陽太~アストルの幼年期

ep11:陽太視点①

 意識が戻ったとき、聞き覚えのある男女の声が聞こえた。

 誰だろう? 最近聞いた気がする声だけど、家族や友人たちの声じゃない。

 目を開けても視界はぼやけたままで、人の顔も風景もほとんど分からなかった。


 俺、どうしたんだっけ?

 美月や華蓮ちゃんと一緒に、電車に乗ってた筈だけど。

 途中で列車が大きく揺れて、咄嗟に2人を抱き寄せて庇ったところまでは覚えてる。

 首の横を何かが掠って、今まで感じたことがないような激痛と同時に、首から凄い勢いで血が噴き出して、急速に意識が遠のいていったような……

 ……そこから、現在までの記憶が無い。


 それにしても、間近で泣いてる赤ん坊、誰だ?

 って思ったら、声は自分の口から出てる?


 困惑していると、不意に誰かに抱き上げられた。

 身体に、凄い違和感がある。

 そもそも、身長180センチ超えの俺が、そんな軽々と抱き上げられるか?


「おお、幼いながら美しい顔をしておるな」

「陛下と同じ、夏空のように青く澄んだ瞳ですわ」


 男性と思われる低く深みのある声と、女性らしい柔らかく澄んだ声が聞こえる。

 その会話を、ほんの少し前にも聞いた気がする。

 どこで聞いたんだっけ?

 視界がぼやけていてよく分からないが、2人に顔を見つめられてるような気配を感じる。


「髪はそなたと同じ黄金色か」

「光属性を持っているかもしれませんわ」


 んんっ? 

 なんか、中二病ハートをくすぐるワードが出たような?

 意識を失う前の記憶と、身体が小さくなってるらしい今の状況、まさか……

 ……って考えてたら、俺を抱えていた男性らしき人物は、ベッドに横たわっているっぽい女性の横に俺を寝かせた。

 それから告げられた言葉は、俺を仰天させるものだった。


「この子の名はアストルにしよう。アストル・プランス・ル・ソレイユだ」


 ちょっと待て!

 その名前は……


「ありがとうございます。この子も乳母には預けず、わたくしが育てますわ」

「それがよかろう。聖女の力をもつそなたが育てたなら、心身共に健やかに育つであろう」


 この2人のやりとりも、少し前にも聞いた記憶がある。

 実在の人物ではなく、映像の中で。


 映画【星空の彼方~亡国の王子~】。

 その冒頭シーンと同じじゃないか!

 俺は、どうやら転生してしまったようだ。


 もしもこのまま、映画の通りに進んだら……。


 この国は、アストルが5歳の誕生日を迎えた日に、高位魔族の襲撃を受けて滅びる。

 アストルは連れ去られて生き残り、魔王城に幽閉されて洗脳を受ける。

 15歳になる頃には、自我の無い操り人形みたいになってたっけ。

 最後は聖女ルナと攻略対象キャラたちに倒されて、肉体を失うのと引き換えに洗脳から解放されるんだ。


 ……そんな未来は、嫌だ。


「愛しい子。あなたが健やかで幸せであるように、毎日神様に祈ってあげますからね」


 母である人の、優しい声。

 その腕の中は、暖かくて心地よい。

 乳を含ませてもらえば、自分の意志とは無関係に口が動いて腹を満たしていく。

 赤ん坊が乳を吸うのは、生きるための本能だ。


 俺は生き残りたい。

 現世の家族を失いたくない。

 この国が滅びるなんて嫌だ。


 大切なものを守る力が欲しい。

 そのために何をすればいいか、考えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る