魔剣の剣聖 理不尽な悲劇を糧に心炎滾らせ灼熱き刀を燈す、幼少期の頃から過酷な人生歩み続けた結果、激重い感情を募らせるヒロインとの再会が期待される、現代剣戟ダークファンタジー
三流木青二斎無一門
幼少期
銅島家には一人の娘が居た。
少女の名前は
食は細く線が細い病弱な子供であった。
弱々しい見た目とは裏腹に、その容姿は幼女にしては大人びた雰囲気だった。
病に犯され多くの苦痛を得た彼女の相貌は儚くも美しく咲き誇る花の様に見えた。
「けほっ……けほッ」
咳をする度に彼女の喉が切れて血が混じる。
呼吸をする度に苦痛が広がり運動をする事も出来ない。
常に熱を体内に籠らせる彼女の姿は見るだけで苦痛だ。
それが娘の状態であると思えば、父親は健気な姿を見て心身を病むだろう。
「白亜、今日も来てくれたよ」
彼女の父親、銅島仟児が語り掛ける。
娘の世話により憔悴した彼は仕事を十全に熟すが、その代償として窶れた姿が人々の心配を買う。
それでも父親は娘の為ならば、例え悪にも染まる覚悟であった。
ある意味、彼は彼女の為に、剣の師として少年を囲ったとも言えよう。
「はぁ……はっ……あかし、ちゃん?」
眼を細めながら蒼褪めた頬を紅く燈しながら銅島白亜は悦びの表情を浮かべる。
千金楽燈心は父親に救われてから五年が経過し、赤子から少年へと変貌を遂げていた。
彼女の姿を視認すると共に挨拶をするよりも早く、心配しながら声を掛けた。
「大丈夫か?白亜」
少年の姿を見るだけで、銅島白亜は満面の笑みを浮かべてくれる。
銅島仟児は銅島白亜の体調を心配し田舎町へと引っ越した。
其処では自然と澄んだ空気が身体を癒す空間を生むが、同世代の子供との接触が皆無であり、流石に同い年であり異性の友達は居なかった。
だが、一つ年下ではあるが、聡明な少年であり、銅島仟児の元で剣の腕を学ぶ千金楽燈心は都合の良い話し相手として重宝しており、その役目を千金楽燈心も理解しつつも、彼女の境遇を鑑みて相手をしていた。
「ふぅ、ふぅー……ごめんね、あかしちゃん、お父さんと稽古、だったよね?」
折角の剣の修行を邪魔してしまったと言う銅島白亜に対して、千金楽燈心は首を左右に振って杞憂を払拭させる。
「ううん、今日は、白亜に逢いに来たんだ、俺が、白亜と遊びたいって思ったから」
素直な気持ちを以て千金楽燈心が告げると、その優しい声色と純粋な言葉に銅島白亜は涙もろく、落涙する。
「なんで泣くんだ?」
ただ喋っているだけで、悲しい気持ちにさせる気は無かった。
人の感情が分からぬ千金楽燈心は狼狽するが、彼女は咳をしながら頬をより一層赤くしていた。
「凄い汗だな……体、拭こうか?」
千金楽燈心の言葉に、銅島白亜は頷き体を起こす。
汗が皮膚を伝い、痩せ細った身体を濡れた布巾で拭う度に、縮こまった背中から骨が浮き彫りになる様を見て痛ましい感情を覚える。
……子供には伝える事は無いが、彼女は不治の病であり、十歳を迎える事が出来るかどうかすら怪しいと、周囲の使用人達の話を聞いた事があった。
「ごめん、ね……あかし、ちゃん、今日は、遊べない、かも」
鼻を啜りながら、次第に泣きじゃくる彼女を千金楽燈心は何度も背中を擦って安心させる。
「大丈夫、また今度にしよう、元気な時になったら、遊びに出かけよう」
些細な約束ではあったが、数ヵ月に一度、外に出かける程に体調が良くなる日がある。
丁度、病の症状が比較的軽症であった時、隣町では夏祭りが開催されていた。
保護者同伴の元、幼い子供二人は夏休みの思い出を作る為に真夜中の熱気に惑わされた。
太鼓や笛の音、神社の周囲に展開される無数の屋台。
規模はそれ程大きくはない、隣町と言えども所詮は田舎町に過ぎず、出稼ぎに来た的屋はおらず、殆どが自治体による身内びいきでの祭りであった。
「あかしちゃん、見て、おっきな、わたあめ」
それでも彼女にとっては新鮮な記憶だ。
大人が入り乱れ、空気には屋台の料理が漂い、目まぐるしい程に煌びやかな提灯や電球の光。
彼女にとっては全てが初めてであり……結局、それら全てが要因となり、祭の最中に体調を崩してしまう。
「はぁ……は、ぁ……お、とう、さん」
神社の片隅で、少女は息を切らしながら父親の腕の中で混濁とする。
折角の夏祭り、素敵な思い出が、自分のせいで台無しになってしまったと言う哀しみ。
涙脆い彼女は申し訳無さと不甲斐なさで何度も何度も、謝罪の言葉を繰り返す。
「せっかく、おめかし、したのに、あかしちゃんと、花火、見たかったのに……ごめんね、ごめんね、あかしちゃん」
彼女の悲痛な声に何も思わない千金楽燈心では無い。
ただ、彼女の涙が、綺麗な着物姿に似合わなかったから、どうにかしてその涙を止めたかった。
はらりと揺れる彼女の銀髪、その髪の毛を見て、屋台の一つに簪を売る店がある事を思い出し……全財産をはたいて彼女の為に簪を購入した。
全財産と言えども、子供が所持する金額などたかが知れている、店の中では上物とは程遠い、中の下くらいの値段をした無機質な簪だ。
それでも硬く耐久性のある簪は、何年でも使えると店主は言っていた。
「白亜、これ、あげるよ」
簪を渡して、白亜はそれを細い指先で受け取った。
彼女の体力では、簪ですらも重たいのか、受け取るとすぐに腕が地面に垂れかける。
それでもしっかりと握り締めて、銅島白亜は目を涙で腫らしながら彼を見つめ続けた。
「それ、店のおっちゃんが言ってたんだ、十年でも、二十年でも、長い年月が経っても壊れないんだってさ、今年はダメでも、来年、また花火を見に来よう、来年がダメでも、再来年、何年も、何十年でも」
その言葉は、恐らく父親ですらも捻り出す事の出来ぬ言葉だった。
大人になればなる程に、確証出来ぬ約束も、未来を語る事も出来なくなる。
無責任の中、罪悪感が次第に肉体を蝕み続けるから、病弱な彼女に語る事等出来なかった。
だからか、千金楽燈心だけは、彼女の将来を想い約束を交わそうとした。
遥か未来でも、千金楽燈心は、銅島白亜との未来を見据えていると。
「……一緒に、見てくれるの?何年でも何十年でも」
「約束しよう、白亜、何十年先でも、俺は白亜と一緒に……」
花火を見る。
その言葉が最後まで口にする事は無かった。
父親の腕から真っ直ぐに手を伸ばし、千金楽燈心の体へ向けて腕を交える。
強く、彼女の出来得る限りの力で抱き締めると共に、子供とは思えぬ妖艶な色気と共に千金楽燈心の唇が彼女の潤んだ唇に遮られた。
その時、初めての接吻を奪われた千金楽燈心は目を大きく開き声すら出せなかった。
口元を離して、目を細める銅島白亜は、恥ずかしそうに唇を簪で隠しながら告げる。
「なら……あかしちゃん、もし大きくなれたら、……白亜と結婚してね?」
「ぇ」
その時、千金楽燈心は声を出す事が出来なかった。
ただ、来年も一緒に花火を見ようと言う約束は、果たされる事は無かった。
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