ニューゲームリスタート②
「え!?しんちゃん弁当持ってないの!?」
午前の授業も終わりの昼休み、咲に誘われて屋上でお弁当を一緒に食べることになったのだが……咲の激しい口調が、空いっぱいに響き渡る。
「お、おう」
「じゃあお昼どうするつもりだったの?」
「インゼリーみたいな液体のものでいいかなと」
そう言って、僕はバッグからインゼリーを取り出して見せた。
「あきれた、こんなのじゃ午後の授業まで持たないよ……」
咲が困った顔でこちらをじっと見つめる
「腹に入れば全部一緒だし……」
「よくないよ!」
ぷっくりとほっぺを膨らませ、まるで今ここにお母さんが降臨したかのような剣幕で僕をにらみつける。そして、ふぅ、と小さくため息を吐いた。
「……もう。じゃあ僕の弁当、少しあげるから」そう言うと咲はバッグから、花柄の風呂敷に包まれたお弁当箱を取り出した。丁寧にほどき、太ももの上へそっと置いて蓋を開ける。色とりどりの野菜、照りのある卵焼き、そして肉汁が今にもあふれそうなハンバーグがぎっしりと詰まっていて、まるでこちらを『どうぞ』と誘ってくるようだった。「いいよ…今お腹すいてないし」
「ダメ!」
咲はぴしゃりと言い切ると、どれを食べさせようかと真剣な顔で弁当の中を品定めし始めた。やがてハンバーグをちょうど四分の一ほどに切り分け、その一口サイズを箸でつまむと、僕の前に差し出してくる。
「じゃあ、口開いて。はい、あ〜ん」
僕は頑なに口を開かずにいたが
「ねぇ!食べてよ!」
そう言いながらほっぺにハンバーグを当ててくる。むすっとした顔で、完全に“食べるまで許さないオーラ”をまとっていた。
もう逃げられない。僕は観念して、そのままパクっと食べた。
咲が出したパクっと食べる
「……うまい」
「本当!?僕の手作り、美味しいでしょ!」
咲は、まるでうさぎの赤ちゃんがご飯を食べるのを見て喜ぶお母さんみたいに、キャッキャと喜んでいる。
「咲が作ったのか?」
「そうだよ〜僕が作ったんだよ〜」
「こんなに美味しい弁当作れるなんて……」
「もう!僕も乙女なんだよ!弁当の一つや二つかんたんにできるもん!」
小学校の頃から一緒にゲームをしてきた間柄で、ゲームをしてきた相棒みたいな間柄でこのギャップは破壊力がある。でもまぁ
「将来はきっといいお嫁さんになれるな」
その瞬間、ぱっと顔を赤らめてこちらをビシビシと叩いてくる
「ば、バカ……! そうやって、毎回僕をドキドキさせるんだから……」
「咲、なんか言ったか?」
「なんでもないっ! ……ほら、もっと食べて!」
そう言いながらハンバーグを僕の口に半ば押し込むようにして、咲はくるっと背を向け、その場から走り去ってしまった。
「ちょ、ちょっと咲!?」
教室へ戻ると、咲が机に突っ伏して、もぞもぞと小さく動いていた。
「なぁ、なんか癇に障ること言っちゃたならごめんって」
「べつになんでもないし……」
完全にすねていた。こうなると咲は、なかなか心を開いてくれない……けれど僕は、こういう時の攻略法を知っている。
そっと、咲の机の上にお菓子を一つ置く。
すると、咲の視線がチラッとそちらへ向いた。そこで間髪入れず、僕はさらにお菓子を一つ、また一つと置いていく。咲は素早くそれらをつかむと、もぐもぐと食べ始めた。
「……おいしい」
「それは良かった。もっといるか?」
咲はこちらを見て、こくりと素直に頷く。
僕もそれに応えるように、机にお菓子を追加した。
「これ、お弁当のお礼だから」
咲は満足したのか、満面の笑みで『もっとちょうだい』と目で訴えてくる。
「もうこれ以上ないからな……」
一応、釘を差しとくと咲は『なぜバレたの!?』とでも言いたげに、目をくりくりさせて驚いていた。と、ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴り響く。
午後の授業中、特に目立ったことはなかったが、咲はびっくりするほど寝ていた。どれくらい寝ていたかと言うと、チャイムが鳴って数分後にチラリと様子を見た時には、すでに熟睡していたレベルである。そして時々、寝ていることを先生に注意されて、目をこすりながら妙なキョド方をしていた。そんなこんなで、無事に初日の授業が終わった。帰りの支度をしていると、よく眠ってすっかり元気になったのか、咲が勢いよく近寄ってくる。
「しんちゃん、帰ろう〜!」
「授業中ずっと寝ていたけど」
「え、そうだったけ」
とぼけた調子で言いながら、咲が僕をじーっと見上げてくる。
「ねぇしんちゃん」
「ん?」
「昔みたいに……僕とゲームしようよ」
懐かしさと、ちょっとしたドキッが入り混じる声だった。
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