神はサイコロを振れない

@ramune0609

第1話

ピピーピッピーピーピーッピピーピピッピピーピピッ

 はぁ。ほんとうるさい。

ピーッピピピピッピッ

 病院行ったほうがいいかな。

ピーピピッピピッピーピピーピッピッ

「だめだ。集中切れた」

 僕はせっかく集中できてた勉強を中断しキッチンに向かった。サクッサクッと切っている音が聞こえる。

「母さん」

「なに?」

 まな板の野菜から目を離さず母が答える。

「最近耳鳴りがひどいから病院連れてってくれない?」

「わかった。いつがいい?」

 そう言って野菜を切る手を止めた母は冷蔵庫の横に貼ってあるカレンダーの前に行く。

「今日。今から行ける?」

「バイトは間に合うの?」

 リビングの時計を確認すると十七時を少し過ぎたあたりだった。

「今日は七時からだから大丈夫」

「わかった」


 長椅子が五つほど設置された病院の待合室には四十代ぐらいのおじさんしかいなかった。早く終わりそうでよかった。待合室に設置されたテレビからタレントの笑い声が聞こえる。受付を終わらせた母が僕の横に座った。

「一人で大丈夫?」

 僕はもう高校三年生だ。大丈夫に決まってる。

「うん。大丈夫」

 数分ほどして僕の名前が呼ばれた。

「今日はどうされましたか?」

「電子音のような耳鳴りがひどくて」

「最近ちゃんと寝てますか?」

「いえ、今年受験で」

「睡眠不足が原因の耳鳴りでしょう。薬は出しますが寝ないと治らないのでしっかり寝るようにしてください」

「はい。ありがとうございます」

 そう言って診察室を出て母のところに向かった。

「睡眠不足だって」

「勉強も大事だけど健康も大事だからちゃんと寝なさいよ」

 僕が返事するより前に僕の名前が呼ばれ、母は会計を済ませ、薬をもらいに薬局のほうへ行った。するとおじさんが話しかけてきた。

「なあ。時間を戻せるサイコロあるんだが欲しくねぇか?」

 時間を巻き戻せるなんて胡散臭すぎる。

「いえ。大丈夫です」

「なあそんなこと言わずにさ。ほら」

 そう言っておじさんは紙に包まれたサイコロであろうものを顔に向かって投げてきたので、僕は咄嗟にそれをキャッチしてしまった。その隙におじさんは玄関から出ていった。

僕が呆気に取られていると母が戻ってきた。

「そんな驚いた顔してどうしたの?」

「さっきいたおじさんからなんか貰った」

「さっきは誰もいなかったじゃない」

 何を言っているんだ。

「あそこに座ってた人だよ」

 僕はさっきまでおじさんが座ってた椅子を指差しながら言った。すると母は不思議そうな顔をしながら。

「最初から私たちしかいなかったよ」

 どういうことだ。まさかドッキリか何かなのか。母はそんなことする人じゃないのに。でも母が嘘を言ってないのだとしたら時間を巻き戻せるサイコロというのは本当なのかもしれない。

「ごめん。なんでもないよ」

「ならいいけど」


 家に帰って僕はさっそく紙を開けてみた。中からは二十四面のサイコロが出てきた。見た目は金属っぽくて割と重い。紙には

『これは時間を巻き戻すことができるサイコロです。サイコロを振ってでた目の数だけ時間が巻き戻ります。一日に一回しか使えません。好きに使ってください。』

と書いてる。あと三十分でバイトが始まる。時間はまだある。おじさんの話が正しいか確かめてやろうじゃないか。

 僕は試しにサイコロを振った。出目は……4か。

 その瞬間周りの景色が縮んでいった。体は動かせない。目の前が青く染まっていく。

「これどうなるんだ」

 そんなことを考えていると目の前が真っ暗になって、意識を失った。


「おーい」

「竹田さーん」

 数学の教師の呼ぶ声で僕は目を覚ました。ここは学校みたいだな。

「はい」

 今の時間は……二時半か。ということは戻ってる⁉︎

「はいじゃないのよ。受験生でしょう。寝らずに授業は受けないと。」

「すいません」

 おじさんの話は本当だったのか。サイコロは……左手に握られてるな。

「聞いてる?」

「はい聞いてます。すいません」

「受験生だということを自覚してください」

「はい」

 そこからの授業の内容は頭に入ってこなかった。この授業二回目だからいいけど。


 授業が終わると友達の神崎が話しかけてきた。

「なあ変なこと聞いてもいいか?」

「いいけど」

 一回目ではこんなこと聞かれなかったはずなのに。

「竹田、サイコロ振ったか?」

「え?」

 なんでサイコロのこと知ってるんだ。これは知らないふりをしたほうがいいのか。でも神崎は結構信用できるし。しばらく無言になった僕を見て、

「変なこと聞いてごめんな。もう大丈夫」

 そう言って神崎は自分の席に戻ってスマホをいじり始めた。

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