第四章 大我と紀美代の出会い4

【お電話ありがとうございます、斎藤です。……はい? 白濱 大我ですか? こちらは斎藤ですが。はい、間違いなく斎藤です。間違い電話では? ――――なるほど。でしたら、白嵜しらさき公園に行ってみてください。そちらで、二人の兄弟が遊んでいる筈です。場所ですか? 〇〇市××町の白嵜公園になります。そちらに行ってみてください。先程言ったように、二人の、兄弟が、遊んでいる、筈です、ので】


            ▼


 千波 紀美代はとある住宅街にて、白嵜公園を探している。ただ、ここの住宅街は聞いた事がなかった。都内から少し離れているが、そんな地名があったのかとすら思えたほどに。何より、車では入れない住宅街だった。いや正確に言えば、出入り口に専用車しか入れないような仕組みのポールが飛び出していて、そこに××町と書いてあった。すぐ近くに車を停めて、徒歩で入ってきた。

 周りは、形様々な家が並び、車もちゃんとある。そして庭付き。豪華な住宅街なのか? と思いながらも目的地である白嵜公園へ向かう……のだが、何処にあるのか分からない。


「……誰一人いないなんて、どうなってるの?」


 そもそも、入ってきた時からおかしかった。出入り口を塞ぐポール、豪華な住宅街、誰一人いない道……。私は今、何処に迷い込んだのだろうか。そう考えていると、携帯が鳴る。紀美代は少々驚きながらも、携帯を取り出す。非通知と書いてあるが、構わずに出る。


「もしもし」

【どうやら道に迷われているようですから、その場所までご案内をしようかと思いまして、お電話をかけさせていただきました】

「……それはとてもご丁寧に。まさか監視されているのかしら?」


 声の主は、一時間程前にこちらから電話をかけた際に出た女性の方だ。周りを見るが、監視カメラの類は無かった。だとすると……住民達?


【では、こちらの言う通りに歩いてくださいませ】

「分かりました。宜しくお願いします」



 十数分後、一つの小さな公園の前まで来た。そこは、とても小さな四角い公園。いや、公園というには物が一切無さすぎる。ただの平地だ。ただ白い看板があり、白嵜公園と書かれている。そこに、昨日出会った子供と、高校生の服を来た男子生徒が――戦っていた。


「ほら! 大我! 動きが甘いよ!」

甲我こうがお兄ちゃんが速過ぎるんだって! けど……こうすれば!」


 子供が鉄の棒を地面に向けて叩けば、それだけで子供の身体が前へと飛び、高校生へと飛ぶ。鉄の棒を振り被り、思い切り上から振り落とす。それを高校生は、あろう事か殴り掛かった。ただ両手には何かが持たれている。その何かと鉄の棒が正面衝突をし、鉄の棒を弾き返した――が、振り落としていた子供がいない!?


「背後だろ!」

「っちぇ!」


 高校生が回し後ろ蹴りを放てば、その方向には子供がおり、両手でガードをした。そのまま回されて蹴り飛ばされるが、地面を蹴って斜め上に飛び鉄の棒を掴んだ――と思った時には、両手には鋭利な刃が付いた武器に変貌していた。


「(あれは、昭二先輩を刺していた刃物!? 鉄の棒がそれだったってこと!?)」


 ギリギリ、本当にギリギリで認識と、これだと思考が出来るくらいだが……仕込み武器であると分かった。


「そんじゃあ、こっからが本番だね! 甲我お兄ちゃん!」

「……いや、どうやらお客さんらしいぞ」


 高校生の子が、こちらに気付いた。それに子供も武器を持ったままこちらに気付き、笑顔で腕を振ってきた。


「お~~~~い!! お姉さ~~~~ん!! やっぱり僕に用が出来たんだね!!」


            ▼


「へぇ~~。コロシアムねぇ。しかも力を付与させる不思議な石を使っての、犯罪者バトル?」

「えぇ、そうよ」


 数分後、何処からともなくメイドが現れては簡易的なイスとテーブルが用意され、紅茶とお茶菓子がテーブルに置かれた。公園内でそのような状況になっているのにやや混乱するが、今はそうは言ってられない。出入り口にメイドと執事がいるのも……まぁ、今は無視しよう。


「それに僕が出場するってこと?」

「えぇ。というよりも……もう分かっていると思うけど、君にお願いがあって来たの。白濱 大我君」


 そう言ってゆっくりと頭を下げる。下げた顔には一つの決意があった。


「千葉 隼人を、君の手で殺してほしい」

「僕に?」

「ほぉ? 弟にか」


 顔を上げて二人を見る。本来であれば……いや、本来も何もない。子供に頼む事ではないにしろ、私としては一つの復讐が出来たのは間違いない。兄を殺した千葉 隼人の抹殺。それが私の復讐だ。


「お願いできるかしら」

「僕は別にいいよぉ。甲我お兄ちゃんは出しゃばらないでね?」

「出ねぇよ。俺だって今、色々と忙しいんだ。出たい! って答えたいけど、出れない! ってのが正直な話しだな。しっかし、そんな組織があるなんてねぇ。てか、その不思議な石ってのを管理しているってのは分かるけど、なんでそんな事をしているわけ? 犯罪者を減らすなら、普通に戦わせて殺し合いさせればいいじゃん? なんでしないの?」


 甲我が疑問に思った事を素直に言う。この甲我という高校生。服装は高校生の服をきているが、ワイシャツをズボンから出して上のボタンを三つ外している。顔はかっこいい系ではあるが髪型は普通で、一部にはモテるんだろうなぁと考える。


「これは上の方針なんだけど、私も知らないのよ。所長ならしっているかも知れないけど……」

「ふぅ~~ん。大我」

「ん? なにぃ」

「お前、ちょっと千葉ナントカって奴殺したら、その石をぶんどって来いよ」

「な!?」


 甲我の発言に、紀美代が驚きの声を上げる。が、甲我の提案に大我は笑みを見せる。


「いいねそれ! 遊びに使えそうだよね!」

「そうそう! えっと、紀美代さんでしたっけ? 俺の考え、その運営人怪しいと思うんですよ。んで、その石ってのも本当かどうか怪しいんで、一丁、奪いません?」

「い、いやいやいやいや!? 流石にそれは……」

「大丈夫、大丈夫。大我が勝手にやったって事にすればいいし。それに、それを認証してもらわないと、俺が親を説得して出場出来なくなりますよ? 俺、それくらい出来る男なんで」


 自信満々に言う甲我に、紀美代は頭を抱える。まさかそんな話しに発展するなんて……と。


「あぁ~あぁ~。お姉さんを悩ませてやんの。甲我お兄ちゃんって本当に周りの事を考えないよねぇ」

「あのなぁ。お前の事を考えてやってんの、こっちは。俺は俺で大変なんだぞぉ? お嬢様みたいなキャラの女に扱き使われてるんだからよぉ~~。いくら俺が強いからって、変な大会に出場とかあるか? ないね、ないない。だから俺は、その大会に優勝して、さらに上の奴らを引き摺り落とす計画を立ててるわけよ」

「へぇ~~。それって亜寿沙あずさお姉さんのこと?」

「あずさって平仮名で言ってやれ、あずさって。あの高飛車女が……はぁ~~」


 この子もこの子で大変そうだ。けど大会……大会……。そんな大会、あったかしら? と紀美代は考えるが、何も分からないので切り捨てる。


「まぁいいや。それで面白くなるのなら、僕はそれでもいいよぉ。その石? ってのを奪うのが僕の目的だったら、途中まではお姉さんと目的は一緒になるからね。その千葉ナントカは僕が殺すよ」


 笑顔で、変わらずの笑顔で答えた事に、紀美代は何処か安心する顔つきをした。


「それじゃ、戦いが始まる時は昨日渡された紙に連絡するから。基本的に始まるのは土日か平日の夜になるけど、大丈夫かしら?」

「僕は全然大丈夫だよぉ~。宿題は友達に任せておくタイプだからね」

「お前、やれよな。将来大変な事になるぞ?」

「曾爺ちゃんがやらせとけって言ってたもん」

「曾爺ちゃんか……。だったら仕方ねぇな」


 この二人の中で、その曾お爺さんがどういう人なのかちょっと気になった。


「ありがとう。あ、紅茶いただきます」

「軽く談笑しましょうよ。一応俺、昨日の売人殺しに加担していたんで、その時の話しでもしましょうか?」

「あぁ~~! それ僕の仕事取った話しでしょ~~」

「仕事じゃなく遊びな? 遊び」


 二人が仲良く話しをして、こちらはそれを聞く。いや、こちらも身内話はしたから、ある程度は仲良くなれたかも知れない。


            ▼


 数日後の金曜日の夜、大我を車に乗せて、森林が続く道路を走る車が一台。運転席には千波 紀美代がおり、後部座席には大我が、ちゃんとシートベルトを巻いて紙を見ている。


「それが初戦の相手。三木島 裕也。元引きこもりで爆弾を作ってニュース沙汰にもなった人間よ。普段は刑務所にいるけど、過去の大会ではベスト8にはなった人間ね」

「ふぅ~ん。なんかダサいね、この人。写真写り悪い」


 子供らしい発想なのか、確かにと思い、少しだけ笑った。


「勝てそうかしら?」

「勝てる勝てないじゃなくて、殺せるね。どんな感じなのか掴めそうだし。それに……あれが”呼び石”ってやつなんだね。不思議な石ってのが分かったよ、紀美代さん。僕、あれ貰うから」

「程々にしてね?」


 目指すべきは廃墟となったコンクリートのマンション。そこから、白濱 大我の戦いが始まる。


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