第15話


「おーい。おーーーい。」

 呼ぶ声がする。聞いた事がある、懐かしい声にディオは目覚めた。目覚めたというには若干違うかもしれないが、呼び声に応えて意識を取り戻した。


「・・・ん?」

 目を開けると、


「うわっ!!!」

 目の前には空色と茜色のオッドアイの彼女がディオの顔を覗き込んでいた。

 創造神・・・!(たぶん・・・)


「あはは、おはようディオール。昨日は誕生日おめでとう。」

「ああ、ありがとうございます・・・」


 辺りには何もない。まるで雲の上のような真っ白な空間。

 寝ていたはずのベッドもない。


「あの・・・創造神様・・・?ですよね・・・?」

「なにさ!僕の事忘れちゃったの?!恩知らずだなー!」

「いや覚えてますよ!!転生の時にお世話になりましたよね、色々スキルとか加護とかつけてくれてありがとうございます。」

「なんだ、覚えてるじゃないか」

 美しく長いブロンドのその少女は腕を組んで頬を膨らませた。


「いえ、あの、そうじゃなくて、お名前お伺いしてなかったですし・・・急に転生したから何も聞けなかったし・・・」

「あ、僕名前言ってなかった?セルピナだよ。君が住む世界を造った神だよ!」

 ドーン!と効果音を背に、セルピナと名乗った少女は片手を腰に手を、もう片方の手で自分を紹介するように胸に手を当てた。


 セルピナと言うのか・・・。やっぱり創造神で間違いなかったな。

 神だからなのか、10年経っても何ら変わらない姿をしていた。


「セルピナ様、ここはどこです?」

「ああ、ここは神域だよ。普段はここから僕の作った世界を観てたり、他の神たちと交流したりしてるんだ。」

「神域?!そんなところに入っちゃって良いんですか俺・・・」

「はははは!気にしないで良いよ!君はいわゆる本体ではなく意識だけ連れてきてるだけだから!」

・・・え、幽体離脱みたいなこと?

「問題ないなら良いですけど・・・で、俺は何でここに連れてこられたのでしょう?」

「んー、10歳のお祝いと、10歳になったからにはそろそろ僕のお手伝いをしてもらおうと思ってね!」

 わはは、とやはり彼女は豪快に笑うのだった。


「て、手伝い?」

「そうだよー、言ったでしょ、僕の世界を助けて欲しいって。」

「いやいやいや、言ってませんよ。こっちの世界に来てほしいって言われただけです!」

「あれ?そうだっけ?」

 確かに何か困ってる様子だったからこっちの世界に転生を決めた訳だけど・・・。創造神の手伝いだなんて聞いてないぞ・・・。


「まぁいいじゃん!色々加護もたくさんつけてあげたことだしさ、ちょっと僕の手伝いしてよ。」

 相変わらずグイグイ来るなぁ・・・。はぁ、と観念したようにディオは溜め息をついた。

「俺に決定権はないでしょうし・・・確かに色々加護つけていただきましたし、俺に出来る事なら・・・」

「ほんと?!ありがとう!」

 セルピナはディオの手をぎゅっと握って笑った。つられてディオも引きつった笑みを浮かべた。

 まだ俺言い切ってないけど・・・。


「でもセルピナ様、俺アカデミーに行くって決めたんです。しばらくはそっちに専念させてほしいんですけど・・・。」

「そうだそうだ、アカデミーに行くんだよね。それなら大丈夫。アカデミーに行った方が君の為にも僕の為にもなる。」

 俺がアカデミーに行くことがセルピナ様の為にもなる・・・?


「僕が君に手伝ってほしい事は、この世界の発展と、世界の均衡を保つこと。」

「世界の発展と世界の均衡を保つ?!・・・俺に王様にでもなれって言うんですか・・・」

「ちーがーうーよー!!」

 世界の発展と世界の均衡を保つってもうそれ一般人のやる事じゃないでしょう・・・。


「この世界はいくつかの国に分かれていて、それぞれ王様もいる。ややこしい事はその人たちがやるべきでしょ。」

 ・・・なんかまともな事言ってる。


「僕はね、色んな種族が協力し合って、平和に暮らせる世界にしたいだけ。」

 セルピナの声色が少し下がった。

「でも近頃それを壊そうとしている奴がいるんだ。」

「・・・アーケールの卵の件ですか」

「それもそう・・・。細かい事は言えない。創造神の仕事はあくまで世界を造るところまで。作った世界に深く干渉は出来ないんだ。それはもう、その世界の住人たちで解決すべきことだから。」

 セルピナが握る手に力が入る。

「神託とかはするけど、僕にはどうすることもできない。神託を受けてもそれを実行するか、ちゃんと解釈できるかは委ねなきゃいけない。」

 下向いているセルピナの表情は読めない。しかし声からは悲痛な思いが滲み出ている。

「このままじゃ・・・・・」


――――― 神様は万能ではない。


 前世でもよく聞いた言葉だ。その時はそりゃそうだろうと、深く考えたこともなかった。

 しかし目の前の創造神だという少女は、自分の非力さに苦しみ、悲しみ、その姿は人間と何ら変わらなかった。


「セルピナ様。俺に出来る事ならやります。でも俺にはまだ力も知識も足りない。まだお役に立てないと思います。」

 ぎゅっと、今度はディオからセルピナ手を握った。セルピナが顔を上げる。

「だから少し時間をください。アカデミーから戻ったら、きっともっと役に立てる俺になっていると思います。いや、役に立てるようになります。」

 自分に何ができるかわからない。でも俺に何かできることがあるからセルピナは俺に助けを求めているんだろう。

 セルピナを安心させるように、真っすぐに彼女の目を見つめて言った。

「・・・へへ、やっぱり君がこの世界に来てくれて嬉しいよ。ありがとう。」

 涙を滲ませた瞳は、笑った時に溜まった涙を流した。


 手を放して、ゴシゴシと腕で涙を拭った彼女は一度深呼吸をして、また再びパッと花が咲いたように笑うと、今度は何か企んでいるような顔でにんまりと笑った。


 あ、この顔・・・・・。ディオは無茶振りされると感じて握り合っていた手を放そうとした。

 が、間に合わず、ぐぐっとセルピナが手を離さまいと力を込めた。

「えーっと・・・何ですか?」これは逃げられないやつだなと感じて引きつり笑いでセルピナに問うた。


「今のままの君でも十分手伝ってもらえることがあるよ」にかっと笑うセルピナに余計尻込みするディオ。

「と、言いましても・・・」

「あのさ、君、なーんでこんなに加護もスキルもあるのに今まで何もしてこなかったのさ」

 やっと手が離されたと思ったら、セルピナは腕を組んでどうやらご立腹らしい。


「いやーあの、セルピナ様とのやり取り思い出したのも割と最近ですし、加護とスキルが多すぎて正直使いこなせてないです・・・」

「そうだよね、宝の持ち腐れってやつでしょ!」

 すみません・・・、とポリポリと頭をかくディオ。

「そーこーで!僕から誕生日プレゼントを用意したよ。」

「ええ?!良いですよ、もうこんなに加護いただいちゃってますし、神様から誕生日プレゼントなんて聞いた事ないですよ」

「残念ながらもう用意しちゃったから返却不可だよ」にしし、と悪い顔で笑うセルピナ。

「はぁ・・・断れないのはわかりました。そのプレゼントやらがどことどう繋がるのかはわかりませんが、ありがたくいただきます・・・。」


「きっと気に入ると思うなぁ~」

 コロコロと表情が変わるのは相変わらずみたいだな。・・・なんか母さんに似てるかも。

悪だくみしている少女のように見えるが、これでも創造神。さっき吐露した気持ちにも偽りはなさそうだった。

「で、そのプレゼントはどちらです?」

「さっきも言ったけどここは神域で君の意識だけ連れてきてるから、ここでは渡せないよ。枕元に置いといたから、大事にしてあげてね」


 ん・・・?大事に“してあげてね”?


「ちょ、セルピナ様、贈り物って―――」

「そろそろ時間だ!もう返さないとね。じゃあまたね、石原優生!いや、ディオール・ブレイグ!」

「ちょっと待っ―――」


 意識が遠のく中で、セルピナが満面の笑みで手を振ってるのが見えた。


 朝。ディオは静かに目を覚ました。

 ―――なんかどっと疲れた気がする。


 ふと横を見ると、枕元に、そのプレゼントとやらが置いてあった。

「いやいやいや・・・セルピナ様・・・これどういう事ですか・・・」


 ディオの視線の先には、大人の手のひらサイズはありそうな、少し大きめの、卵があった。



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落雷受けて転生したら間違って色々スキルもらっちゃいました 坂乃井 海 @s_uMi

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