家を探して

ビフェリオに連れられてメイテイと共に大樹の下の隠し通路を抜けた。

錆びた鉄柵に触れながら疑問に思う。


(何故こんな所を知っているのでしょうか。水の記録庫で保管している書物にもこんな場所の記載は無かったはず…)


そこには町があった。

葉と苔の緑色と幹と錆の茶色、それから家の白色。この町はその3つの要素で構成されていた。シンプルで無駄がないが、それ故に無機質で物悲しく感じる。


「ビフェリオ、貴方こんな所を知っていたの?」


やはりメイテイも知らなかったようだ。


「長になったとき前任者から教えてもらったんだ。神都に火神がいなかった頃、最初の風神様が使っていた所らしい。まぁ…何にこの町もどきを使ってたかは分からないけどね」

「もどき?」

「うん。ここに誰かが住んでいたことは無いからね。見た目だけさ」

「それは悲しいわね。家は使われてこそだもの」


メイテイはそっと白い家に触れる。


「ちょっと他の場所見てくるわね」


まるで心を痛めているみたいだがそんなことはないんだろう。さっきの台詞も“悲しい”ではなく“つまらない”がきっと正しい。


(これだから火神は…)


「で、セキラどうする?ここは人が来ないし多少古いけどキミの好きな本もある。…カビ生えてるけどね」

「この際、汚さには目を瞑りましょう。自分でどうにかします」


カビは魅力的ではないが、古書があるというのは素晴らしい。


「本当にいいの?…よっと、こんなのだけど」


ビフェリオは近くの家屋に入り、真っ白い棚を目指す。棚にはぎっちりと本が入っており、部屋の中でそこだけ色彩が存在しているのが妙だった。

適当に棚から1冊取り出す。


「きったな」


豪華な装丁にフワフワした何かが付いているのが嫌だった。


「素直だね」


魔法で浮かせて棚の上に置く。

これ以上棚に触れば、ホコリが舞い踊ることは目に見えていた。


「…本の管理として最悪…というかただの本じゃなくて魔法書でしたよね」

「使えないよ。1人で扱うには情報量が多過ぎるからね」

「不便なモノを置いておくんですね」

「世界に必要だからね」


(そしたらここは倉庫として作った場所なのだろうか。いや、家を作る必要はないな。無駄だ)


すると、少女が入り口から顔を覗かせた。


「話は決まったの?」


意外と早く帰って来た。ここに来た時は元気だった割に、今は退屈そうだ。“つまらない”モノが多かったのだろうか。


「ビフェリオ、ここってなんなの?気味が悪いわ」

「言った通りボクにはわからないよ」


彼女の“つまらない”の基準はなんなのだろうか。顔を歪ませるほどの何か、この町にあるとは到底思えない。確かに変な清潔感だが、忌避するほどでもないだろう。


これ以上考えてもキリがなさそうなので、セキラは一旦区切ることにする。思考に耽るなら、少なくともメイテイのいない場所が良かった。


「ともかく、ありがとうございます。わたしはもう大丈夫ですので2人とも早く自分の家に帰った方が良いでしょう。メイテイは家のこともあるでしょうし…」

「あっ」


早く帰れ、と急かしたかった最後の言葉は蛇足だったかもしれない。メイテイが急に汗を流し始めた。しかもかなり青ざめた顔で。

…ビフェリオも何か感じ取ったのかそそくさと帰る用意をし始めた。セキラも出来るだけこの場から離れたかった。


(見送りとかしなくて良いですよね?)


もう既に町の方に全力疾走する準備はできた。メイテイに動きがあったら、最速で別れの言葉を言い、背を向けて走ろう。セキラはそう決意する。


「あははは、ではボクはこれで。じゃあっ!」


風のように去ろうとしたが少し遅い。これを機に全力で駆け出す。足が早いとは言い難いが1人を犠牲にすれば問題ないだろう。

数秒経たない内に遠くから「ぐぇ」と情けない声が聞こえた。セキラの計算通り、メイテイはビフェリオ優先で捕まえた。おかげで逃げ延びることができる。


(すみませんビフェリオ。健闘を願います)


時刻はもう夜。家の人の目を掻い潜り、公務ほったらかしで野次馬しに来たメイテイが家に帰るのはかなり気まずい時間であった。

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