合格

「ふふっ……」


「何?ここから勇者を倒せる策があるのか?」


「ええ」


 ピエンが眼鏡をクイっと上げる。


「し、信じられん……貴様……」


「はい?」


「口から出まかせを言っているのではないか!?」


 魔王がピエンをビシっと指差す。


「何故そうお思いに?」


 ピエンが首を傾げる。


「信じられぬからだ!」


「……」


「なにを黙っている!」


「……信じられないのは私ですか? それともご自分?」


「!?」


「自信を失われてしまっているのではないかと……」


「くっ……」


 魔王は唇を噛む。


「違いますか?」


「……だ」


「はい?」


「ああ、そうだ! ワシは自信を喪失している!」


「言い切りましたね……」


「各地に派遣した幹部やモンスターは各個撃破され、頼りにしていた四天王も敗れさった! ワシは……ワシは……」


「………」


「勇者が恐ろしくてたまらん!」


 魔王が震え声で叫ぶ。


「ふむ……」


 ピエンが頷く。


「なんだ、おかしければ笑うがいい……」


「……ご無礼をお許しください……」


「ん?」


「魔王閣下、合格です」


「はあ?」


「ですから、合格です」


 ピエンは右手の親指をグッと突き立てる。


「ご、合格だと!? き、貴様……何を上から目線で……」


「前もってご無礼をお許しくださいと申し上げました」


「断りを入れておけば良いものではないわ!」


「そうですか、まあ、とにもかくにも合格ですので」


「だ、だから、合格とはなんだ!?」


「魔王閣下は援けに値する方であるなと……」


「あ、値するだと……? き、貴様、人間の分際で、このワシを値踏みしおったのか!? 身の程をわきまえろ!」


「生憎、こちらも慈善事業というわけではありませんので……!」


 魔王が凄んだのに対し、ピエンが笑顔から真顔になり、これまでより低い声で応じる。眼鏡がキラリと光る。


「なっ……!?」


 魔王がやや気圧される。ピエンが笑顔に戻る。


「……ご自分の現状をきちんと把握されている……これはとても大事なことなのです」


「大事なこと?」


「ええ、まずこれが出来ない方が多いものですから……」


「…………」


 魔王がピエンをじっと見る。


「? どうかされましたか?」


「神に祈るのも癪だ。ここは貴様に頼ってみようではないか」


「とても賢明なご判断です」


 ピエンがにっこりと微笑む。


「それで?」


「はい?」


「はい?ではない。どうするのだ? 退却先は確保出来ているのか?」


「退却先?」


「亡命とでも言えば良いのか?」


「亡命……?」


「態勢を立て直す必要があるであろう」


「ああ、その必要はございません」


 ピエンは右手を左右に振る。


「なんだと?」


「魔王様には、このお城で勇者を迎撃していただきます」


「な、なんだと!?」


 ピエンの言葉に魔王は愕然とする。

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