第2話「幼馴染、参戦」

 このVRMMOのスタート地点でもあるレバルト王国の首都ミラディで、誠はリアル幼馴染の高坂忍のアバター「レザリア」と合流した。


 レザリアは、銀色の髪をポニーテイルにしており、中性的で色白な美人。そして、灰色のローブを着て杖を持った、時魔法使いである。レンガ造りの家々を背景に早速FLを交換すると、レザリア曰く、


「誠のためにこのキャラ造ったようなものだから感謝しなさい。時魔法使いは支援のエキスパートでもあるわ。まだ、LVも1だから、LV上げにいくわよ。言っておくけど、すぐ追いつくから」


                      ☆


 こうなったのには訳があった。誠が高校で機嫌よく、鼻歌混じりで放課後の教室の清掃をしていたところを、不審に思った幼馴染の女子、高坂忍に捕まったのである。


「やけに機嫌がいいじゃない。何か面白い事があったのね?言い訳抜きで、私に洗いざらい話なさい」


 ポニーテイルの髪型に童顔で活発な彼女は、付き合いのいい友人であり、母を幼くして亡くした誠に何かと世話を焼いている。貴重な存在であったので、誠はここは逆らえないと悟った。


「何もやましい事はしていないし、隠す事でもないか。言っておくが、妙な誤解はするなよ」


 …そうして、誠はあるVRMMOで、魔法使いの少女リフレとペアで、武闘家のクラス「フィスター」の「誠」として、リフレの支援を受けつつ、モンスターにコンボを決めて、LV上げを快適にしている事を、語った。


「「フィスター」って地雷職じゃなかったかしら?ああ、でも誠ならコンボ入るかもね。拳法やってるし。でも、二人で冒険は限度があるわよ。よしいいわ。私もキャラ造るから参戦させなさい」


 そうして、即座にソフトを購入した忍が家に帰って、持っていたヘッドセットで時魔法使い「レザリア」を作り、合流、参戦することとなって、先に到るのである。


                     ☆


 そして、新たにナックル(ATK+10)をつけ、青い武闘服(DEF+10)を購入した誠は、レザリアを伴って狩りにでた。


 -下手すると、お荷物になるかな?-


 誠はレザリアを見てそう思ったが、彼女は杖を立てて呪文を唱える。


「いくわよ!コンボUP、LV1!」


 誠のコンボ回数が+1された。確かこれは、時魔法使いのほぼだれも使わない「地雷スキル」であったはずだ。しかし、誠にはこれは有難く、感覚を掴む為の素振りをする。


「ハッ、テイッ、セイッ、デリャア!」


 左右の拳に足払い、そして飛び膝蹴りのコンボが繋がる。


「なるほど、これは有難いな」


「当然でしょ。何年あんたの幼馴染やってるとおもってるのよ」


 少しいい雰囲気の所に、メールのアイコンが届く。リフレからのものだ。


「今ログインしたわ。いつものリザードマン狩りに行きましょう」というもので「新戦力が入った。いつもの所で落ち合おう」とだけ誠は返信した。


                    ☆


 結果として、リフレとレザリアの支援魔法の相乗効果は大きかった。


「アタックLV2!」と、リフレが杖を回して、誠のATKを+15追加すると、


「コンボUP、LV1!」とレザリアが、杖を掲げて、追加でコンボの回数を上げる。


「フン、ハッ、テイッ、ダリャア!」


 バキ、ベキ、ボキ、グシャッ!


 激しい打撃音と共に、オークファイターが轟沈して、かき消える。リザードマンでは物足りないので、南にある森に出向いてのことだった。背景グラフィックにはあまり力が入っていないゲームなのか、少し目の粗い葉っぱの目立つ、木々草花を背景に、戦う3人。


 そう、魔法的相乗効果は凄かったが、会話的相性は少し微妙なものになった。


「幼馴染とはいえ、彼の為に地雷スキル取るなんて、なかなかお熱ね」


 リフレが不敵な笑みを浮かべてレザリアに言うと、


「あら、リフレさんこそ、そのLVでアタックをLV2にしてるじゃない」


 と、レザリアも笑みを張りつかせて口撃の応戦をする。そして何かに気付いたように、誠に向かって。


「誠、きちんと攻撃スキルにポイント振ってる?このゲーム、コンボの最後にはスキルが入るはずよ?誠はLV10だから、「パワーフィスト」と「スラッシュソバット」「ガイアアッパー」が覚えられるはずよ。だからとりあえず、何か一つ取ってみたら?」


「ん?、そうなのか、てっきり単発でしか使えないものと思って使わなかったが…よし「パワーフィスト」をLV1入れたぞ。さっそくモンスターに仕掛けてみよう」


 レザリアの忠言に早速答えて、ウィンドウを出して、スキルPを振る誠。しかし、そのとき、異変が起こった。


「た、助けてくれ~」


 狩人らしい冒険者が、追われるように目の前を駆けて行く。そして、その後を追うように出てきたのは…。


「キラーベア、ヤバい、中ボスじゃないか…」


 狩人は茂みに逃げ込み、その黒い大熊は、誠たちにターゲットを移した。


 キラーベアの右手の爪の一撃を、誠がかわせたのは、幸運、いや、悪運だろうか。


「やるしかないな。支援たのむぞ!」


「「分かったわ!」」


 リフレとレザリアが支援魔法を詠唱する。


「アタックLV2!」


「コンボUP、LV1!」


 誠のATKが+15されて、さらにコンボが+1回出来るようになる。


「行くぞ…。セイッ!トウツ!ウリャッ!「パワーフィスト!」」


 ゲシッ!ドスッ!ガンッ!、グシャア!


 飛び込むような飛び蹴りから、左拳、右アッパーが入り、よろめく大熊に特攻するように右の拳が深々と入る。その、「スキル」をフィニッシュに繋げた4連撃で、黒い大熊「キラーベア」はドシャア!と大の字に後ろに倒れて、セル状になって、かき消えた。


「LVUP!」3人のLVがそれぞれ上がる。しかし、特に大したドロップアイテムは出なかった。


「誠、なにどうしたら、このLVで中ボス倒せるのよ…」


「あなたのコンボUPも一役買っているのを忘れてない?これは、PT全員の勝利よ」


「いいものは出なかったが、LVは上がった。あの狩人に感謝するところだな」


「「それは違うでしょ!!」」誠の発言に、女性二人が同時に杖で突っ込みを入れる。


 このあと、上がったスキルPで、新たに魔法を覚えたり、スキルLVを上げたりした3人は、首都ミラディに戻った後に、時間と言う事で、順次ログアウトした。


 これをこっそり茂みから見ていたかの狩人が、支援を受けて、スキルを交えたコンボを以って、中ボスを一撃で屠った武闘家がいると噂のネタにしたので、誠たちは、低LVにもかかわらず、ちょっと名の知れたPTとなっていったのは余談である…。






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