ep12:陽太視点②
俺にとって不幸中の幸いだったのは、転生前に観た映画の内容をハッキリと覚えていることだろうか。
これから何が起きるのか、映画【星空の彼方~亡国の王子~】を観た俺は知っている。
ソレイユ王国は、青く澄んだ海に囲まれた島国だった。
絶対君主制でありながら、国民の満足度はとても高い。
怪我や病気は、神殿へ行けば無料で治療してもらえるので、健康な人が多い。
豊富な海洋資源と肥沃な大地が育む農作物が自慢で、人口が少ないからかノンビリした雰囲気があった。
ソレイユ王家は、勇者を建国の祖とする血筋だ。
生まれてくる子に光属性があることは、珍しくない。
現王妃シェリルは国王の従姉妹であり、聖女の力をもっている。
第一王子アレクサンドルは、母と同じく光属性の治癒魔法を使うことができた。
「母上、アストルを抱っこしてもいいですか?」
「ええ。落とさないように気を付けてね」
「はい」
天蓋付きのベッドに腰かけて、赤ん坊の俺を抱くのは兄アレクサンドル。
事前に練習でもしたんだろうか?
幼い子供なのに、赤ん坊の抱き方が上手い。
俺の視界はまだぼんやりしていて、兄の顔はよく分からなかった。
「歩けるようになったら、一緒に遊ぼうね」
優しく話しかける声がする。
そっと抱き締めてくれる腕のぬくもりは、母と同じで心地よい。
「可愛いアストル。転んでもケガをしないように、僕が守ってあげるよ」
愛しさを込めて、額にそっと口づけられた。
惜しみなく愛を注いでくれる兄は、映画と同じ未来なら無残に殺されてしまう。
(……守りたいものが増えたな……)
安らぎを感じる一方で、俺はそんなことを思う。
兄に抱かれながら、俺は心の中で「ステータス」と呟いた。
ゲームでは見ることができなかった、アストルのステータスパネルが空中に現れる。
母シェリルや兄アレクサンドルに見られることはない。
このパネルは視覚で感知しているのではなく、俺の脳に直接投影されるので、視覚が未発達の赤ん坊になっていてもハッキリ見える。
アストルに転生した俺は、プレイヤーが主人公のステータスを見るように、能力値や属性を見ることができた。
(光・火・水・風・土・闇……やっぱり全属性か)
ゲームのアストルは、様々な武器を使いこなす一方で、多彩な魔法の使い手でもあり、プレイヤー泣かせの難敵だったのを覚えている。
全属性は、主人公と攻略対象たちに力を分け与えるために設定されたんだろう。
(……ラスボス戦で主人公たちに付与する魔法が全部揃ってるな。でも、今は使えないのか……)
ステータスには様々な魔法の名前が並んでいるが、ほとんどは「使用不可」の表記が添えられていた。
使用不可になっているのは、それを使うのに必要な魔力が足りないからだ。
アストルが使う魔法はどれも強力だが、消費魔力が多かった。
(確か……ゲームでは、魔力切れで失神寸前になるまで魔法を使えば、魔力量が増えていたな)
美月や華蓮ちゃんのゲームを手伝っていた記憶をもとに、俺は魔力量を増やすことを考えた。
映画のアストルにはできなかったことが、俺にはきっとできる。
魔族の襲撃までに、勇者の力を使えるようにしよう。
(何もできない子供のうちに攫おうとするのなら、その前に勇者として覚醒しておこう)
ファンのSNSで「ラスボスより強い」と言われたアストル。
その力を、魔族の襲撃までにどのくらい使えるようになるかで運命は変わる。
悲劇の未来回避を目指して頑張ろう。
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