第2話
結局あの後は何か変ななことが起きるわけでもなく学校が終わった。帰宅しながら僕は神崎のあの言葉のことを考えていた。
『竹田、サイコロ振ったか?』
時間を戻したんだから記憶も消えているはず。それとも神崎はなんかそういうすごい力を持っているのか。漫画じゃないんだからそんなことないか。いや、時間を戻すサイコロがあるくらいだ。そんな力があっても不思議じゃない。それにしてもお腹が空いた。時間を戻した代償なのかとてもお腹が空いている。
家に着いて、とりあえずカップラーメンを食べた。お湯を入れて待っている間にすごいことに気づいてしまった。このサイコロを使えば他の人より勉強できる。これは受験で周りとだいぶ差がつくな。もしかしたら東大とか狙えるんじゃないか。そんなことを考えながらラーメンを完食した僕は早速勉強を始めた。
しばらく勉強をしていると玄関が開く音がした。母が帰ってきたのだろう。僕は勉強を中断して玄関へ向かった。
「母さんおかえり」
「ただいま」
「ごめんけどカップラーメン食べちゃったから新しく買ってきててくれない?」
「わかった。欲しい味はある?」
「いや特にないよ」
「じゃあ今度適当に買ってくるね」
「うん。ありがとう」
会話を終えた僕は気分転換に散歩をすることにした。普段散歩なんてしないで勉強してるのだがサイコロのおかげで心に余裕ができたんだろう。
駅の近くを歩いているとサイコロをくれたおじさんがいた。まさかこんなところで出会えるとは。僕は早速話しかけにいった。
「サイコロ。ありがとうございます」
おじさんは周りを見渡して自分に話しかけられているのだとわかると驚いて言った。
「すいません、人違いだと思いますよ」
おじさんは丁寧な口調でそう言った。
そんなはずはない。僕は確かにこのおじさんからサイコロを貰ったんだ。もしかして時間を戻したせいでおじさんの記憶も消えたのか?
「変なこと聞いて申し訳ないのですがサイコロを持ってますか?」
「いや。サイコロなんて持ってませんよ」
サイコロは僕が持ってるから当たり前っちゃ当たり前か。これ以上聞いても無駄だろう。
「すいません。人違いでした」
駅の周辺を適当に歩いて家に帰った。
帰宅して僕は自室でおじさんのことについて考えていた。
見た目も服装も一緒だった。喋り方は丁寧だった。病院ではもっと乱暴な口調だった。他の人が憑依でもしたのか。時間を戻せるサイコロがあるんだからありえないなんてことはありえないだろう。ここまでくるとなんでもありだな。
そんなことを考えていると、スマホが鳴った。バイトの時間か。
「ありがとうございました」
退店していく客にそう声をかけた。コンビニバイトもだいぶ慣れてきた。始めたばかりはわからないことだらけだったけど、先輩が細かいところまで教えてくれたおかげだ。先輩には感謝している。サイコロのおかげで勉強には余裕ができたし高校卒業まで続けようかな。なんて考えていると先輩から声をかけられた。
「竹田くんって今年受験だよね?」
「はい」
「大学はどこ行くの?」
「青羽大学です」
僕は隣県のそこそこ偏差値の高い大学の名前を挙げた。
「え〜。竹田くんって意外に頭いいな」
「『意外に』は余計ですよ」
「勉強は大丈夫なの〜?」
「お客さんが来てますよ」
僕は店内の方を向いて言った。
「ほんとだ」
そう言って先輩はバックヤードに入っていった。
キーーーーーーーーン
突然耳鳴りがした。
「すいません、人違いだと思いますよ」
今日の散歩中に話しかけたおじさんがそう言っている。
「え」
なんでだ。時間が戻ってる。サイコロを振ってないのに。もしかして神崎か?サイコロのことを知ってたし。
しばらく黙っていた僕を見ておじさんは言った。
「大丈夫ですか?」
「すいません。人違いでした」
おじさんと話を終えた僕は神崎に電話をかけた。
「もしもし」
電話口から神崎の声がする。
「あのさ…」
僕が話だそうとすると神崎は言った。
「やっぱりお前か」
今のタイムリープで神崎が記憶を失ってないなら僕が電話をかけるのは初めてだ。そりゃわかるか。
「黙っててごめん」
「そんな謝ることじゃねぇよ。むしろ賢明な判断だ」
「どういうこと?」
「詳しいことは明日学校で話す」
「わかった」
「じゃあな」
そう言って電話が切れた。やっぱり神崎はサイコロを持っていたのか。神崎のサイコロでタイムリープしたけど僕の記憶は消えなかった。ということはサイコロを持っていたらタイムリープ時に記憶が消えないのか?そうすれば一回目のタイムリープに神崎が気づいたのに納得がいく。でもサイコロを振ったのが僕だということはわからないはずだ。タイムリープした人には特徴があるのか?まあ明日聞けばいいか。
バイトが始まってしばらくすると先輩が話しかけてきた。
「竹田くんって今年受験だよね?」
話しかけて来たタイミングが違うけどバタフライエフェクトというやつだろう。
「はい」
「大学はどこ行くの?」
「青羽大学です」
一回目と同じように答える。
「え〜。竹田くんって意外と頭いいな」
「『意外と』は余計ですよ」
「勉強は大丈夫なの〜?」
「はい。家でもちゃんと勉強してるので」
「へぇ。バイトはこのまま続けるの?」
「大学の学費を貯めておきたいのでそのつもりです」
「えらいね〜」
「ありがとうございます」
こんなに話してたら店長に叱られてしまう。
「山本先輩。店長に叱られちゃうので仕事をやってください」
「はいはーい」
そう言って先輩は品出しを始めた。
「竹田〜」
次の日の昼休み、僕は神崎に呼ばれ、ついていった。
神はサイコロを振れない @ramune0609
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神はサイコロを振れないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます