいらいの怒りをかったのだ。


 言い合いの挙句あげく彩偉雷さいらいがマジれして、

 落ち着かせるために公衆こうしゅう面前めんぜん彩偉雷さいらいの唇をふさいだ。


 結果けっか彩偉雷さいらいわれを取り戻したが、紅玉こうぎょく派手はでに平手をらってしまった。



 あの時に助けた子供だというのか?


 紅玉こうぎょくは驚いた。



「あの、僕、あなたの下で働きたいです。何でもします。

 いのちを助けてくれたお礼がしたいんです」


 ユウエンは訴える。



「確かあの時、小寒しょうかんあずけたはず。白露はくろの地に収容されたはずじゃ?

 あそこ、ここからかなりの距離があるぞ?」


 紅玉こうぎょくが尋ねる。



「王様の城を目指めざして来ました。

 いろいろしましたけど、悪いことはしていません」


 ユウエンが言い切る。



「いや、働かせろと言われても困ったな。オレにそんな権限けんげんないしな…」


 紅玉こうぎょくが困っていると、グウ~と大きな音がした。

 ユウエンのはらむしが鳴ったのだ。


「ボウズ、はらっているのか? じゃ、ついてこい」


 紅玉こうぎょくは一般食堂の奥へ進んで行く。



「オウミ。何かこいつにわせてやってくれ」


 紅玉こうぎょくは厨房に立つオウミに声をかけた。



「あら、可愛かわいぼうや。どうしたんです?」


 オウミがにこやかに紅玉こうぎょくに聞いてくる。



「オレと彩偉さいさまに会いに来たんだと」


 紅玉こうぎょくは分かりにくい説明をする。

 紅玉こうぎょく自体じたいがいまいち状況を理解していなかった。


 オウミは手早てばやく調理をしユウエンの前に料理を並べた。


「うわ! 美味おいしそう! これ、べていいんですか⁉」


 ユウエンは目を輝かせ料理を見ている。



「どうぞ。お口に合うかしらね」


 オウミがすすめる。



 ユウエンはすべて美味おいしそうにたいらげた。


 ユウエンが食事中、紅玉こうぎょくはオウミに事情を説明した。


天昇てんしょう様におうかがいするしかないでしょう?」


 オウミは当たり前のことを言う。



「あ、やっぱり? また天昇てんしょう様に何か言われるな…」


 紅玉こうぎょくがぼやく。



「もう、今更いまさらでしょ。何を言っているんだか…」


 オウミはあきれている。



 「仕方ないなー」


 と紅玉こうぎょくはユウエンをれて東側の王宮へ向かった。






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人の子心、竜と魔性の親心 鈴懸 @yoshinagi

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