人生最大級にビビった話
身ノ程知ラズ
人生最大級にビビった話
「事実は小説よりも奇なり」という言葉がある
イギリスの詩人、バイロンの作品にあることわざで
太宰治の「惜別」などさまざまな作品に引用されている
文字通り、現実での出来事は小説の中で語られることよりも
奇妙であるという意味がある
今まで深く考えたこともなかったが、そのことわざ通りなのかもしれない
と思う出来事があった
受験期に通っていた塾は最寄駅から一駅離れたところにあった
その日、運動不足だった私は少しでも抗おうと歩いて
塾から最寄り駅に向かうことにした
街灯もほとんどない田舎道をずんずんと歩いていた
単語帳を開く気にもなれないぐらいの暗さ、音楽でも聴きながら
歩こうかとイヤホンを取り出した矢先
私が歩いていた歩道の車道を挟んだ反対側の歩道に奇妙な人物が一人
ボロボロの衣服を身に纏い、男性とも女性とも判別しがたい見た目をした
いかにも不審者といった身なりであった
彼、もしくは彼女(以下、便宜上「彼」と表現する)は政治家のポスターを目の前に何やらぶつぶつ言っている
昨今の日本、政治家への愚痴の一つや二つあるだろうし無視して進もうと
思っていた
「キャアアァァアアアァァァア!!」
突然上がった奇声はお察しの通りその奇妙な人物から発せられたものである
奇声とともに彼はポスターが貼られてたフェンスをつかんで激しく揺らす
彼の奇声とフェンスの揺れる音が混ざった何とも不快な音が
田んぼの広がる田舎道に響き渡る
高校三年生であった私もさすがに恐怖を覚えた、が
それ以上に彼に対する好奇心が湧き上がってきた
彼はこれから何をしてどこへ帰るのか、気になってしまった
ひとしきりフェンスを揺らし終えた彼はまたもぶつぶつ言いながら
歩き始めた
奇しくも彼の進行方向は私と同じであった
並走するように歩いてみるも、彼の方が圧倒的に遅く
私は彼のペースに合わせることで手いっぱいであった
彼はぶつぶつ言いながら歩き続ける
時折頭を搔きむしる場面も見られる
始めは好奇心で彼についていったが、次第に罪悪感が芽生えてきた
もしかすると彼は精神に何か疾患を抱えた人物なのかもしれない
それをおちょくるように並走するのは倫理的にいかがなものか
もうやめよう、彼とは会わなかったことにして帰路を急ごうとした
「キャアアァァアアアァァァア!!」
またも発せられる彼の奇声
やはり精神を逆なでするのは得策でなかった
さすがに怖くなってきたので少し早歩きをし始めると
彼は車道を飛び越え私のいた歩道に移ってきた
一瞬、動揺で足が止まったが本能が走れと叫んでいる
私が走り始めた途端、後ろから足音が近づいてくる
振り向けば案の定、彼が追ってきている
捕まれば何をされるか分かったもんじゃない
私は参考書などが入った重い鞄のハンデをものともせず
無我夢中に走った
途中彼が何か叫んでいた気がするがそんなことはどうでもよかった
おそらく駅と駅の間の区間の四分の一くらいを全力疾走して
最寄り駅付近のそこそこ明るいところに着いた
辺りを見回しても彼の姿は見当たらなかった
彼は私を殺そうとしてきた通り魔的存在なのか
はたまた私にしか見えない怪異的存在だったのか
真偽は不明である
人生最大級にビビった話 身ノ程知ラズ @mizoken
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