第11話「黒竜との戦い」
「そろそろ「竜」に挑んでみたいのだが、どうだろうか」
盾によるガードにもめげずに、EXPの高いフィールドボス「ネクロス・アーマー」を何度も狩って、LVを46とした誠が、PTの皆に切り出す。
「悪くないですね。中程度のドラゴン、ブラックドラゴン辺りなら、今の私達ならいけると思います」
高LVの前キャラを持つ、PTのご意見番で金髪碧眼のプリースト、エルミーナが誠の意見を支持する。このとき彼女はバリア的スキル「プロテクト」をLV5まで取り+αの効果まで得ていたので、竜のブレス対策は出来ていた。
「いよいよ、やるのね。竜退治」銀髪をポニーテイルにした時魔導士のレザリアが言うと、
「でも、これで終わりじゃないよね?」青いとんがり帽子の魔法使い少女リフレが問う。
「ああ、もちろんだ。他にも強い幻獣は沢山いる。だから、これは俺の一つのケジメみたいなものだ」
赤い武闘服の誠が右手の拳を握って見せて、力強く答える。
「…なら、私も全力で行く」前衛の一人、戦士と騎士のスキルを併せ持つ自律型NPC、白髪の少女ミルラも乗り気だ。
「ブラックドラゴンなら、北東の墓場を東に向かった先の砂漠に出るわ。足場が悪いから、前衛は気をつけてね。」
エルミーナがベテランらしい助言をして、誠のPTは一つの目標である「竜退治」に乗り出した。
☆
難なく砂漠に着いた誠のPTだが、砂漠のMAPの砂塵による視界と足場の悪さ、激しく照りつける日照に、閉口した。
「思ったよりも厄介な地形ね。誠、コンボ乱さないでね。あなたがアタッカーなんだし、止め役なんだから」
「大丈夫だ。この位で乱れるほど、やわな鍛錬はしていない」
レザリアの懸念に、誠は冷静に答えた。
大体の居場所は、エルミーナが知っていたので、黒龍との遭遇自体は難しいものではなかった。問題は、この巨大なモンスターに勝てるかであった。
☆
この巨大な黒龍は、翼はあるが飛行してはおらず、4つの足で立っていた。そして、PTを見ると、威嚇するように咆哮した。
「プロテクト+α!」
最初に魔法を使ったのはエルミーナだった。本来は単体にかけるバリアスキル「プロテクト」だが、+αの効果で、PT全員にその効果が及ぶ。
「行くぜ!スピードアクセルLV3!」誠自身のAGIが+30となり、
「…私も、パワーアクセルLV5!」ミルラも自身のATKが+50される。
前衛二人の溜め発動スキルが終わると、今度は後方の支援魔法組である。
「やるわよ!コンボUP、LV5!」誠のコンボ数が+5回されて、
「こっちも!アタック+α」誠のATKが+50となる。
レザリアとリフレの支援が終わると、黒龍がPTに黒い煙のブレスを吐いてくる。
バリア魔法「プロテクト」によってそれは無効化されたが、同時に「プロテクト」の効果も切れる。
次に動いたのは誠だった。素早く黒龍に肉迫して、左右の拳と蹴りのコンビネーションで7発の打撃を入れると「喰らえ!」と、ここにきて上げていた「ガイア・アッパー+α」のスキルを見舞う。
ガイア・アッパーは通常、命中は下がるが高威力のスキルだが、コンボに入れる分には命中の低さは関係ない。そして+αまで上げると、吹き飛ばしとスタンの効果が付随される。
さすがに黒龍は吹き飛びはしなかったが、短時間のスタンは効いた。そこにミルラが駆け寄って、槍による戦士の上位のスキルを見舞う。
「行くよ…。クリティカル・フィニッシュLV5!」
クリティカルによる防御無視の2倍ダメージ+スキルATK補正のある槍の一撃を受けて、黒龍が悶える。
「スピードUP、LV2!」誠のAGIがさらに+15され、
「STRUP、LV3!」誠のSTRが+30される。
レザリアとリフレのさらなる支援の魔法だ。
ここでスタンから回復した黒龍が、誠らPTに黒い煙のブレスを再度吐く。
今度はまともに受けたPTは、多大なダメージを受ける。
「くっ!」
誠やミルラはまだ平気なレベルだが、エルミーナ、そしてレザリアやリフレら魔法使いは、HPの半分近くをダメージとして持っていかれる。
「まずいわ!プロテクト+α!」再度、エルミーナがPTにバリア魔法を張る。
「これでどうだ!」
誠はさらに拳の乱打の7発を入れると「ガイアアッパー+α」をかます。再びスタンする黒龍。だが、黒龍はまだ倒れない。
「ここは私が…。ヘイトオーラLV5!」
ミルラが赤いオーラを纏ってドラゴンのヘイト値を上げて、その囮となる。
「長期戦は不利ね。一気に決めるわよ、コンボUP、∞!」誠のコンボ数が一回だけ∞になり、
「ここは外せない。DEXUP、LV2!」誠のDEXが+20される。
レザリアとリフレが追加で誠に支援魔法をかける。
コンボ∞もそうだが、このDEXのUPは誠には有難かった。大技は当たると大きいが、外れるとロスも大きいからだ。
スタンから立ち直った黒龍は、「ヘイトオーラ」に釣られて、ミルラに右手の爪を振るう。が「プロテクト」のバリアで無効化される。
「止めだ!!」誠が黒龍に、様々な支援魔法を受けた拳と蹴りのコンボを繋げる。
フッ、ハッ、テヤッ、トリャ、デヤッ、トウリャア…………。
バキ!ベキ!ドカッ!ゲシッ!ガス!ゴス!…………。
その怒涛のコンボ攻撃に、黒龍のHPがガリガリ削れる。30HITを超えて、黒龍のHPが残り僅かにになったところで、誠は「ガイアアッパー+α」を、黒龍の顎に止めとして叩き込んだ。
ドグシャア!!
そのアッパーの最後の一撃で黒龍は轟沈して、その巨体がセル状になり、かき消える。
「LVUP!!」全員のLVが上がりシステムから「「ドラゴンキラー」の称号を得ました」との簡易メールが全員に届いた。
☆
「黒龍撃破!やりましたね!!」
リフレが誠を祝福するようにあどけない顔を笑顔にして言う。誠と真っ先にPTを組んだのがこの魔法使いの少女リフレであり、思う所があるのだろう。
「おめでとう、誠。でもこれで、終わりなんて言わないでね。強いモンスターは他にいくらでもいるんだから」
リアルで幼馴染のレザリアが言う。この銀髪にポニーテイルの髪型をした時魔法使いの彼女が使う「コンボUP」のスキルは、誠の攻撃力を、桁違いに引き上げて来た。
「ま、ひと段落ね。街に戻って一息入れましょう。」
全員に「ヒールLV2」をふんだんにかけて、金髪碧眼の美人プリーストのエルミーナが言う。ネカマだが、ベテランである彼女のアドバイスと、防御支援魔法がなければ、このPTは全滅していたかもしれない。
「よかったね、誠。私も貴重な戦闘データが取れた…」
自律型NPCの白髪の少女ミルラが幼い顔でにっこりと笑う。このNPCの少女は、運営から様々なデータを取るために、このゲーム世界に放り出されて来たのようなのだが、これも、その一環になったようだ。
「よし、今日は酒場で打ち上げにしよう。一つの節目だ。盛大に行こう!」やや高揚気味に誠がまとめる。
……こうして「ブラックドラゴン」を打ち倒して、首都ミラディの街に帰りついた誠のPTは、酒場に繰り出して、大いに歓談、談笑して、次の目的を見出すまで、自由きままににモンスター狩りをするのであった…。
拳法使いのVRMMO 夢月 愁 @214672
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