ロマンス的なサムシング

四喜 慶

第1章:ボーイミーツガール

第1話:ロマンスは運命的な出会いから

「摩利と会うのは来週土曜、琴子は火曜だから、バイトのシフトは三通りでいいか」


 俺、黛千秋まゆずみ ちあきはロマンス詐欺の計画を練っている真っ最中である。

 今週は二人の女性を騙す。どちらも独り身のOLだ。


 俺は予定がダブルブッキングしないように事前に架空のバイトのシフト表を作成し、女と会う予定を管理している。バイトという体であれば女性の方も無理に会いたいと言わないから楽でいい。


「にしても2人はしょっぱいな。せめてもう1人、良さそうな奴いないかな」


 表作成ツールで架空のタイムスケジュールを打ち込んでいると、机の上のスマホがチカチカと光る。


 出会い系のサイトからのメッセージだ。


「なになに、ちかげさん17歳。対面でのデート希望。希望日時は……明日の12時!?」


 なんだこの怪しいメール。明日って月曜か。学生は学校じゃないのか?

 まぁ、働いたことのない学生の財布の紐は緩い。数回会ってポイするか。

 出会い系のサイトは退会すればいくらでも連絡切れるしな。


 これで今週三人。ノルマ達成だ。明日の大学は誰かに出席頼んでおこう。今度焼肉でも奢ればいいだろう。


 あぁ、明日が楽しみだ。

 タワマンからギラギラと光る目下のビル群を眺めながら俺はデートに想いを馳せた。



    ◇



「あ、あなたが千秋くんっすね。どうもちかげです」

「こんにちわ。ちかげちゃん、写真よりも可愛いじゃん。お兄さんびっくりしちゃった」


 髪を脱色しているのか? にしても綺麗な銀髪だ。ツーサイドアップにまとめた髪に引けを取らないくらい色素が薄く、陶器のように滑らかな肌。そしてぷっくりとした唇。

 彼女もこちら側見た目で得する側の人間なんだろう。


「千秋くんは写真と変わらずイケメンっすね。これじゃ好きになっちゃう女の子多いでしょ」

「俺、顔だけは自信あるんだ。本当に顔だけね」


 そう、俺は見た目は完璧なのだ。これは自他共に認める事実。

 中身はお察し、女を使って金儲けをする腐った文系の大学生である。


「私、人の中身は見た目に出ると想ってるんす。だから千秋くんは自信持っていいっすよ」

「……嬉しいなぁ。そんなこと言われたことないや」


 世の中はやっかみだらけだ。今までの人生で見た目以外褒められたことはない。みんな俺のことを褒めるという行為自体を避けているように思えた。


 でも、少なくともこいつは違う。何か俺のことを品定めするかのように中身を見ている。

 ──少し手加減してやるか。


「今日はディナーまででいいんだよね?」

「はい。もちろんディナーは私が奢るっすよ」

「いや、年下に奢られるほど腐ってないさ。今日は俺に甘えてくれ」

「……はい! じゃあ千秋くんにお任せするっす」


 僕とちかげちゃんの身長差は理想そのもの。僕の身長が178cmだから、彼女は163cmくらいだろう。


 大きなデパートにやってきて、最初にすることはショッピング。

 本当はスイーツを食べたり、荷物が増えないようなことをしたかったが、彼女がどうしてもと言って聞かないので渋々付き合うことにした。


「千秋くん! 見てください! これ最近流行りのププルンとのコラボTっす!」

「へぇ、最近の女子高生ってこういうのが好きなのか」


 今まで年上としかデートしてこなかったからこういうのは新鮮だ。

 ぴょんぴょん飛び跳ねながら限定Tシャツを体にあてがうその無邪気さには、OLのお姉様では味わうことのできない若さと輝きを感じられた。


「ねね、千秋くんはどっちが似合うと思いますか! やっぱりピンクっすかね。無難に白でもいいんすけど」

「……ピンク。似合うんじゃないか? かわいいよ」

「そんなこと言われると照れるっすね。そうだ。千秋くんもおそろっちにしましょうよ。白とピンクで。もちろん千秋くんがピンクっす」


 なんで今の流れで俺がピンクなんだ。まぁいいか。一緒に買ってくれるみたいだし。あとで転売でもすれば小遣いにはなるだろう。


「嬉しいな。友達とはこんな機会ないっすから」

「……そういえば今日学校は?」

「サボりっす。でも安心してください。普段はちゃんと登校してるんで。これでも頭いいんすよ私」


 ふんすっと胸を張るちかげちゃん。正直かわいい。

 今日の俺は荷物持ちのようだ。店をまわる度にブランドものの立派な紙袋が両手に増えていく。


 ──いや、女子高生の財力じゃないだろこれ。


 ちかげちゃんは次から次へとめぼしいものをレジに通していくが、もうかれこれ10万は使ったのではないだろうか。

 しかし、未だ財布の中身を気にする素振りは見せない。

 それに毎回セットで俺にプレゼントを購入してくれる。なんだこの子は。どこかの令嬢か何かか?


「あの、ちかげちゃん?」

「なんすか。改まって」

「お金、もっと大事にしたほうがいいんじゃない?」

「……千秋くんに言われるとは思わなかったっすね」


 俺に言われるとは思わなかった? どういうことだ。


「でも大丈夫っすよ、これ全部私が稼いだお金なんで。こんな機会じゃないと使えないし、好きに使わせてもらいます」

「そっか。でも、俺もそれなりに稼いでるからなんか買って欲しいものがあったら言ってよ」

「……じゃあ、あれ欲しいっす」


 そう言って指差したのは白猫と黒猫のペアのマグカップ。

 目についたものを適当に見繕ったんじゃないかと思ったが、彼女の目は楽しそうに商品を見つめている。


「本当にこんなんでいいの?」

「はい、千秋くんにもお裾分けっす。私が黒で千秋くんが白。ちゃんとおうちに置いといてくださいね」

「あ、あぁ」


 この可愛らしいマグカップは俺の家に合わないだろう。でもまぁ、置物としてどこかに飾っておこうか。

 そう思えるほどに今日の出会いは俺の中で記憶に残しておきたいものになっていた。


 時間もあっという間に過ぎていき、ディナーになった。

 自分は焼肉を食べたかったが、洋服をいっぱい買ったため今回は高級寿司だ。

 キョロキョロと物珍しそうに視線を忙しなく動かすちかげちゃんを見て、少し安心する。


「こういうところ、来たことない?」

「私、女子高生っすよ。こんないいところには縁がないっす。友達は普通の子ですし」

「やっぱり、ちかげちゃんは普通じゃないんだ」

「そうっすね。詳しくは食べながら」


 ふーん。勿体ぶるか。

 あわよくば弱みを握れたらいいが、今日は好感度を稼ぐことに集中しよう。

 女子高生だからお酒を勧められないのが残念だ。ここの日本酒はどれも飲みやすいから、俺はよく利用させてもらってるのだけど。


「へい」


 顔馴染みの若い大将から出される寿司は光り輝いている。

 そんな高級寿司をパクッと一口で食べる。


 その様子をじっと見つめるちかげちゃん。


「どうしたの、食べなよ」

「……女性を騙くらかして得た金で食べる寿司ってそんなに美味いっすか?」

「え?」


 何言ってるんだこの子は。というかどこで知った。

 彼女とあった出会い系サイトは初めてのアカウントになっているはずだ。どこにも黒い情報は漏れていない……と思う。


「いや、今日私が奢るって行ったのは千秋くんに羽振りのいい女を思われたいと同時に、そんな黒い金をあまり使いたくなかったっていうのがありまして」

「ちなみに、どこで知ったんだ。その情報」

「私、探偵なんす。ネット探偵。海外じゃもう立派な職業っすよ」


 ネット探偵。日本じゃ聞いたことないな。スマホで調べると確かに海外ではそれに似た職業があるようだ。


「もしかして、過去の女性から依頼があったとか」

「いえ、そういうわけじゃないっす」


 美味いっすね──といいながら小さい口で寿司をもぐもぐ咀嚼するちかげちゃん。結局食うんかい。


「ネット探偵の大半は、誰かに依頼を受けるとかじゃなくて、懸賞金、報酬金目当てで勝手に事件に首突っ込んで情報提供することで生活してるんで、本来、刑事事件とかになってない限りは行動しないっすね」


 へぇ、確かに普通の探偵業と女子高生を両立させるのは難しそうだが、ネット探偵はそう言った意味でやりやすいか。


「千秋くんはちょうどいいと思ったんす」

「何に?」

「助手。もとい私の手足として」

「助手?」

「はい。見た目良し、財力良し、行動力良し、頭も切れるでしょ。大学の講義受けなくても単位落としてないし、架空のバイトのスケジュール管理能力も」

「……どこまで調べてるんだ」


 褒められるのは嬉しいが、恐怖が勝つ。一体どこまで調べられているんだ。


「そうっすね、住所はもちろん、行きつけの美容院、使っている爪切り、一日のトイレの使用回数、ゴミの中身とかっすかね」

「気持ち悪いぞ」

「千秋くんのやってることとどっこいっすよ」


 そう言われるとそうなのかもしれない。俺は金儲けと割り切っているから感覚が麻痺しているが、他人に打ち明けられないものであり、後ろめたい気持ちはある。気持ち悪いと言われても否定はできない。


「私、知っての通り高校生なんで、行動範囲にある程度制限があるんす。でも千秋くんなら平日をデートに使うくらいには余裕あるでしょ」

「まああるけど。俺がそれに協力するとは限らないだろ?」

「……え、やってくれないんすか?」


 何を意外そうに言ってるんだ。明らかにロマンス詐欺の方が俺は向いているだろうし、楽だ。


「えー、じゃあ千秋くんの情報を過去の女性と同級生にばら撒くっすけどいいっすか?」

「……汚いぞ」

「汚いことやってるのはどっちっすか」

「──ぐぅ」

「その汚い金、綺麗な金に変えたくないっすか?」


 なんだその誘い文句。だが、僅かに胸がときめいた。

 ここでの選択が俺の未来を大きく変える気がする──



    ◇



「女子高生をお持ち帰りなんてやるっすねー」

「お前がついて来たんだろ」

「にしてもタワマンなんて初めて来たっすよ。テンション上がるっすね」


 やっちゃった。連れて来ちゃった。未成年。

 また一つ罪を重ねた気がして思わず髪をぐしゃっと掻き乱した。

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