呪いの聖女じゃありません

初雪しろ

プロローグ 呪いの聖女じゃありません

私はアリア・セイラート――聖女だ。

生まれつき特殊な魔力――教会の神官がいうには聖なる魔力を宿していることが聖女と呼ばれる人の特徴となるらしい。

今現在において教会が知っている聖女は数十人程度で、全人族の中でいえばかなり希少な存在になる。

 そんな特別な聖女の1人になる私だけれど――今は多くの大国から国と最近認められることになった小国ラビリアで過ごしていた。


「これって……気分的には出向とかの気分よね。というか、悪い考え方すると左遷の可能性もあるのかしら?」


 私のみの空間だからか、そんな愚痴を誰に聞かせるわけでもなく口に出してしまうほどだ。

 始まりはもう半年ほど前のことだ。


****


「ラビリア?」

「聞いたことはないか?」


 とある日の夜中。夕食を終えた後に、父様の書斎へと呼ばれた。


「たしか、結構な辺境にできた街ですよね。かなり大きなダンジョンが見つかったけれど、その周辺が魔物がよらないのが確認できて、そこに作ったとかいう」

「その通りだ」

「でも、ほんとにそれぐらいしか私は知りませんよ」


 私は聖女の素質があったことから学園を卒業後は教会や冒険者ギルドなどで働いていて、家の事業は長男と次男の兄様たちが継ぐことを前提に従事している。


「実は近々あの街は国として認定することになってな」

「それは……私からはなんとも」


 祝えばいいのか、新しい国という存在に警戒をするべきなのか。少なくとも、判断するほどの関心がそもそもなかったから困る。


「まあ今まで気にしてなかったのなら無理もない。本題に入ろう」


 父様はそう言うとひとつの手紙を取り出して私に渡してくる。


「これは……『アリア・セイラートをラビリアの教会へ聖女として派遣する。また、その際に現地での生活をセイラート家及びオーディア家が支援を行うこととする。現地では聖女として教会の基本業務とともに各家の事業に可能な形での協力を行う。』正式な書式ではないですが、何かの約束ですか?」


「うむ。お前に不服がなければ後日正式に関係家と教会の代表者が揃って合意となる予定だ」

「なるほど……」


 よく見ると、正式でないにも関わらずしっかりと教会の長の署名までされていた。


「いえ、まあ教会の指示となるなら聖女であれど、教会の一員ではあるので拒否はできませんが、オーディア家はなんの関わりが?」


 オーディア家はセイラート家とは長い付き合いになる貴族だ。ただ、教会とは無関係のはずの家だった覚えがあるけど。


「ラビリアを今の街にするまでの間にダンジョンの調査や現地での仮設の冒険者ギルドの運営協力とかをしていたらしい。それもあって、国になるにあたってある程度商業路の安定がするまで次男が常駐するらしい。そして、教会に対して神官の派遣と依頼すると共にお前を指名してきたというわけだ」

「なるほど……いや、私ってオーディア家とはそこまで関わっていませんけど。気に入られてたんですか?」


 正直なところ長男同士が男の絆のような形で仲が良いことは私も知っていたけど。


「そこらへんはよくわからないが、教会側があの街の教会から人員の派遣は前から依頼をされていたらしくてちょうどよかったらしいと司祭からは聞いている」

「……そう言われてしまったら私は従わざるをえないじゃないですか!」

「いや、しかしお前が拒否するなら別の高位の神官をとは」

「父様。それは建前というものです。聖女として大きな実績になる事件がそもそも起きていない今の私は教会では名前だけ聖女な部分もあるんです。その立場で拒否ができるわけないじゃないですか」

「そ、そうか。教会の内部の仕事はあまり公になってなくてな。まあ、それならば教会のほうには受けるということで伝えておこう」

「お願いします……」


 だけど、私の記憶が正しければ本当に辺境の中の辺境だった場所よね。

 気が重い……。


****


「そうしてこっちにきて早くも半年よ。それで私は一体何をした? いや、やってはいるけど……」


 この半年でやったことを思い出してみる。

 教会の基本的な業務も手伝いはするけれど神官で物足りている。

 なら、なんでそんなに教会が人員を増やすことを求めていたのか。

 それはダンジョンがある都市ということが起因していた。

 怪我人が多いのはもちろんあるけれど、それは若い神官の神聖魔法でも回復はできる。


 問題は若い神官でも可能ではあるけれど、時間がかかってしまう作業――呪いの解呪だ。

 この半年の間にわかったことは、ダンジョンから冒険者が持ち帰ってくるものに呪いが付与されていることがかなり多い。

 他のダンジョンを詳しく知らないから比べられないけれど。

 ただ、呪いの解呪には回復と違ってある程度の儀式的な手法が必要になるせいで間に合っていなかった。

 そのため、ここにたどりついた時は教会の中を呪いの付与されたもので溢れさせるわけにもいかずに、近くにある一軒家の中に大量に詰め込まれていた。


「そう。それで、私の出番だったわけね。聖女の――つまり私の魔力であれば、魔法陣とかを必要とせずに弱めの呪いに関しては解呪が可能。それで、かなり時間が短縮されて神官の負担が格段と減った」


 最初に一気に解呪した時は魔力を使い果たしかけたけれど。

 まあ、その後にその家を教会が正式に買い取って改装したらしく私の仕事場となっているわけだけど。

 そして、私の仕事は毎日夕暮れの時間までとなっていて、その後に教会で少し雑務をしたら現在の家に帰る。今日はもう新しい解呪依頼はこないかな。

 私は表にだしている受付中の札を中にいれようと席から立ち上がったが、タイミング悪く扉が開く音がした。


「呪いの聖女様がいるというのはここであってますか……?」


 しかも超絶失礼な二つ名つきでだ。

 最近、どこかの馬鹿が茶目っ気か何かで酒場で口にしてしまってから広がってるらしい。

 だから、毎回大きく息を吸って言わせてもらい。噂を打ち消すべく努力をはじめたばかりだ。


「私は呪いの聖女じゃありません!!」

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