火猿鬼とリボンさん
溶くアメンドウ
火猿鬼は誰?
———
———世界的に稀な存在の高校生だ。
俺は前世から柚子の事が好きだ。
全く意味が分からない事を言っている
自覚はある。
だが、本能とは止められる次元にはいないから。
好きだったし、今はもっと好きだ。
この先は半端なく大好きになる予報でもある。
「おい
「ん? あぁ。どしたザキ」
どーしたもこーしたもあるか!と
前世では日本舞踊の先生をやっていたザキは
麺を啜る動作を手を挙げるだけでやってみせる。
繊細さとは無縁の野球少年に見えて
手先も器用だし立ち居振る舞いも綺麗だ。
「まーた考えてたんだろ??
……
皆んなは柚子をリボンさんと呼ぶ。
かつて売れない作家であったところの
僕は頬杖着いて意味もなく黄昏てみる。
「ザキは
「あー……」
言い淀む時にザキは必ず右上を見つめる。
適当な言い訳を創造しているのだ。
「他にないしなぁ〜。
リボンさんだろうぜ?
———
お前絶対本人には言うなよな?」
「他人に興味ないみたいだしヘーキだよ」
「あ〜〜言わなきゃ良かった!!
コトダマコトダマ!!」
「超能力かよ」
ザキは矢鱈に言霊を信じている。
なら態々都市伝説の類に
首を突っ込まなければいいのにと思ってしまう。
それで、火猿鬼というのは殺人鬼の渾名だ。
俺達の世代が丁度
生まれ変わりだと言われている。
京浜東北線はこの時間、2号車なら座れる。
今日は角の席が空いていた。
「火猿鬼ってなんか元ネタがあんだっけか」
「ザキ、寝れなくなるぞ?」
「そーだけどさ…気になってもいるから
余計寝れねーって」
怖い話や都市伝説を聞いた晩のザキは
本当に迷惑な奴なんだ。
朝まで
ゲームしながら通話させられる羽目になる。
なので基本俺からその手の話はしない。
というよりもザキの友人の間では
一種の不文律として成立している。
それもあってザキは女子から大変不人気である。
『付き合いたくない男子ランキング』という奴の
上の方にザキの名があったのだが、
具体的に何位だったのかは———
……敢えて伝えないでおく。
「何かに取り憑いて獣みたいな行動をさせる
霊的な存在…じゃなかったかな」
主に動物に取り憑くが、
人間に憑く事もしばしば。
連続殺人鬼の手口はそんな火猿鬼さながらで。
「噛み付いたり鉄柵に頸から女性が
生きたまま突き刺されていたり……
野蛮なだけなのか精神が壊れてるのか」
全く理解し難い。
「グロ……ラーメン食えんかも」
「ダルいって」
「……今日の夜のご予定は?」
「マジダルいぞ、ザキ」
腹を鳴らしながらザキはラーメン屋より
2つ前の駅で降りていった。
ドアが喧しく閉まる。
『駆け込み乗車は大変危険です。
おやめくださーい』
左を見るがザキでは無かった。
アイツはその手の輩なので基本的に
学校の外では出くわしたくない友人筆頭だ。
さてと。
俺は発車して暫く、列車の揺れが落ち着いてから
ドアを挟んで隣の角の隣に座った。
角は彼女の指定席なので空けている。
寧ろスクールバッグを置いて確保しておいて
あげている。
『キヨ君また怖い話した?』
『ザキから鬼電来るんだけど!!』
「今日の被害者は
バレー部の心美は男子から大人気。
前世は三股して死んだグラビアアイドルで、
心は入れ替わっても身体はそのままらしい。
「人が良過ぎるのも考え物だな」
『今度なんかおごる』
『ほんと!!』
『焼肉とか?』
『インターハイ終わったらね!!』
『大好きっ♡♡』
『また浮気か?』
『またやめてね』
『焼肉は浮気じゃないですー』
「どんな基準だ…」
心美には一つ上のカレシがいる。
男女区別なく接する心美の人間的美徳を
三股という前世が相まって悪徳に変えているから
カレシさんは心中穏やかでないらしく。
校内で顔を合わせると
トーク履歴見して? ……と喧しい。
(アンタも前世バツ2の証券マンだろ…)
顔が整ってて高身長。
異性との関係がややこしい前世同士
お似合いだと思うけどね、俺は。
『———駅の次は〜〜〜』
「……前世がないってどんな感じなんだろう」
レールの切り替わりで大きく車両が揺れる。
当事者が直に乗り込んでくるのだから
聞いてしまった方がタイパはいいのだが、
どうしても思考が止まらない。
「生きる指針がないわけだし…いや。
また作り直すところから、か」
一般的には前世と全く違う生き方をするか
多少は電車の様に同じ線路を辿るか。
この二者。
「でも……無垢なままって事は
全てが新鮮なわけだし……」
仕組みが解明されているわけではない。
だが本能的に前世を知っている事は
俺達の標準的な能力だって事は確信している。
ザキが怖い話を聞くと眠れないのと同じく。
……説明が下手な自分が俺は嫌いだった。
「……こんばんは。キヨくん」
昼下がりなのに夜の挨拶。
いつの間にか指定席の主が乗車していた。
ドアが閉まる。
「よっす。柚子」
俺は慌てるでもなくバッグをどけて
柚子のも一緒に荷棚へと押し込めた。
「もう網棚じゃないんだよな」
「昔は網だったの?」
「あぁ」
鮮明に覚えてはいるが、
今や今週のジャンプもスポーツ新聞も
置き去られてはいなかった。
読書する柚子のちょこなん加減は
一種のお嬢様を彷彿とさせる風景だった。
柚子のスカート丈は今日も短い。
「今は何読んでるの?」
「舞姫」
「ほーん」
売れない作家として生きていたかつての俺は
『他人の影響を受けてはオリジナリチを損なふ』
と頑として読書を拒絶していた。
今でこそそれが致命傷だったのだが…
と自分ではない自分の黒歴史に俺は何だか
恥ずかしくなって来て耳の先を撫でた。
「聞いてもいい?」
「うん」
柚子が絹の様な髪を耳に掛ける。
映画のワンシーンみたいだった。
「前世が…いや。やっぱいいや」
「いいの?」
「いい」
彼女は質問されようが身体を触られようが
読書中は微動だにしない主義だった。
「短すぎるよ」
「この方が可愛いから」
「可愛いけどさー」
「嫌?」
嫌ではないと言える自分が俺は嫌いだ。
「可愛いからこそやめて欲しいかな」
「分からないよ意味」
「知ってる?」
———火猿鬼。
大きな蒼い垂れ目が一度だけ俺を見つめた。
そう、彼女も知っている。
「柚子は火猿鬼じゃないよ」
「え…どうして?」
余りにショッキングな前世だから
他人に知られたくなくて『前世がない』なんて
有り得ない嘘をついている。
彼女はそんな自分の外の世界の色眼鏡を
柚子自身、本当にそうなのではないかと
内心で疑心暗鬼なのだろう。
「柚子は柚子だから」
「キヨ君……」
「ん?」
人形みたいな無表情が小さく微笑む。
「変な人だね」
「かもな」
その後読書に勤しむ柚子をひとしきり眺めて
2人で電車を降りた。
ラーメン屋の一駅手前。
ここが柚子の最寄駅だった。
ばいばい、と相変わらずちょこなんと
柚子は手を振る。
俺も同じ調子でばいばい、した。
「……それで?」
柚子の背中を見送った俺の背中に
いつもの不審な後輩が立っていた。
「せ・ん・ぱ・い・♡」
「…いつものとこな」
「喜んで〜♡」
この口の輪郭が溶けてる残念な美少女は
一個下の新聞部女子・
火猿鬼が誰なのか突き止めるのが
ジャーナリストとしての使命っ!!
……なんだってさ。
(コイツも柚子が火猿鬼だと思ってんだろな)
大通りから裏手へ、昔ながらの飲み屋を過ぎて
ネオンライトが未だ輝く喫茶店の扉を開くと
懐かしい煙草臭さが俺と真緒を歓迎した。
相変わらず客入りが悪くて安心する。
「アイスコーヒー2つ?」
「よろしくー」
マスターとは前世から付き合いがある…らしい。
入店した時の姿勢が何か一緒?だとかで。
案内されずとも俺は一番薄暗いボックス席の
奥へとバッグを丸めてやった。
真緒は座る前に
小汚いメッセンジャーバッグから
ボールペンの走り書きの束を広げる。
「別に逃げないって」
「タイムイズタイムですよせんぱい♡」
「マネーだろ」
なんなら俺はコイツの方が余程
火猿鬼だと言われて納得出来る。
ベタついた腰まである長い黒髪に
紫色の見開かれた眼差し。
時折りヨダレが口の端から垂れてるのも
人間から逸脱した雰囲気を
演出してしまっている。
「少しくらい身嗜みを整えろよ」
「それで火猿鬼の正体が知れるなら
全財産でもぶち込むんですけどねぇ〜!」
「前世なんだっけ?」
「ボッキディウム・チンチンナブリフェルムの
メスです♡♡」
めっちゃ変な名前のセミじゃん。
「前世人間じゃないパターンって
逆もあんのかな」
ボールペンを咥えながら器用にも
真緒は解説を始めた。
「人間が人間以外に生まれ変わるという現象は
今の所確認出来ていないですねぇ〜。
———ただ、ですよ?」
ポールペンが素早く猿の絵を描く。
何故かゴリラだ。
しかも上手いし、メッチャ男前。
「近縁の
天文学的確率で起こっているのでは……?
なんて真しやかに囁かれてますねぇ〜♡」
「まるで火猿鬼だな」
「うーんどうでしょう?」
上がりっぱなしの口角が下がり
開きっぱなしの口が閉じられる。
黙っていれば本当に美少女なのにな、真緒。
「彼らの行動は一見野蛮で残虐に映りますが
殺す為の武器を量産し殺す為の訓練を受ける
人類の方が余程酷い様にアタシは思います
けどねぇ〜?」
「大分話が逸れてるぞ」
おっといけない!と
真緒は口を開きっぱなしに戻した。
「仮に前世が人間の猿がいたとしても
会話が出来るわけでもありませんし、
やはり人間から人間に…という定説の方が
自然ではありますよねぇ〜♡」
落とし所として、でしかない気はする。
ジャーナリズムというのはやはり俺には
分かり合えない代物の様だ。
「本命はやっぱり?」
「赤梨柚子———ではありませんよ♡」
「えっ……??」
「そんなに驚きますか〜??
何だかせんぱいの意外な一面が見れて
アタシ満腹ですぅ〜♡」
「感服な?」
それに真緒はよく食べる方だし。
コーヒー一杯で満足する訳がない。
冷たく苦い液体が
今日は何だかまろやかに感じる。
なら誰だと思う?と俺の心を先読みして
走り書きの束から何枚かを選んで
俺に差し出した。
見知らぬ名前達を視線で貫いてみるが
やはり誰もピンと来る感じではない。
「木本稔…目黒沙由香…ザキ!?」
「せんぱいのお友達ですよねぇ?」
「そうだけど…ザキはないって」
まずグロテスクなのに耐性がないし。
二重人格って線もありえないと思う。
それに何より。
「アイツ、夜は大体誰かと通話しながら
ゲームやってるからなぁ…」
「強力なアリバイ有り…と。
そもそも彼は知能が低そうなので
候補として弱過ぎると考えてましたぁ〜♡」
「言ってやるな…」
何だかんだ良い奴だかんな。
「美術のシノちゃん先生…?」
真緒の目元がいやらしく歪む。
本命は真緒の中ではそうなんだと。
「アタシなりに
火猿鬼の人格をプロファイリングしてみた
んですけどねぇ〜?」
また新しい走り書きを引っ張って来て
真緒は要点をペン先で俺に案内していく。
「噛み跡から成人男性とは言われてますが
恐らく被害者の女性は全員火猿鬼より
年下で才能溢れる人ばかりだった……
自身より秀でた才能の異性に対する
劣等感や逆恨みから犯行に及んだのでは、と」
「なるほど?」
一番重要な所を話すからか真緒の鼻先が触れる。
「シノちゃん先生は美大を目指していましたし
異性である女生徒の部員に異様に厳しい事で
有名ですから〜。
お世辞にも先生の絵は世間にウケるとは
言えませんしねぇ〜♡」
「なるほど…だがな、真緒」
はい?と首を真横に傾げる様子は
ホラー映画さながらだ。
「仮にシノちゃん先生の前世が
火猿鬼だったとして、だ。
前世が殺人犯だったとしても
生まれ変わってしまっているわけで。
体格や生き方だって
大なり小なり変わるわけだから
そんな簡単に同じ
「しますよ」
———凍りついた。
真顔の真緒なんて初めて見たし、
何より普段の猫撫で声ではなくって
無機質な機械から出たみたいに低い声に。
両手を顔の前で組んだから
今俺からは真緒の瞳しか見えない。
まるで神様が憑いてこれから予言でも
してしまうような、決定的な何かが
起こってしまう様な……空気感。
「アタシ、分かるんですよ」
「どうして?」
「前世がセミでしたから。
———
……って奴ですかねぇ〜♡」
その晩、柚子からメッセージが来た。
『助けて』
『誰かついて来てる』
♦︎
「柚子!」
「キヨ君っ…!!」
「うおっ?!」
遠くの電柱の影から人間の頭らしいものが
ユラユラと揺れていた。
激しく動揺しているのか、
それとも真夜中の陽炎なのか
小刻みに揺れている。
それでも影は立ち去ろうとせず
柚子を……というより俺を真っ直ぐ見てる。
何だか嫌な感じが続くので、
俺はとっとと叫んでしまった。
「真緒———っ!!!」
「は〜い♡」
ぬらりと俺の背後から。
高校生が半年バイトして漸く買えるかどうかの
一眼カメラを構えた真緒が揺らめく人影に
猪突猛進していく。
陸上部にいまだにスカウトされる
真緒の俊足に吃驚したのか、
はたまた水を差された事で気が変わったのか
人影は地平線の向こうへと消えていった。
「よく迷わなかったな、流石は……
それより怪我は!?」
何かあれば、と柚子には俺の家を教えてあったが
まさかこんな形で役に立つとは……
俺の胸に飛びついたまま啜り泣く柚子は
コクリコクリと深く頷いた。
本当に良かった、柚子に穢れ一つなくて。
「いや〜逃げられてしまいました♡」
「よくやった……とは素直に言えないが
本当にありがとな、真緒」
コイツのジャーナリズムという名の執念は
余りに無遠慮過ぎる。
変な死に方しないといいのだが。
真緒は写真も碌な物がないので〜♡とか
適当な理由をつけてとっとと消えた。
……。
(これはこれで気まずいんだが……)
変に空気を読む真緒の優しさが俺は嫌いだ。
「うぅ……私は、違うのに……」
「違うって?」
この真っ白で無垢な頭を
撫でてしまった方が良いのか、
それが優しさなのか欲望なのかと
色々逡巡していたので
かなり不意打ちを喰らった気分だ。
「火猿鬼……
私はただの赤梨柚子なのに……」
「そうだよ。柚子は柚子だ」
「うん……
キヨ君が……そう言ってくれるから」
「……うん」
好きな女の子の髪はとても柔らかかった。
結局悩んだ挙句に優しさを笠に着て
柚子の小さな頭に触れた自分が……分からない。
「どうする? 警察とか」
「ううん。大丈夫」
前世がないという特異性は、
柚子の中で人間不信という形を取っている。
だから俺は柚子の気持ちを尊重した。
「送るよ」
「うん」
初夏の夜の涼しい風とは対照的に
柚子の手はとても温かい。
「遠回りとか、しとくか?」
「大丈夫」
道を案内する為に柚子は少しだけ俺の前を歩く。
不安を抱えながらもしっかりとした足取りで
進む柚子の背中は何だか少し大きい気がした。
「なんで皆柚子の事誤解するんだろうな」
「前世がないから」
「結局前世なんて過ぎた過去の事なのにな」
—それはそれ、これはこれ。
本当に単純な話だと思うんだけど、
何故かこの考えは少数派の意見に留まっている。
「ふふっ……」
「柚子?」
笑う様な箇所は無かったけど……?
———世界がキヨ君だけだったら良いのに。
「あー……俺も、柚子さえ、いれば」
はにかんだ柚子の笑顔は鮮烈だった。
だからといって矢鱈にポエミーな台詞を
溢してしまった自分が俺はやっぱり嫌いだ。
「私の事、そんなに好き?」
「ちょっと待って!」
「待たないよ」
え、めっちゃ急じゃない?
でも言わないと柚子が手の届かない場所に
行ってしまう様な気がして、思わず。
「何回生まれ変わっても、全部。
柚子の事だけが好きっ……くらい、好きです」
柚子がクスリと笑って。
それから手を繋いだまま話もしないで
長い様な短い様な時間を掛けて
柚子のマンションに到着してしまった。
「変なの、キヨ君」
「変かも……でも柚子のせいだからな」
手と手が離れて……ほっぺに唇が触れた。
「私の彼氏は、変な人だな。
———だから好き」
「へ……」
「ばいばい」
「あっ……ばいばい」
オートロックが閉まるタイミングで
柚子の口がパクパクと動いていた。
『またあした』
俺はしばらく色々な感情を飲み込む為に突っ立て
それから漸く飲み込めて、走り出した。
「俺が彼氏だってッッ———!!!」
俺は近所のご迷惑も考えずに、
叫びながら帰路へと着いた。
♦︎
「ふわぁ〜〜〜」
特大の大あくびをかましながら
教室に入った瞬間目に入る、悲劇の知らせ。
「稔くん……なんでっ!?」
「心美……?」
泣きじゃくる心美と、
その周りに集まるクラスメイト達。
皆深刻そうな顔をして何も言えずにただ
立ち尽くしていた。
状況が分からない俺が席につくと、
ザキが涙目で俺のところにすっ飛んできた。
「ニュース見てないのか?!」
「ニュース?」
ザキのスマホの画面を黙って読み上げる。
(昨晩、高校生の木本稔さん(18)と
同高校教員・雨沢信乃さん(27)が
何者かに殺害された状態で発見された……
手口から警察は『火猿鬼』の模倣犯として
操作を進めている……!?)
木本稔、これは心美のカレシさんだ。
そして、シノちゃん先生。
「どうなってんだ……?」
「俺が知りてーよそんなの!!!」
「声でけーって」
「うぅ……なんでこんな事が身近に……」
「泣くなよザキ」
火猿鬼の模倣犯……どうして???
「清心先輩は…いらっしゃいますか?」
教室の外から下級生の女子が俺を呼んでいる。
俺は入り口で一度心美の方を振り返ってから
後輩に促されるままに新聞部の部室へと
足を運んだ。
「俺と会う時もその方が助かるんだが……」
「ふぅ……せんぱいの前では
ありのままの自分でいたいんですよ〜♡」
校内モードの真緒は本当に落ち着きのある
優等生の美人なんだけどな。
「で、例の件か?」
「もちろんです〜♡
苦労して
クラッキングした甲斐がありました〜♡」
「お前な……で?」
深く追求したら俺まで共犯になりそうなので
敢えて素通りしておこう。
真緒がノーパソの画面を俺に見せながら
ボールペンで要点を差していく。
「あれ、模倣犯じゃないんです」
「……本物?」
それはおかしい。
「報道されてない火猿鬼の特徴がありまして。
それが
「戦利品?」
殺しの証に何か持って帰ってるって事か。
「左耳の耳たぶ……
それを必ず切り落としてるんですよ」
過去7件の犯行で。
と、真緒はボールペンを咥えながら付け加えた。
「それじゃ今回も?」
「えぇ…と!!
申し上げたいところなんですけども〜♡
今回の2件は両方とも、右耳なんですよ」
「……なのに本物?」
「何か事情があって今回は右耳にせざるを
得なかった……そう読んでます♡」
「なるほど」
更に驚くべき点がある、と話は続く。
「犯行時刻が全く同じで、凶器が違うんですよ」
やっぱり。
「それはつまりあれか?
火猿鬼の
真緒はゆっくりと頷いた。
「……そんな事が有り得るのか?」
「起きてしまっている以上間違いありませんよ」
「それもそうか」
どう理屈を捏ねようが既に事は起こっている。
猟奇殺人犯が、2人いる。
「しかしウチの高校の人間が2人も殺された…
火猿鬼は、校内にいるのか……?」
「火猿鬼『達』でしょうね〜♡
犯行時刻からしても連携している可能性は
充分あるかと思います〜♡♡」
確かに。
そう見えるよな。
「しかし動機が違い過ぎないか?
若い女しか殺してなかったよな??」
「それはホントにそうなんですよね〜。
生まれ変わったので殺したい対象が
ガラリと変わった……とかですかね〜♡」
ある程度意見を交換し合ったところで予鈴。
真緒が校内モードになったのを見届けて
俺も無人の静まり返った廊下を早足に進む。
「しかし本当に面倒くさいことになったな…」
放っておけば柚子に危害を加える可能性だって
あるわけだ。
彼氏、そう公言されて尚更
俺の庇護欲は爆発している。
ポケットから右耳の耳たぶを取り出す。
これは木本稔のものだ。
忌々しい———柚子に寄りつきやがった虫の。
ストーカー紛いな事までしやがって。
「お前が本物なのか偽物なのか知らないが……」
耳たぶを奥歯ですり潰す。
必ず俺の手で———
「惨たらしく殺してやる」
火猿鬼とリボンさん 溶くアメンドウ @47amygdala
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