竜障害

敷知遠江守

プロローグ

第1話 世界大会

世界選手権、最終戦ペヨーテグランプリのスティープルチェイス。

ここまで四周を終え、現在先頭は王者アブドッラー・ダルバンディ。

そのすぐ後ろ、不気味に控える古豪アッタクラクラ。

少し離された位置に新星ミハエル・フォン・シュリーベン。

そこからナイジェル・アンソン、プリティパル・アイバク、ネルソン・ペリ、アラン・ブリュイと一塊。

そこから大きく離されて、最後尾に瑞穂の吉弘直貢。初参戦の吉弘は最後尾。

四周目までは何とか食らいついていた吉弘ですが、ここに来て徐々に引き離されています。

反転角を過ぎ向正面に入りました。

障害三連続。

生垣飛越!

竹柵飛越!

最後、水濠飛越!

競技場は第三区画に入ります。

二つの反転角を曲がるつづら折りを経て、緩やかな反転角へ。

最終角を曲がって、正面直線に入りました。

各竜、終着板を過ぎ最終周に入りました!

再度第一区画へ。

既に二度の竜交換を終えています。残りは竜の体力勝負!

正面直線を過ぎ、これから坂路に入ります。

坂路からの反転角!

そして下り!

おっと! ここで三番手のシュリーベンがアッタクラクラを抜いた!

シュリーベンが二番手に踊り出た!

第一区画後半は連続登坂!

緩い登坂!

そして急登坂!

各竜頂上から一気に跳躍!

ここでアンソンが三番手浮上!

瑞穂の吉弘はまだ最後方。

各竜第二区画に入ります。

緩い登坂!

そして短い直線を経ての反転角!

さらに三連飛越障害。

生垣飛越!

竹柵飛越!

最後、水濠飛越!

おっと! 先頭のダルバンディが少し体勢を崩した!

シュリーベンが内から抜きにかかる!

ダルバンディが内を絞る!

ダルバンディ抜かせません!

最後の第三区画に、入りました!

つづら折り!

そして緩い反転角!

シュリーベン再度仕掛けた!

ここでシュリーベンが並んだ!

ダルバンディどうした!

もう苦しいのか!

各騎手が一斉に鞭を取り出し、最終角へ!

先頭はシュリーベン!

ダルバンディが必死に追いすがる!

シュリーベンだ!

シュリーベンだ!

シュリーベン、今終着!

大きな市松の旗が振られました!


世界選手権、今年最後もこの男! ラインの新星、ミハエル・フォン・シュリーベン!

見事総合優勝をものにしました!

――



 バスバスという独特な足音を立てて、大きな足の恐竜が二足歩行で駆けている。

 太腿は人の胴ほどあろうかというほどに太い。丸みを帯びた胴体から太く長い首が伸びており、その先に頭があるのだが、全体からするといささか頭部は小さく感じる。

 全身豊かな羽毛に覆われており、一見すると首の太いダチョウのようにも見えるが、これでも立派な恐竜である。それがわかるのが嘴の根本。そこに上下四本の鋭い牙が伸びている。

 全身が羽毛に覆われているのに、二か所だけ羽毛の無い部分がある。一か所は足。腿には羽毛が生えているのだが、膝から下が爬虫類や鳥類のようなボコボコとした皮膚が露出している。それともう一か所。頭頂部にも羽毛が無い。まん丸のつぶらな瞳も相まって、非常に愛くるしい顔立ちをしている。


 正面の直線を過ぎた八頭が、最初の反転角を曲がって、坂路を降りた先から検量室へと向かう通路に入っていく。

 ただ一頭、シュリーベンを乗せた竜だけが、向きを変え正面直線路を逆走して来る。


 シュリーベンが泥だらけになった防護眼鏡をずらして防護帽に乗せる。

 地面は剥き出しの土で、しかも埃が舞わないように水がかけられている。そのせいで競争中に容赦無く泥が飛んでくる。頬から下は泥だらけだが、それでもシュリーベンの笑顔は実に爽やか。


 観客席は大興奮で全員総立ちとなっている。肌の色は異なっている。赤身を帯びたペヨーテ人が全体的には多いだろうか。

 残念ながら地元のアッタクラクラ騎手は八頭中四位であった。それでも観客は温かい拍手を送り続けている。


 勝ったシュリーベンに対して「シュリーベン! シュリーベン!」と呼びかけている。その大歓声に応えるように、シュリーベンが鞭を上空に掲げる。過去のシュリーベンの発言によると、『勝利を神に捧げる』という意味らしい。その光景に観客が一層大きな声援を送った。

 その大歓声に乗っていた竜が怯んで、観客席から逃げ出そうとしてしまう。そんな愛竜の首をシュリーベンはポンポンと叩いて落ち着かせる。


 正面の巨大な画面にはここまで一年間の結果が表示されている。ブリタニス、ゴール、呉越、デカン、パルサ、そして最終戦のペヨーテ。ここまでシュリーベンは全て三着以内に入っている。

 興奮した実況は、まるで最初からシュリーベンの優勝が確定していたかのように言っていたが、実際にはそうではない。今回の順位次第では二位のパルサのアブドッラー・ダルバンディに逆転を許すところであったのだ。


 最後にシュリーベンは観客席に竜の向きを変えた。胸に右手を添え、丁寧に頭を下げた。その瞬間、再度大歓声が観客席から沸き上がる。


 驚く竜をシュリーベンが走らせる。

 観客席に背を向け、終着板の横の柵の隙間に向かって走り去って行った。

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