第2話
さっきまで歌って踊ってた人が目の前でジュースを飲んでいるなんて状況、今日以外に絶対ないと思う。
「みなとさんってさ、OLさん?」
「まあ……会社員だからOLで合ってるのかな」
「へぇ! 何かすごーい。まともな大人って感じ」
ライブの10分後、郡山駅の中のファミレスでわたしたちは向かい合っていた。
パンツスーツのわたしとアイドル衣装にコートを羽織ったみふねの組み合わせは、店内でも浮いていると思う。
どっちが怪しいかと言ったら……わたしの方がさっきの男たちみたいに変な勧誘してる人に見えるんじゃ……。
ぐるぐる考え込んでいると、みふねがドリアをスプーンでつつきながら上目遣いで可愛く睨みつけてきた。
「ねぇ、ファンなのにあたしのこと何にも気にならないの?」
「いや何か……今日からのファンだし……まだ状況を飲み込めてないというか……」
「先着1名様限定! アイドルとサシ飯特典会〜、みたいな?」
「みたいな? って言われても」
アイドル文化をよく知らないんだから、これが本当にファンサービスなのか、わたしの犯罪行為なのか分からない。
「みなとさんはね、立ち止まってくれたとき、最後まで観てってくれるだろうなって思ったんだ。目がキラキラしてたから」
薄暗いアーケードでそこまで見えていたのか。
自分が目を輝かせているところなんて想像もできなくて焦って言い返す。
「そ、そんなに観客のこと見てるの?」
「見てるよ。当たり前じゃん。ファンの反応を生で見られるチャンスなんて、路上ライブのときくらいしかないし」
わたしは改めてみふねを見た。
激しく動いたライブ後なのに、一束も乱れていないツインテール。胸のリボン。衣装からはほのかに甘い香りがしている。
一方のわたしなんて……デスクワークをしてきただけなのに、ショートヘアはボサボサ、スーツにもシワが寄ってるし、メイクだって多分崩れてる。
恥ずかしくなり、少し身体をすぼめてしまう。
「アイドルって……すごいね」
ため息とともに素直な気持ちがこぼれた。
みふねは少しきょとんとしてからにひっとおどけた笑顔を見せた。
「ねぇ、曲も衣装も全部自分で作ってるの?」
「衣装は自作だけど、曲はアマチュアの人に作ってもらった。ネットで依頼して、1曲2万円」
「へぇ……わたし、アイドルにはハマったことなかったから……知らない世界だ……」
カチャカチャとドリアの米粒を集めるスプーンの音がして、自分の分にまったく手をつけてないことに気づいた。
冷めきったホワイトソースを口にすると、みふねは両手で顔を包むようにしてこちらを覗き込んできた。
「あたし、みなとさんのこともっと夢中にさせたいな」
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