ホットケーキ
壱原 一
瞼越しに眩しくて目が覚めた。カーテンが半端に開いている。
裸足でひたひた床を行き、腹を空かせてキッチンに立つ。
昨夜生地まで作ってあったホットケーキの支度が整っている。
半歩ずれてコンロ前へ移り、換気扇の電源を点けてフライパンを取り火に掛ける。
室温のバター
分離した生地を掻き混ぜ直して空気を抜き流し入れると、バターが生地を迎え受け、ふくよかで温かな匂いが柔らかく穏やかに漂う。
焼き上がって乗せる皿が無いので、フォークを持ちそのままリビングへ運び、取り敢えず拭いたテーブルの上へ直置きして席に着く。
日の当たる中で改めて見ると、フライパンの側面が少し凹んでいる。
どれ程の力が籠ってこんな風に凹んだか考えて、また目を拭って痛みに呻く。
黄金の生地が占める視界が、ほこほこの湯気に白んで滲む。
フォークで割って、刺して、含むと、慣れ親しんだ優しい風味に、一層歪んで滴り落ちる。
“これを食べたら仲直り”がずっと2人の約束だった。
レールから外れたカーテン。
ひたひたの床。
割れた皿も。
窓辺の恋人と一緒に、すべて片付けなくてはならない。
終.
ホットケーキ 壱原 一 @Hajime1HARA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます