奴隷だった俺は魔法使いに拾われる~いつの間にか世界に数人しかいない魔法使いの一人になっていた~
@rereretyutyuchiko
第1話 お宝さがし
「私を捜してみるといい、見つけた者には私の財産のすべてを授けよう」
ある大富豪がそう言い残し、姿を消した。
世は大戦争が終結し、国々とのわだかまりが比較的よくなった時代。
刺激だらけだった日常から人々は解放され、経済は成長し、人々の生活も安定し始めた時代だ、だからこそ人々は娯楽らしい娯楽を求めていた。
そんな時にこのような楽しそうな話題があるとなれば人々が躍起になるのは必然であった。
その財産目当ての者、単なる娯楽代わりに探す者、その挑発を受けて立った者、多くの人間がそれぞれの目的を持ってその大富豪を探し始めた。
大富豪から残されたのはたった一枚のその富豪が写った写真、それだけをたよりに多くの人は大富豪を見つけようとしている。
人間をこれだけたきつけるのはその大富豪”フーゴ”の総資産が一国を一括で買収できてしまうほどのとんでもないものだからである。
それをもらえるともなればどんな能天気な人間であろうと探そうとする努力をしてしまうのは仕方のないことである。
世はその大富豪の話題によって支配されている。
それはこんな人の糞による果てしないほどの激臭がする監獄の中でも話題になっていた。
「なぁ聞いたか?フーゴの居場所はデーラ山脈を越えた先の峡谷らしいぜ」
「あぁ?俺が聞いたのは人類未踏の海域のど真ん中にいるとか聞いたぞ」
「嘘だね、俺はミラ樹海の中にある世界樹に住んでるとかって聞いたぜ」
音がやけに反響する監獄の中、看守たちが暇つぶしに雑談をしている。
衛生環境は最悪、こびりついた錆は放置され囚人たちはすしずめのように無理やり押し込まれていておよそ10畳ほどの部屋に10人以上の囚人が入れられている。
囚われている囚人たちはときおり舌打ちをしてその雑談をやめるよう無言の圧をかけているが、看守たちはその程度で会話をやめるわけがなく、呑気に会話を続けている。
囚人達はそれに顔を歪めるだけで特に声を荒げたりはしない。
なぜなら、反発行為として扱われてその後に罰を受けてしまうからである。
反発したからって得になることなんて一つもない。それが分かっているからこそ看守たちもこれだけ舐めているのだ。
だが、それでも反抗しようとする気が強い人間はいる。
「おらぁてめらぁ!うるっせぇんだよ!俺達は今ぁ!捕まってんだよ!お前らが話してるだけでよぉ、こっちはいらつくんだぁごらぁ!だまれ!」
まだ年端もいかない少年が檻の柵を掴んで動物園の猿が癇癪を起したがごとく何度も揺らす。
「まーたお前か小僧、お前それのせいで何回刑期が伸びたと思ってんだ、いいからおとなしくしてろ俺らだってもうお前と顔を合わせたくねぇんだ」
看守はまるで相手にしたくないのかしっしと手で払いのける。
「うっるせぇっ!ばかがっ!!」
その少年は近くに置いてあった壺を看守に向けて投げようとした所一緒にいる囚人の一人がその少年を殴ることでその蛮行を止める。
「いいから落ち着け、お前また刑期伸ばされたら出るころには成人しちまうぞたかだか暴行で、お前半年も囚われてんだもう少し自分の時間を大切にしろ」
「くっ、兄貴がそう言うならやめるよ」
大柄な男の言葉によって少年はその壺を地面に置き、憤りを隠そうとはしないままその場にふんっと座る。
それを見た看守はため息を吐いて目の前の同僚と雑談を続けた。
「ミルナの野郎はなぜかタイタンにはなついてるよなぁ」
と、一人の囚人がその一連の流れを見てそうこぼすとミルナと呼ばれる少年が意気揚々と答える。
「あったりまえだっ、タイタンの兄貴はこんな俺に飯を分けてくれたんだっそれに俺が最初にここに入って来た時はまだガキの俺を守ろうとすらしてくれたんだぜ、そりゃあなつくに決まってるぜ」
「はぁ、ミルナいいからお前は座ってろ」
タイタンという大柄な男はその太い眉毛をへなっとしならせてため息を吐きながらミルナをなだめる。
「タイタンの兄貴は他にも俺に色んな世界の話をしてくれた!人類がまだ行ったことがないっていう海域、デーラ山脈の奥にある峡谷にはかつての偉人が隠したっていうお宝があるらしいし、フィル砂漠のど真ん中には誰もが望む理想郷があるとも言ってくれた!兄貴は俺にとっての教科書なんだ!」
「………そこまでおだてんな」
タイタンは照れ臭そうに頬をかく。
「分かってないかもしれないけど、俺兄貴がここを出るまで刑期を伸ばし続けるつもりだぜ!俺は兄貴がいない世界でなんて生きたくねぇもん!」
「………お前」
タイタンはミルナに対して何かを言いたげだったが口を噤んで下を向いてしまう。
「ねぇ兄貴っ、俺は一生あんたについていくぜ」
「ついてくるな、たくっ」
まんざらでもないのか、頬を染めてそっぽを向いている。
「兄貴、兄貴っ」
「やめろっ、うっとうしいお前は俺なんか気にせずさっさと刑期終えてどっか行きやがれ」
「そんなこと言わないでくれよ兄貴」
ミルナはタイタンの周りをべたべたとうろついていると、流石にうっとうしくなったのかタイタンに力強く押しのけられてしまった。
「あいたっ」
ミルナは思わぬ反発に尻もちをついてしまう。
「いいか?お前はまだガキだ、俺みたいなくそ野郎を親のように扱うんじゃねぇ、お前はいち早く外に出て自分なりの生き方を見つけるべきなんだよ」
「俺は兄貴と一緒に生きたい、だから俺は兄貴と一緒に外に出るよ」
「………お前、たく若い時期っていうのを無駄にすんなってあれほど言ったのによぉ」
仕方のないやつだ、と付け加えてからふっと笑って体を地面に倒してミルナに背を向けて寝始めた。
そんな矢先だった。
「囚人番号39番、貴様に面会したいという人間がいる、出ろ」
「え、俺に?」
ミルナは顔を傾けて頭の上にはてなマークを浮かべる。
いつも通り反抗でもしようかと思ったが、今度こそはタイタンに呆れられそうだと判断しておとなしくついていくこととした。
連れてこられたのは囚人部屋とは比べ物にならないほど大きな部屋だった。
真ん中は鉄格子で区切られていて、向こう側にはミルナに会いたいと言っている面会者がいるのだろう。
「そこに座れ」
「分かってるわ!クソがっ!」
悪態をつきながら、ミルナは鉄格子の前にある椅子にどかっとでも効果音が出るような座り方で座る。
「ふむ、前情報通り元気が有り余ってるみたいだね」
清廉で透き通った声だった、思わず聞き入ってしまうような魔力を持った声、気を抜けば魅了されてしまいそうである。現に見張りの看守は目を丸くしてその声に耳を傾けている。
顔が鉄格子によってよく見えないからこその効果ではあるかもしれないが。
「あぁっ!?なにもんだてめぇ!ガンつけてんじゃねぇぞごらぁ!」
だがそのような魅力に看守に狂犬とまで呼ばれている少年がそのような魔力に引っ掛かるはずもなく、当然のようにブちぎれて猿のように鉄格子に引っ付いて何度も揺らした。
「ははっ全く囚人にもまれて悪口のレパートリーが豊富だね」
対面する女の声が軽く笑う。
その笑い声が気に食わなかったのか、少年はさらに血管を浮きだたせて鉄格子を殴り始めたところで見張りの看守がミルナを止めようと動き出す。
「”君は動くな”」
その言葉によって動き出した看守の動きは瞬時に止まってしまう。
「な、なんだ体が」
「少しだけ彼とゆっくりと話をさせてくれ」
「ゆっくりってなんだぁごらぁ!!俺はぜぇんぜぇん楽しくなんかないわボケがっ!ぶち殺すぞくそアマがぁぁっ!」
「ははっほんと猿みたいだねぇ」
「舐めてんな!てめぇっ!絶対ぶち殺してやるからよぉ!!こっち来いやへっぴりい腰野郎っ!ぶん殴ってやるよぉぉぉぉ!」
がしゃがしゃ、がしゃっ!と何度も何度も鉄格子を殴りつけるが流石に鉄を壊す力はないのか自分の拳が傷付くだけに終わる。
「”そろそろ静かにしようか”」
「あぁ!?うるせぇぞ馬鹿がっ!何俺に命令してんだボケ!」
「ははっこれ効かないなんてね君相当な精神力を持ってるみたいだ」
「一人で話すんじゃねぇ!」
がんっと強い一撃を鉄格子に当てるとついに鉄格子にひびが入る。
「は?君本当に人かい?」
そこで向こう側の女が震えた声でその怪力に恐怖する。彼女の余裕たっぷりの態度はそこで崩れた。
「あぁ?俺は人だぜ、正真正銘完全無欠の最強孤高のミルナ様だ」
「ふむ、いいねぇその精神性と怪力、やっぱり私の予想は間違ってなかったようだ」
「さっきからよぉ!何すかしてんだてめぇ!!ぶち殺されてぇのかぁぁぁぁ!!」
「私もさっきから言ってるんだぜ、私の話を聞けと」
「俺に指図すん、っあ、あ」
ミルナの口に見覚えのない水があふれてくる、その圧迫感によって喋ることはままならなくなる。
「君のことは調べさせてもらったよ、スラム街出身のフィン・ミルナ君、両親は5歳の頃に亡くなり、その後は孤高に生きてきた、生き方の教科書はスラム街にいる犯罪者たち、君は彼らから犯罪の技術を見て盗み、荒んだ人生を歩んできた、人に対して突っかかるのは舐められないようにするため、だったね」
「が、おまっこの水っ」
とめどなく溢れてくる水に対して何度も腕を入れてかきだそうとするが、水は口の中からなんの前触れもなく湧き続ける。
「話は変わるが、君はフーゴという人を知っているかい?」
「が、あぁ?」
「………そうか、ずっとここにいたから分からないのか」
「私はね、その人を捜しているんだ」
(………確かそいつって見つけたら自分の金を渡すとかいう変なジジイだっけか、看守の野郎が話してたっけ、まぁ知らんふりするけど)
ミルナがその人物に思い当たるふしがあったのだが、目の前の人物の思い通りに話が進むのは癪に障るのか、知っているという態度をとることはない。
「金だけじゃない」
「………!?」
まるで自分の心を読まれたかのようなそのセリフにミルナは心臓でも掴まれたかのようにひゅんと体を跳ねさせる。
「この世界の根幹にある情報、天国への行き方を教えてくれるという話を聞いた」
「………」
「まだ人類未踏の死の海域”バレル”、その中心にある天国と呼ばれる場所はかつてフーゴが一度だけ行ったという、そこには何もかもがある、この世のすべての幸福があるとフーゴは言っていたそうだ」
(じゃあ人類未踏じゃないだろ)
「違うよ人類未踏ではある、なぜなら天国には人類の生息域が根付いていないからね、そこに住める人類がいなければそれは人類未踏と表現せざるを得ないのさ」
(なんでもあるんじゃないのか?それが本当に天国って言えんのか?)
「さぁねでも多くの人はそう呼んでる、死の海域を抜けた先にはきっと天国があると」
もう疑問にも思わなくなった心を読まれる行為、いや違う、この女の話すその与太話にはそんな疑問なんて掻き消えてしまうほど引きつかれるものがあったからだ。
天国、そんな場所が本当にあるのならとミルナは夢想する。
金だけじゃなく、この世すべての幸福すら手に入るという天国とは一体どのような場所なのかと気にならないわけがなかった。
そこにはケーキ以上の美味しいものがあるのか、綺麗な水は常備されているのか、ミルナには想像もつかないようなことがきっとそこにはあるのだろうと考えてしまうのはまだ幼い彼からすれば当然のことであった。
「が、ばっ!ばっ」
するとようやくあふれる水は止まり、ミルナはせき込んだ。
「さて本題だ、私はそのフーゴという人物に会いその資産と天国への行き方を教えてもらうつもりだ、だが私は見ての通り非力でね、力持ちの相棒が欲しいと思っていたところなんだ、そこで君だ、君のその怪力を見込んで私は依頼するよ私と一緒にフーゴを探してくれないか?看守の人達には話を通してる、金は払ってるからいつでも君はここを出られる、でも最終決断の権利は君にある、絶対にここを出た方がいいと思うけど、まぁ嫌だというのなら私は引き下がらざるを得ないがね」
「確かに、お前のその天国とやらの話は多少興味がある」
「じゃあ一緒に」
その女性の言葉を断ち切るように「だが」とミルナは言い切る。
「俺はなんでも手に入るような幸福だけの世界より、兄貴と一緒に暮らすこのドブみたいな世界で生きていたい、窮屈で辛くて苦しくても、俺は兄貴といたいんだ、だから悪いなクソアマお前の話には乗らねぇぜ」
がしゃんっ!と鉄格子を叩き威嚇して看守の後ろの扉を開く。
「じゃあな、二度と面見せんなよ」
ばぁんっ!と扉を力強く閉めてミルナは出ていった。
残ったのは動きが縛られている監視役の人間と、楽しそうに笑みを浮かべている鉄格子の先に入る一人の女性であった。
「いいねぇその忠誠心、ますます気に入った、絶対に君を手に入れて見せるよミルナ」
妖艶に笑った女性はパチンと指を鳴らし、監視役の人の拘束を解いた後踵を返した。
「また来るよ」
それだけを言い残して。
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