コミック書評:『ISO~異世界標準化機構』(1000夜連続16夜目)
sue1000
『ISO~異世界標準化機構』
――規格書一枚は剣と魔法に勝る
剣も魔法もろくに扱えない主人公が“標準化”を武器に戦う『ISO~異世界標準化機構』が熱い。
魔族やエルフ、オーク、獣人といった多種族がせめぎ合う西洋風ファンタジー世界。彼らは互いに文化も習慣も異なり、しばしば争いは絶えない。そんな中、主人公は剣を振るうのではなく、規格を揃え、ルールを作り、混沌を少しずつ秩序へ変えていく。
本作の面白さは、物語の根幹に据えられた“技術と制度による国力強化”にある。物語序盤、主人公が手掛けるのは武器や防具の部品、例えばリベットやベルトの留め具の寸法統一。これにより修理が迅速化され、前線の兵士の生存率が向上する。さらに、魔法の単位を統一し、地域ごとにバラバラだった魔力計測を共通化。魔法部隊間での連携精度が飛躍的に高まる。
他にも、矢や弓弦の規格統一で弓兵の補給効率を向上させ、馬具や鞍のサイズを揃えて輸送力を強化。宿場町の宿泊料金や通貨単位を統一し、旅人や商隊の移動コストを低減。暦と時刻制度を一本化し、遠隔地の軍と都市の連携をスムーズに。魔導書の記載方法を共通化し、学者や魔法使いが種族を超えて知識を交換できるようにし、治療薬や回復ポーションの成分と濃度を標準化して安全性を確保する。さらには、商人たちの度量衡を共通規格にし、取引の不信感を払拭する。
物語が進むにつれ、標準化は単なる便利化にとどまらず、種族間の信頼醸成にもつながっていく。武具の規格を共有することで、オーク鍛冶と人間の技師が肩を並べて作業する場面や、魔族の魔力計と人間の測定器が同じ値を示す瞬間に訪れる小さな感動。戦場で敵対していた者同士が、互いの規格書を手に取り「ああ、これはお前の村の方式か」と笑い合う。そうした積み重ねが、人類と異種族の関係を少しずつ変えていく。
主人公の成長も見逃せない。当初はただの“規格オタク”に過ぎなかった彼が、現場での摩擦や政治的駆け引きに揉まれ、標準化の裏にある利害調整の重要性を学んでいく過程は読み応え十分だ。敵味方双方の商人や職人、軍人との対話が増えることで、彼の視野は広がり、やがて異世界全体を俯瞰できる稀有な存在へと変貌する。
派手なバトルや魔法の応酬はほぼなく、代わりに描かれるのは地図、規格表、製造ライン、会議室での議論。にもかかわらず、本作には確かな熱量がある。それは「規格を揃える」という地味な作業が、最終的に戦況や文化交流を大きく変えていくという長期的なカタルシスに支えられているからだ。
異世界ファンタジーにおける“力”の形を問い直す――『ISO~異世界標準化機構』は、戦闘能力ゼロの主人公が、知恵と制度で世界を変えていく知的エンターテインメントである。
規格書一枚が剣や魔法より強くなる瞬間を、ぜひその目で確かめてほしい。
というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。
コミック書評:『ISO~異世界標準化機構』(1000夜連続16夜目) sue1000 @sue1000
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