ep45:陽太視点⑬
エトワールの宰相の娘・カレン。
彼女を歓迎する宴で、俺は話しかけずに少し離れた位置に立ち、兄とカレンが話すのを眺めていた。
(勉強に集中? 社交の場に出るのは初めて? ……そんな馬鹿な……)
この世界のカレンは、ゲームのカレンとは別人みたいに性格が違う。
悪役令嬢カレンは、プライドばかり高くて勉強嫌いだった。
派手好きで目立ちたがり屋で、お茶会でもパーティでも欠かさず出ていた。
この世界の貴族は、3歳から子供同士の交流パーティがあり、それをきっかけに婚約者が決まることが多い。
「アストル殿下、ミシオン嬢と話されないのですか?」
「ああ、俺はやめておく。話がしたいならお前たちが行ってくればいいぞ」
話しかけようとしない俺を気遣って聞きに来たのは、貴族の令息たち。
俺が言ってやったら、彼らは喜びを抑えつつ黒髪の美少女に話しかけに行った。
社交の場に出るのが初めてと聞いて、婚約者候補に入ろうとしているようだ。
ゲームのカレンは3歳の頃に、エトワール王宮のお茶会でレグルスと出会い、婚約したという設定になっていた。
この世界のカレンが王宮のお茶会に出ていないということは、レグルスとの出会いもまだなのか?
「ミシオン嬢、お聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、よろしくてよ」
「今までお茶会やパーティに出ておられなかったそうですが、婚約を決めたお相手はいらっしゃるのですか?」
「いいえ。魔法の勉強に専念したくて、婚約などは考えておりませんの」
彼女は、婚約者選びよりも、魔法の勉強がしたいらしい。
令息たちがプロポーズに至る前に、シャッターがらがら閉店状態になってしまった。
婚約者候補に加えてもらえない少年たちが、スゴスゴと引き下がっていく。
ゲームのカレンなら、自分の理想の男性像を語る筈なのに。
エトワール王太子レグルスと婚約済ならそれを自慢する筈だが、名前すら出てこなかった。
◇◆◇◆◇
「彼女から、どうして火球が降る前に防壁を張れたのかって聞かれたよ。アストルの指示で防壁を張ったことは隠しておいたからね」
「うん、ありがとう」
カレンのソレイユ滞在2日目、兄が俺の部屋に来てコッソリ告げた。
書庫で去年の魔族襲撃を防いだことについて聞かれたらしい。
魔法を学びに来たのだから、魔法防壁にも興味があるのかもしれない。
魔族ペリルの攻撃を防いだのは、母と兄が光属性魔法を合わせて作り上げた防壁だ。
その防壁が火球を目視する以前に張られたことは、ソレイユ国民の多くが知っている。
「空が暗くなった途端に、光の防壁が張られた。その直後、大きな火の玉が幾つも降ってきた」
あの日のことをソレイユ国民に聞けば、たいていの人はそう答える。
火球が見えてからでは防壁が間に合わなかっただろう、とも言われている。
王妃または王太子が、優れた危険感知能力をもつのではないか、とも噂されていた。
「俺が指示したことは、他の人には言わないで」
聖剣の間で、俺は両親と兄に口止めした。
知っている出来事は、5歳までのことだけだから。
滅びる筈のソレイユが無事だった今、ゲームや映画の記憶は参考にならない。
民衆から預言者だと思われては困るからね。
勇者の力をもつことも、未だ隠している。
魔法学園に入学して鑑定を受ければ、全属性もちはバレるけど。
光属性があっても勇者とは限らないことは、兄が証明済だ。
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