ep09:美月視点⑨
ゲームのアランは、クレーマー男に蹴りを入れることはできなかった。
男はアランの片足を掴んで蹴りを止めた後、無造作に横へ放り投げてしまう。
その後、ルナを捕まえようと歩き出す男に、起き上がったアランが殴りかかるけれど、それも当たらなかった。
「しつこいガキだな」
男はアランを蹴り飛ばして、忌々しそうに舌打ちする。
ゲームのルナはどうしたらいいか分からなくて、その場に立ち尽くしたままだった。
「ルナから離れろ!」
アランはすぐに起き上がって、男に回し蹴りを仕掛ける。
三度目の攻撃も男には当たらず、足を掴まれて阻止された。
「うぜぇんだよ、このクソガキが!」
しつこいアランにぶち切れた男は、アランの両足を掴んで逆さ吊りにした。
そのまま、顔や腹部を何度も蹴りつける。
報せを受けて街の警備兵が駆け付けたときには、アランは意識を失ってグッタリしていた。
「アラン! 死なないで!」
地面に投げ出されたまま動かないアランにルナが駆け寄る。
ルナはアランを助けたい一心で、無意識に光属性の治癒魔法を使う。
……というのが、【星空の彼方】のチュートリアルイベント、「聖女の覚醒」だった。
ゲームのルナはこのイベントの時点では初期ステータスであり、魔力量も普通の子供と変わらない。
瀕死のアランを癒すために、ルナは全ての魔力を使い切って昏倒した。
シナリオでは魔力の限界を突破した光魔法の使用だったとされていて、その後ルナは1週間ほど意識不明になっている。
意識を失っている間にルナが聖女であることが広まり、ミシオン公爵が引き取りに来る。
チュートリアルの最後はミシオン公爵の屋敷で目覚めるシーンで、そこから先のシナリオではアランは全く登場しなかった。
「君が聖女の力を使った男の子は、傷跡も残らないくらい完治したそうだよ」
ミシオン公爵がルナに告げる、この台詞しかない。
ルナも「よかった」と呟くだけで、その後アランと再会するイベントは無かった。
プレイヤーだった頃の私は、アランを見たくて何度も孤児院へルナを向かわせたけど、いつもアランは不在だった。
他のNPCに話しかけても、その後のアランに関する情報は得られない。
ゲームのアランは所謂モブキャラで、チュートリアルが終わればもう主人公との絡みは無い設定だった。
でも、今は違う。
アランは無傷、
当然ながら、ミシオン公爵に引き取られることもない。
アランの飛び蹴り1発で気絶したクレーマー男は、駆け付けた警備兵に引きずられながら連行されていく。
「君が倒したんだって?」
「凄いな」
「大人になったら警備兵にならないか?」
警備兵たちは立ち去り際、アランを褒めたり勧誘したり、随分と盛り上がっていた。
アランは私がかけた身体強化や、ミサンガに込められた攻撃回避効果には、気づいていない。
ただなんとなく「いつもと違う力が沸いた」感じはしたかもしれない。
ここから先のアランとの日々は、ケームには無かった未知のエピソードだ。
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