第4話
椎名視点
現代は、写真に修正を加えた物ばかりが目立つ世の中である。
大学の合コンや、SNSに投稿されている写真など、
大なり小なり、そこで見る写真と違う女の子に何回会ったか、数えきれない程ある。
渡された写真で見た北条ゆいなの印象は、穏やかな微笑みを向けてくる女優レベルの美少女だった。
正直かなり可愛い。
しかし、最近の写真は加工されているから、
この写真は雰囲気だけで、信じない方がいい。
実際に会った彼女の事も、遠目から見ると顔はそこそこ可愛いけど地味だと思ったし、
本当に写真のこの子か?とちょっと戸惑った。
…いや、令嬢だからって少しでも良く見せようと修正するんじゃなくて、
依頼なんだから実物に寄せた写真を見せてくれよ。
とため息を吐く。
でも、よくあるパターンなので、別段驚きはしない。
写真と実物が違うのは、現代のあるあるである。
それで、普通の女の子だと思って近付いてみると、
かなり良い感じだと思えた写真よりも、美人な女の子だった。
優しげに作られた笑みを向けて来て、雰囲気が穏やかな感じで、
フルーツのような爽やかな良い香りまでする。
…こんな経験は初めてである。
…ギャップが凄くて、一目で、好み!と思ってしまった自分に、え?と思った。
俺、優しそうな清楚系が好きだったのかよ!
と個性的な髪色の、派手な俺には寄り付かないタイプが好みであったと初めて知った。
いや、好みとか。
俺は何を考えてるんだ?
相手はまだ子供!と首を振る。
彼女は高校生で、お嬢様であることは見ただけでわかる。
ボディーガードとかも常に彼女の側にいるし、20歳の自分からすると、手の届かない存在のように感じる。
彼女は高校3年生の、17歳だと語る。
今月が誕生日らしいけど、まだ未成年。
…年齢的にも距離を置くべきだ。
自分には無理だと、心の中で静かに首を振る。
目が合うと、吸い込まれてしまう様な茶色の瞳と目が合った。
その瞳は何処までも汚れがなく澄んでいて、単純に綺麗な目をしているなぁと思った。
そして、俺と目が合うと、暫く見つめ合った後、
困った様にニコッとされたので、
ブワッと顔が熱くなるのを感じた。
は?何だこれ!?
…嫌な予感がする。
そして、二回目、また彼女の護衛をしろと言われた際は、拒否した。
なんか、会えば会うほど嫌な予感が付きまとう子なのである。
こんな子、一度会うだけで十分である。
今回は他の霊媒師にと言うと、
「お前、前に彼女に会ってるだろ?
日本一の名家の家の子で、女子校育ちで男慣れしてない女の子なんだから、
別の男にしたら、困惑するかもしれないだろ?
それに、お前は霊媒師としては1番腕があるから、お前がいいと彼女の父親からのご指名だ。
期待しているぞ!」
とか何とか理由を付けて、結局俺が行く事になった。
その後も任務で何度か会うたびに、霊が関わる危険な状況に遭遇していたが、
なんとか手を貸して無事にやり過ごしていた。
ボディーガードは、何をしてるんだ?
役に立たない奴だな!と思ったが、
彼ら曰く、
急に彼女から離れていた。理由は分からない。
らしい。
つまりは、ボディーガードも憑かれるのである。
そして、他のボディーガードも同じ現象に悩まされていると聞き、彼は五人目だという。
毎回、ボディーガードが変わるのも、つまりは、そういう事なのかと理解した。
彼女は霊が見えないので、話が噛み合わない事が多々あったが、
理由も、見えない故の意見の食い違いと、明確なので、その天然発言も理解は出来た。
霊が見えない子を相手にするのは慣れてる。
たまに読めないけど、なんだか、雰囲気がふわふわしてて癒されてしまうので自然と許せるし、
逆に読めなくて面白い。
俺が彼女に惹かれてしまうのは、最早必然だった。
「お前、何回悪霊に取り憑かれるんだよ!良い加減にしろ!」
仕事で会うのも6回目になると、流石にうんざりする。
そう言うと、ゆいなはビビって、
怨霊が見えないので、意味も分からない彼女は、
首を傾げながらも、俺の指示に従っていた。
俺は結構な頻度で人を傷付ける言葉を言う上に、
傷付ける事を全く気にしないので、
彼女の事もかなり傷付けてるし、泣かせてる。
彼女は霊が見えないので、俺が何をしているのかも分からず、中々俺の職業を理解しようとしなかった。
霊媒師というのは、やはり、普通に生活している子には理解が難しい職業なのかもしれない。
「…お前に説明しても無駄かもな。
とりあえず、俺の言う通りに動け。」
と上から目線で言って、ビクビクされる。
最近は、彼女の態度も変わってきて、俺が来ると、笑いかけてくれるようになったけど、
少し前まではこんな感じで、話す時も、絶対に目を合わせず俯いて、はいとしか言わなかった。
体が硬くなっていて緊張されているのがこちらにも伝わってくる。
それを見て、
…マジで俺、怖がられてるんだけど?
誰にでも優しい清楚系美人にビクビクされんの、心に来るわぁ。
と思って、こんな態度しか取れない自分に自己嫌悪した。
…まぁ、最初の頃はガチで嫌われてたと思う。
俺基本、人の表情とか見ないんだけど、コイツの場合は違う。
顔が好みだからもっと見たくなる。
だから、怖がられてるって知ってる。
美人だから逆にやりにくいったらなかった。
傍(はた)から見ると、俺の発言が粗雑なのと、職業が霊媒師なので、
俺がヤバい奴に見えるかもしれないが、
これ人助けだからな!
くそ!彼女じゃなかったら勝手にしろよ!
とか少なからず思ったかもしれないのに、
彼女は、助けてやりたいという気持ちにさせてくる!
北条ゆいなは、どんな相手にも微笑みを浮かべて接するし、高齢者には席を譲るし、子供にも優しい。
女の子達にもいつも穏やかで、薄く微笑みながら、長めのおしゃべりにも静かに頷いて付き合っている。
性格も完全に良い子だし、嫌な事あっても、
私の対応が悪かったからとか考えて、一人で抱え込んでしまうような娘である。
真面目すぎるから疲れないのか?とも思うけど、
こんな捻くれてる俺にも微笑みかけてくれて、
気にしなくていいと言ってくれたり、
貴方らしいと受け入れてくれたりで、
それで心が軽くなって、難しい任務も上手くいく事なんてしょっちゅう。
その優しさに俺も何度となく救われている。
だから、お前はそれで良いんだ。
面倒臭いけど、追い祓ってやるよ。幾らでも。
時間が経つにつれ、段々とゆいなが粗雑な話し方をする俺を、真っ直ぐな目で見て来るようになった。
彼女は基本的に人の嫌な部分は見ない女の子で、良い部分を見付けるのがやたら上手い女の子である。
怨霊とか見えてない癖に、俺が彼女を守っている事は理解しているようで、
俺が傷を負うと、毎回優しい手付きで手当てしてくれる。
そして、ごめんなさい。と謝ってくるので、は?と思って?
コイツ何謝ってんだよ?と思った俺は、
謝る必要もないのに謝るんじゃねぇよ。
と言おうとしたのだが、その前に、ニコッと笑っていつも有難うございます。
と言われたので、目を見開いた。
…俺は捻くれている。
だからか、守ってやってる相手からも礼を言われる事は殆どない。
義務感で言ってる感じもなく、心から思っているのが、
コッチにも伝わってくる。
——優しげな穏やかな言葉遣い。
…それに、感謝とかあまりされた事のない俺は、
ストンと心の真ん中にその言葉が突き刺さった。
そもそも、俺の周りにはいない清楚系美少女。
そんな好みの美人からの捻くれている男への感謝の言葉。
しかも、俺が何を倒してお前を守っているのか見えてない癖に、
なんで感謝すんだお前?意味わかんねぇとも思う。
…でも、まぁ、惚れるよな。普通。
…はぁ、マジかよ!だから、嫌だったんだよ!
コイツと会うの!
あー、絶対に嫌われてんのに!
何で好きになるかなぁ俺!
と項垂れるしかなかった。
私の彼は秘密の恋人 @kiokunomaikyuu
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