運命を超える冒険譚 ー霊峰に宿る雨神の試練ー

光野るい

第1話 ミュトス学院にて

時代は現代よりもはるか昔。

ここはミュトス学院――今で言うところの学校である。


古文教師ののんびりした声が、午前の空気に溶けていく。

「…であるからして……」

そんな中。

「おい、ハリール!」

教室の端では、ボンクラのお調子者――ハリールが、机に突っ伏して豪快な居眠り中だった。

鼻息までリズミカルだ。

反応なし。

「ハリール!!」

地響きのような第二撃が飛び、ようやくガバッと跳ね起きた。

「は、はい!? 今の聞いてました先生!“であるからして”ですよね!」

「今言ったところだ!!」


古文教師は呆れを通り越して悟りの境地だ。

そのとき、教師は優秀なマーハーに目を向ける。

「マーハー、この古文書はどんな思想を伝えていると思う?」

マーハーは静かに立ち上がり、まるで詩人のように語りはじめた。

「“人は独りでは進めず、助け合うことで道は開ける”――この理念が根幹にあります。

随所に同趣旨の表現が見られ、筆者の生涯テーマだったと読み取れます。」

「さすがだ、マーハー!」


教室の女子たち

「マーハーすてき!」

「頭いいのにイケメンて何事!?」

「うちの村の誇りよ!」

と、すでに黄色い声の嵐。

その様子を横目に、ファティンが隣のハリールへ小声で言う。

「なんで寝てるのよ……まだ一時間目よ?」

「だって古文って、優しい子守歌みたいで……」

「いや褒めてないからね?」


★算術の時間

「…であるからして、この未知数の求め方は…」

算術教師が熱弁をふるう一方、その後ろで――


「モグ……モグ……」

「おいハリール!!なんで授業中にメシ食ってるんだ!バレバレだぞ!」

ハリールはスクロール(羊皮紙を長く繋げた教科書)で顔を隠しながら、パンをむさぼっていた。


「なんで今パンなのよ……」

ファティンが呆れて言う。

「算術って腹減るんだ。なんか脳みそが砂漠になる感じで……」

「説明が下手。」

その間にマーハーは黒板へスッと出て、問題を一瞬で解いてみせた。

女子たち

「マーハーってなんでもできるわよね!」

「顔もいいし、体型もスマートよね!」

「それに比べてハリールは……パンの妖精?」

「パンの妖精ってなんだよ!」

ハリールの悲痛な叫びは誰にも届かなかった。


★体術の時間

この時間は4里走(4kmの持久走)。

しかし、ここだけはハリールが輝く瞬間だ。


「へっへっへー!見たかファティン!一着だぜ!」

息を切らしながらも得意満面。

「はいはい、よかったわね……」

ファティンの反応は塩。


一方、その後ろでは――

「キャー!マーハー!速い〜!」

マーハーが二着でゴールした瞬間、女子の歓声が爆発した。

「は!?なんでだよ!?トップ俺だろ!?」

「まあまあ……」

ファティンにはハリールの扱い方が日々上達している。


★帰り道の女子会

ミュトス学院からの帰り道。

夕暮れの村道には、三人の女子の会話が響いていた。

アリア

「はぁ〜マーハーってかっこいいよね!頭よくて運動できてイケメンって、もはや神!」

ジェハン

「彼女いるのかな?いたらその子、前世でどんな徳積んだの?」

ファティン

「いや、マーハーは彼女とか興味ないと思うよ……たぶん」

アリア

「じゃあファティンは狙わないの?ファティン美人だし頭もいいし、絶対モテるよ?」

ファティン

「私はいいよ。彼氏とか欲しくないし」

アリア

「そっか〜……じゃあ私告白しようかな!」

ジェハン

「競争率高いよ?」

アリア

「ですよね〜……。で、ファティンは?好きな人いないの?」

ファティン

「別にいないよ」

ジェハン

「ひょっとして、ハリール……?」

ファティン

「えっ……」

その瞬間、ファティンのまつ毛がピクリと震え、ほんのり頬が赤くなる。

アリア

「そういえば席隣でよく話してるよね〜?」

一瞬の沈黙。

次の瞬間――

アリア&ジェハン

「きゃっはっはっは!!冗談だよ冗談!!」

アリア

「ファティンとハリールじゃ、月と牛のフンよね」

「い、言いすぎじゃない!?」

夕暮れの村道に、三人の笑い声がこだました。

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