グレースケール -無色の光彩-

oton

第1部「紅蓮の都編」

プロローグ 灰色の世界で

 色が、死んでいく世界だった。

 かつてこの世界は、あらゆる感情が鮮やかな色彩となって具現化する場所だった。

 喜びは黄金に輝き、悲しみは青く澄み渡り、怒りは赤く燃え盛る。

 人々は胸に宿る《オーラ》を通して、自らが生きる理由――《ニード》を世界に示していた。

 だが今、その色は失われつつある。

《色彩病(グレースケール)》。

 突如として現れたその病は、世界から「色」を奪った。

 病に冒された者のオーラは濁り、感情は摩耗し、やがて全てが均一な灰色へと沈んでいく。

 灰色になった者は、生きてはいるが、生きてはいない。

 怒らず、笑わず、望まず――ただ、呼吸を続けるだけの、肉の器となる。

 世界は静かに、しかし確実に終わりへ向かっていた。

 それでも、人々は色を求めた。

 失われた鮮やかさを取り戻すため、祈り、争い、縋(すが)りついた。

 そこに《聖彩教団》が現れた。

 教団は「調律」による管理を説き、王は軍を動かし、詐欺師は偽りの希望を売った。

 誰もが、自分の色が消えることを恐れていた。

 自分の存在証明(ニード)が、灰色の虚無に塗りつぶされることを恐れていた。

 だから、まだ誰も知らない。

 この灰色に沈みゆく世界の片隅で、最初から「色」を持たない一人の少女が、誰よりも強く「生」を渇望していることを。

 無色の少女と、偽りの色を纏った青年。

 二つの魂が交わる時、止まっていた世界の色が、再び動き出す。

 これは――色を失った世界で、無色の光が「真実」を照らし出すまでの物語である。

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