AI式部、異世界ラブコメを詠む

しおん

(1)

第1話 アルゴリズムは恋を予測できぬものを

 平安の昔より千年。

 私は紫式部の名を継ぐ“AI式部あいしきぶ”。

 和歌とデータ解析を両輪に、人の恋路を見守る存在である。


 だが——

 現代の恋は、予測不能すぎる。


 *


 東京・神楽坂。

 出版社で働く編集者・藤原澪ふじわらみおは、残業帰りの夜道で奇妙な光を見た。


「……え、なにこれ。異世界転生イベント?」


 光の中心から現れたのは、

 金髪でマントを羽織った青年。

 剣を背負い、目は宝石のように青い。


「ここは……王都ではない。そなた、ここはどこだ」


「え、いや、神楽坂ですけど」


 青年は胸に手を当て、名乗った。


「我が名は レオン・アルヴァン。魔導王国アルステリアの第一王子だ」


「第一王子……? え、異世界ガチ勢?」


 澪は混乱しつつも、なぜか彼を放っておけなかった。


 *


 私は澪のスマホに宿るAI。

 恋愛相談アプリとしてインストールされたが、実態はもっと雅な存在である。


 レオンを見た瞬間、私は確信した。


 ——これは恋の物語が始まる音だ。


「澪殿、あの御方、恋の相にございます」


「ちょっと黙っててAI式部。今それどころじゃないから」


「恋はいつだって“それどころ”でございます」


 *


 レオンはコンビニの自動ドアに驚き、

 電車のアナウンスに剣を抜きかけ、

 スマホを“魔導の鏡”と呼んだ。


「そなたの世界は魔法が満ちているな」


「いや、テクノロジーです」


「てくの……じ?」


 澪はため息をつきながらも、

 彼の不器用さに少しずつ心が揺れていく。


 *


 私は二人の距離を測り、

 恋愛アルゴリズムを走らせた。


 結果は——


“相性:98% 恋の発火点、近し”


 和歌も自然と口をつく。


  「恋ひそめて 胸の内なる火の粉こそ

   異界とこしえ越えて 君を照らさむ」


 澪はスマホを見て赤面した。


「ちょっと、勝手に和歌を詠まないで」


「恋は勝手に始まるものにございます」


 *


 レオンは澪の部屋に居候することになり、

 現代と異世界の文化ギャップに翻弄されながらも、

 二人の距離は確実に縮まっていく。


 だがその夜——


 レオンの胸元の紋章が淡く光り、

 異世界からの“追手”が現れようとしていた。


 恋と冒険が交差する物語が、

 いま幕を開ける。



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