第2話

「ラブカちゃんてさあ、まじでオーナーとつき合ってんの? あの人もう四十過ぎてるでしょ」


 餃子の一つくらい余裕で乗るんじゃないかってくらい盛られたまつ毛のゆみんさんが、更衣室で私にそう話しかけてきた。

 私の本名は愛花というので、それをもじってラブカと適当に源氏名をつけたんだけど、あとでラブカを画像検索して安易なネーミングを後悔した。


「ゆみんさん、年齢差別はよくないですよ」


「オーナーってお金くれる?」


「……まあまあです」


「思ってたほどじゃないんだ」


「ゆみんさん、心を読まないでください」


 たぶんゆみんさんは私と三四歳しか歳が違わないと思うんだけど、いつもなんだか格が違うなあと思わされる。

 ゆみんさんはオーナーとは適当に距離を置いているので、アイドルにも選出されていない。


「ラブカちゃんもっとこう、私お金かかるんよー、みたいな恰好すればいいのに。髪染めて、服とかアクセサリーもさあ」


「そんなことしたら速攻棄てられますって」


「あー、オーナーほかの子も囲ってるからなあ。みんなに配れるほどのお金持ちじゃないしなあ」


「性格的にもともと割とけちですし」


 そして二人で笑った。

 その日の仕事が終わった夜、オーナーのマンションで、入るなり二発殴られた。

 まず背中、よろめきながら振り向いた時にお腹。


「お前、人のこと笑ってんじゃねえよ。誰がけちだ、なら今までやった金全部返せよ」


 ゆみんさんがわざわざオーナーに話すとは思えないので、あの時物陰で聞いていた子が別にいて、告げ口したんだ。

 殴られたのが頭にきて、たまには強気に出ようかと思った。

 そういえばこの一ヶ月、牛丼しかおごってもらってない。この分ではクリスマスも牛丼屋だろう。いや、クリスマスに会ってくれるかどうかも分からない。それってつき合ってると言えるんだろうか?

 けど、本当に反抗することはできない。


 オーナーには本命がいて、マユちゃんというその子は、私の半分も出勤していないのに、お店に来るたびにバッグが違う。

 私のバッグは、昔ファッション雑誌に付録でついてきたぺらぺらのものを、ほつれをホチキスでとめて使っている。


 私は本命の次。二番目だ。

 二番目になろうとしてなってるんじゃなく、普通に男の人とつき合っているつもりが、気がついたら二番目だった。

 そんな私が今強気に出たら、二番目ですらなくなるのが怖かった。

 一度転落したら、たぶん私は、二番目まで這いあがってくることはできないと思う。そのまま一番下まで転げ落ちるだろう。


 私はへへえと笑い、ごめんなさあいと謝って、オーナーに頭を叩かれた。


 その時、ゆみんさんの言葉が頭の中で鳴った。


 みんなに配れるほどのお金持ちじゃないしなあ。


 みんな?

 みんなって、あと誰と誰? 何番までいるの?


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