ep10:美月視点⑩

「アラン、大丈夫? どこか痛かったりしない?」


 夕食後、プレイルームのソファに並んで座り、私はアランの身体に異常が無いか確認した。

 私がアランにかけた身体強化魔法は、命中と回避に特化したものだ。

 身体強化には様々なタイプがあり、筋力や攻撃力を上げるものもある。

 けれど筋力への強化は、効果が切れた後に筋肉痛のリバウンドがあり、魔法を使ったことがバレやすい。

 だから私は、アランの筋力を強化しなかった。


「大丈夫だよ。あいつ威張ってたくせに弱かったから」


 アランの笑顔が眩しい。

 ゲームでは見られなかった、誇らしそうな笑顔だ。


「アランが、あんなに強いなんて知らなかったわ」


 私は、アランのステータスを知らない。

 ゲームではパーティを組めば、ルナ以外のキャラクターたちのステータスを見ることができる。

 でも、アランとパーティを組むことはなかったので、ステータスを確認する機会はなかった。


「多分、父さんに似たのかなぁ」


 アランは、ふと遠い目をして言った。

 彼は2歳のときに両親を亡くしているから、父親の記憶は少ない。


「よく覚えていないけど、父さんは身体が大きくて、力持ちだった気がするよ」


 微かな記憶を手繰り寄せて、アランは語る。

 ゲームでは、アランの父親は登場しない。

 故郷の村人がいない今、アランの父がどんな仕事をしていたのかは、アランにも私にも分からなかった。


「もしかしたらあのとき、父さんが力を貸してくれたのかな」


 アランはソファから降りて、窓辺に向かう。

 窓の外には、無数の星々が瞬く夜空が広がっていた。

 この世界では、死者は星空の向こうにある国から、親しい人を見守っているとされていた。


「きっと、アランを守ってくれたのね」


 私もソファを降りて窓辺に向かい、アランと並んで星空を見上げる。

 身体強化魔法を使ったことは、秘密にしておこう。

 アランと共に生きるために、聖女の力は隠し続けよう。

 星空を見上げて心の中で誓う私は、アランの次の言葉に萌え死にそうになった。


「ルナ。僕は君を守るために、もっと強くなるよ」


 アランは私の両手をそっと握り、攻略対象かと思うようなことを囁いた。

 アラン、あなた5歳児よね?

 なんでそんなイケメン台詞が出てくるの。

 もしかしたら、クレーマー男を倒したことで、アランの心境に変化が起きたのかもしれない。


「それは、アランがずっと私を守ってくれるってこと?」

「うん」


 私が問いかけたら、アランは即答した。

 もしもゲーム通りの展開なら、このアランは存在しなかったろう。


「嬉しい。ずっと一緒にいてね」

「うん」


 こうして、幼少期に離れ離れになる筈だった男の子は、その先も行動を共にするパートナーとなった。

 私は焦らずゆっくりと、推しとの絆を深める。

 シナリオはもう、ゲームとは大幅に違うものになりつつあった。

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