第1話 「攻略本」が「予言書」である可能性について
最初は、本気で取り合うつもりなど、毛頭なかった。
妙な文字で綴られた冊子――「ゲーム攻略本」とやら。
意味だけは、まるで呪いのように脳へ流れ込んでくるが、内容は薄っぺらく、読むほどに苛立ちを覚える。
俺の教養では到底説明のつかぬ材質。
見たこともない文字体系。
そして何より、まるで俺たちの世界を外側から見下ろすような書きぶり――。
実に、不気味だ。
だが、無視できなかった。
それを思わせた決定的な理由がある。
「三つ。……三つも的中したか。」
これまでに、俺はこの冊子に記されていた「イベント」なるものを三度、目の当たりにしている。
ひとつは、庭園で起きた「魔力暴走の小規模事故」。
ふたつ目は、「父の執務室に届けられるはずの重要書簡」。
みっつ目は、「アリステラが侍女にうっかり紅茶をこぼす場面」。
どれも日常に紛れるような些細な出来事にすぎない。
にもかかわらず――
冊子の記述と、寸分違わぬ形で現実に現れた。
最初は、ただの演出かと思った。
「ゲーム」やら「ルート」やら、現実離れした単語ばかりが並んでいたからだ。
単なる妄想の産物――そう切り捨てることもできた。
だが、三度も現実になれば、話は変わる。
意図的な創作だとすれば、その書き手は俺たちの世界を……
覗いている。
いや、それどころか――
未来すら、見通しているのかもしれない。
知っているだけではない。
見えているのかもしれない。
「……冗談では済まされんな。こんなふざけた代物が『予言書』とはな。」
笑うべき場面だ。
だが、笑えなかった。
アリステラの名が、あまりにも当然のように――
「破滅ルート確定」と記されていたからだ。
そして、その断定的な筆致が、俺の神経を逆撫でする。
俺は冊子を机に叩きつけ、再びページを開いた。
《アリステラ婚約破棄 イベント》
侯爵三子アルフレッドは、ヒロインを庇い、悪役令嬢アリステラとの婚約を破棄する。
好感度+30。破滅ルートへ分岐。
「……戯言も大概にしろ。」
まず、「悪役」とは何だ。
次に、「ヒロイン」とは一体誰だ。
そして――
「アルフレッドがアリステラを捨てる? 馬鹿を言うな。」
あの男が妹に頭が上がらぬことは、周知の事実だ。
性格は軟弱、意志は脆弱、家柄だけが取り柄の飾り物のような貴族。
そのような者が、王都の貴族たちの面前で、堂々と妹を断罪するなど……あり得ぬ。
「……荒唐無稽にも程がある。」
だが、冊子は三度、未来を言い当てた。
しかも、いずれも完璧に。
もはや、完全に無視することはできない。
「……アリステラ本人に、確かめてみるか。」
怒りではない。
不安でもない。
ただ――
自分の知らぬところで、妹の未来が勝手に語られているというその事実が、
どうしようもなく癪に障るだけだ。
「俺の許可なく、破滅の道へ進むつもりなら……」
ゆっくりと冊子を閉じ、立ち上がる。
「兄として、その運命とやらを――全力で打ち砕かせてもらおう。」
たとえ、それが「物語」と呼ばれるものに抗う行為であったとしても。
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