裏切り者の賢者のすさまじい末路
佐松奈琴
第1話 裏切り者の賢者の再就職
──ユトレヒア、どうしてだ?
「どうして、だって? それを僕に言わせるのか? ……そうだね、最後に教えてあげるよ。……たった二人きりのこの旅で、勇者の僕より賢者の君の方が光を独占しているのがずっと耐えられなかったんだ。ルーフェンス、君のその
最後に聞いた友の声は歓喜に震えていた。
◆
薄汚れた酒場の隅で、俺はもう何本目かのボトルを傾けていた。
酔えば酔うほど、糸目の奥に残る碧い残光が疼く。
幻術のせいだとわかっていても、自ら祖国を売ったという罪の重さが、胸の底に沈殿して離れない。 だから、その女官が現れたとき、俺は笑った。
「俺を雇いたい? 正気か。俺は国賊だ。しかも、今はこの通り、酒に溺れるだけのただの廃人だ」
彼女は微塵も怯まなかった。
「我らの国王は実力のみを問うて過去は問いません。それに貴方の飲んでいるのは魔力酒でしょう。飲み続ければ魔力総量が爆発的に増えると言われている秘酒。酒浸りなどとんでもない。飽くなき向上心の証です」
俺はそのひどく不味い酒を一気に喉の奥へと流し込んだ。
昔のように魔力が戻る奇跡を夢見て、今日も肝臓を削っている。
だが奇跡など来ない。来るはずがない。
俺はもう、そんな春を待つ資格を失った男だ。
「月百五十万ペルク。屋敷も用意します。我がバーランド王国は小国です。財政は火の車、周囲は強国ばかり。しかし貴方が一流の魔術士を育ててくだされば、防衛費は劇的に減る。これが我らの賭けです。国の命運を貴方に託します」
その国は、俺の遠い祖国とは海と山脈を隔て国交すらなかった。確かにこれ以上の隠れ家はあるまい。俺はため息をついた。
「……結果が出なければ遠慮なく首を切ってくれ。俺も遠慮はしない」
◆
王立魔術学院の第五教室。俺は黒板の前に立ち、気だるげに言った。
「今日からお前らの魔術指南役となるルーフェンス・マークスだ。教師なんて柄じゃないから、各自好きに呼べ」
教室にいたのは、たった三人の少女だった。
最初にすっと手を挙げて立ち上がったのは、長い銀髪のどこか自信なさげな娘だった。
「あの……でしたら、マークス先生とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ」
すると次に隣の、ピンクのボブヘアに黄緑色の輝く瞳の少女が、くすっと笑いながら甘え声で言った。
「じゃあ、テイジーは、ルーフェンスせんせーって呼ぶねー」
「……勝手にすればいい」
最後に、短い赤髪の少女が勢いよく立ち上がった。
「ほなウチは、ルーフェ師匠って呼ばせてもらうで!」
俺は一瞬、言葉を失った。師匠。敬意を込めたその言葉とは裏腹に、まるで古い友人に呼びかけるような気安い声音だった。
まさか、また師匠と呼ばれる日が来るとは。胸の奥の凍りついた氷がわずかに軋んだ音がした。
だが、俺はまだ知らなかった。
この三人の少女たちが、やがて俺の呪われた人生を全く別の物語へと書き換えていくことを。
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裏切り者の賢者のすさまじい末路 佐松奈琴 @samatumakoto
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