拳法使いのVRMMO

夢月 愁

第1話「拳法使いと魔法使いの少女」

 拳法使いの高校生、神道誠はあるVRMMOを「現実では戦えない竜の退治」を目的でプレイすることにした。


 神道誠は、アバター名も「誠」、外見もいじらずに-一応このゲーム内では違反ではない-にセッティングした。「俺は逃げも隠れもしない」とうそぶいて、このゲームの武闘家に当たる「フィスター」という拳のコンボが売りの「クラス」にした。


 この「フィスター」三連コンボが売りなのだが、そのタイミングが非常にシビアで、装備も薄いものしか着けられず、半ば地雷職と言われている。


 しかし彼は、このゲームのスタート地点であるレバルト王国の首都ミラディに降り立つと、初期装備の緑色の武闘着のまま、黒い長髪をなびかせて、レンガ造りの、冒険者達で賑わう街並みを通り抜けて門の外に出た。


 そこは昼間の草原で、スライムやラット、ゴブリン等がうろついていた。誠は構えを取ると、まず、三連コンボの素振りをした。


「フン、ハッ、テヤッ」


 左右の拳と右足の蹴りが、綺麗にコンボとして発動する。次は早速とばかりに実践に入る誠。人型でないとやりづらいのか、いきなりゴブリンを相手である。


「フッ、ハッ、トリャア!」


 懐に入り込んで、右、左の拳が胴に入れると、態勢の崩れたゴブリンに3連撃目のアッパーが入る。アクティブではあるが、さほど強力ではないゴブリンは、この三連撃であっさりと崩れ落ちて、セル状に分解して、かき消えた。


「LVUP!」


 格上の相手と戦ったからか、はたまたLVUPの早いゲームなのか、早速「誠」のLVがあがる。ステータスを出して、STR、DEXに振ると「いける!」と次のゴブリンに素早く襲い掛かる。ある意味、どちらがモンスターなのか分からない。


 3連撃を一度も失敗せずに使いこなす誠は、さらに3体のゴブリンを倒して、3LVとすると、ステータスを今度はSTRとAGIに振って「今日はこんなところか」と街にもどろうとした。


 が、その戻る途中で、ゴブリンに襲われている魔法使いの少女に出くわして、見て見ぬふりも出来ない彼は、ゴブリンに飛び蹴りをかました。


「トリャア!」


 飛び蹴りでゴブリンをノックバックさせてそのターゲットを取り、襲い掛かるゴブリンの小剣を左手で捌いてかわして、左右の拳と右足での前蹴りを見舞う。セル状に分解してかききえるゴブリン。


「大丈夫か?魔法使いのソロはきついだろう。まあ、頑張るんだな」


 とんがり帽子のあどけない顔立ちの魔法使いの少女は、その誠の武闘着の裾を掴んで曰く、


「ありがとう。強いのね。よければこのまま護衛してくれない?」


 とか、たどたどしく言い出したので、誠は端整ともいえる顔に微笑を浮かべて応じる。


「いいだろう。言っておくが護衛だけだぞ、危ないときだけ助けてやる」


 こうして、しばらく魔法使いの少女は、草原で薬草を取り、絡んできたアクティブのゴブリンは、誠が3連撃で叩きのめして倒していった。


 少女は両手に抱える程の薬草を持って街に戻ると誠に笑顔で言う。


「もうログアウトしなきゃ。私はリフレ。武闘家さん、よければFLを交換してくれませんか?」


 誠はこの魔法使いの少女とFLを交換した。そして、改めて名乗った。


「俺は誠。見ての通りの駆け出しの武闘家だ。縁があったらまた会おう」


 …そして少女リフレはログアウトして、時間なので、誠もステータスウィンドウを出してログアウトのボタンを押した。


                   ☆


 次の日、学校とそして父の経営する道場での稽古があるので、主にログインできるのは夜であったが、ゲーム内のレバルト王国の首都ミラディは、相変わらず昼間であり、中央公園の噴水前に降り立った誠は早速狩りに出る事にした。


 迷いのない3連撃で、さらにゴブリンを倒す誠であったが、そこにメールのアイコンが浮かび上がる。ステータスウィンドウから、メールを開くと、昨日の少女リフレからのものだった。そしてその内容は簡素で「迷惑でなければ、今日も手伝って欲しい」というものであった。誠は了解の旨を記したメールを送ると、草原でリフレと合流した。


「来たぞ。だが、あまり手伝いばかりもしてはいられない。俺はここで、どこまでやれるかを試してみたい。俺の拳法が、この世界でどこまで通用するか見てみたいんだ」


「ゲームなのに凄い気の入れようね。でも、それなら一緒に戦う仲間も要りますよね。よければ、私もPTに加えてください」


「支援は当てにしない性分なんだがな、好きにするといい」


 リフレはこれに、にっこりと微笑んで、杖を構えて呪文を唱える。


「アタックLV1!」


 この魔法で、誠のATKは+10された。力のみなぎりを感じる誠。


「これでも同じ事がいえますか?今日覚えたてなんですよ?」


 -つまりは、支援する気満々だったわけか-


 誠は、ゴブリンでは試しにならないので、流れる川の側をうろつくリザードマンを標的にした。調べではこれはゴブリンより、数段強いはずだ。


「フン、テイッ、デリャア!」


 バキッ!ゴスッ!グシャア!!


 激しい打撃音と共に、力のこもった3連撃で、崩れ落ちるリザードマン。その姿がかき消えると、誠のLVがさらに上がる。


 リフレが少し誇らしげに言う。


「どう?「アタック」は一撃ごとに追加ATKが+されるエンチャント。つまりあなたの3連撃では普通の戦士が一撃当てる3回分の追加ダメージが出るの。これなら、充分役に立つでしょう?」


 誠は意表を突かれた風で、軽く自分の頬をかく。


「ああ、何か少しイカサマのような気分だが、効果が高いのは確かだな。よし、これで当分LVをあげるぞ。今PT申請するから受けてくれ」


 …こうして、魔法使いの少女リフレをPTに加え、彼女の「アタックLV1」の支援を受けて、リザードマンを3連撃で狩り回った誠は、この日は大幅なLVUPを果たして、リフレのLVもそれを追いかけるように上がり、大戦果を挙げて街に戻ってログアウトしたのであった。




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