ep04:美月視点④

 意識が戻ったとき、私は誰かに抱えられて運ばれているところだった。

 柔らかい毛布のようなものに包まれている触感がある。

 救急隊が来てくれたのかな。

 目を開けてみたけど、視界がぼやけてよく見えなかった。

 身体にも違和感がある。

 手足の感覚がおかしい、思うように動かない。

 耳はよく聞こえるので、誰かが話す声が聞こえてきた。


「ごめんね。育ててあげられなくて」


 囁くような、女性の声が聞こえる。

 私を抱いているのは、その人だ。

 看護師さんにしては、話す内容が変だ。

 私を抱えて運んでいた人は、硬い床の上に私を寝かせた。

 離れていく気配と、走り去る足音が聞こえる。


 え? 置き去り?

 ちょっと待ってよ!


 慌てて呼び止めようと声を出した私は、更なる異変に気付いた。

 喋れない。

 声は出るけれど、言葉にならない。

 私が発したのは、赤ん坊の泣き声だった。


 何? どうなってるの?

 お願い、誰か助けて!


 叫ぶ声は、全て赤ん坊の泣き声になる。

 どうしたらいいか分からなくて、とにかく大声を出し続けた。

 やがて、古い木戸が開くような音がして、私は誰かに抱き上げられた。


「あらまぁ、赤ちゃんの泣き声が聞こえると思ったら、こんなところに」


 さっきと違う女性の声がする。

 視界はぼんやりしたままだけど、暗くて寒いところから、明るくて暖かいところへ運ばれた感じがする。


「やっぱり、赤ちゃんがいたわ」

「捨てられたのね。可哀想に」

「私、ミルクを温めてきますね」


 部屋の中かな。

 3人の女性の声が聞こえる。

 しばらくすると、唇に何かが触れるのを感じた。

 その直後、私の口は意志に関係なくそれを含み、吸い始めた。

 温かくてほんのり甘い液体が、口から喉を通ってお腹に溜まっていく。


「うん、いい飲みっぷりね」

「衰弱してなくてよかったわ」

「ちゃんとゲップもでたね。よしよし」


 ここまでくると、さすがに私も自分がどうなってるのか分かる。


 私は多分、高架から落下した列車の中で息絶えたんだね。

 それで、何処かに転生したみたい。


 でも、どこに?

 私と一緒にいた陽太と華蓮ちゃんは?

 もしも2人も死んだなら、どこかに転生しているのかな。


 私は、このときはまだ、自分がどこへ転生したのか分からなかった。

 喋れないけど、周りの人々が話す言葉は分かる。

 だから私は、ここが日本だと思っていた。


 赤ちゃんの私に、できることは少ない。

 ミルクを飲んで寝て、お腹が空いたりオムツが汚れたりしたら泣いて報せるだけ。


 流れていく時の中で、私は新しい身体に馴染み、新しい人生を受け入れていった。

 でも、いつも心の奥底に、切ない気持ちがある。


 私、日向美月の人生は18年で終わってしまった。

 大学に合格して、学園生活を楽しみにしていたのに。

 陽太と華蓮ちゃんがいないのも悲しい。

 前世の私は双子だったから、1人でいることが、何かが欠けているように寂しかった。

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