第2話

みなさん、こんにちは!

世界最強の大魔道士シシリア様の弟子の僕です。


前回、師匠がカジュアルに異世界間召喚した男にタイホされてしまったわけですが─────





「警察署はどこだ……?」


(まあそうなりますよね)


この人は、僕を捕まえてどこに行くつもりだったんだろうか?


(ややこし……もとい気難しい人の対応は日常業務。むしろ師匠とダブルにならなくて良かった…)


上手くなだめてひとまず師匠の研究所兼住居に連れ帰る。

見習いの僕もこの建物に住んでいるので、ここは我が家でもある。


帰ってきた時師匠の姿はなく、玄関の床に1枚のメモが落ちていた。


〜南の島にバカンスに行ってきます☆

魔王の件はよろしく頼みます(≧▽≦)

探さないでください(・ω<) テヘペロ〜


さすが師匠、想像の遥か上を行く自由具合!

胃薬くんをキメたいところだったが、僕の両手の方は現在全く自由がきかないので諦めるしかない。


そして今、男と二人、小ぶりのダイニングテーブルに向かい合って座っている。

僕の手首にかけられた金属器具(“手錠”と言うらしい)は、まだ外されていない。


「名前は?」


男がベルトのケースから筆記用具を取り出しながら聞いてきた。


「大魔道士シシリアが弟子、クロイと申します……」

「黒井?下の名前は?」

「下の名前……?あとたぶん黒井じゃなくてクロイです。

あの!それより、あなたのお名前を教えて頂けますか?」


被召喚者のペースに呑まれてる場合ではないので、思い切って聞いてみると、今度は左胸のポケットから2つ折りの革手帳のようなものを取り出してこちらに提示してくる。

手馴れた動作で開いた手帳には、上側に男の顔が非常に写実的に描かれた小さな絵と見たことない文字、そして下には金色に輝くエンブレムが。


(……なにそれ、ちょっとかっこいい)


「警視庁の佐藤誠一郎だ」

「ケーシ・チョーノ・サ・トーセーイチ・ローさん……?長い名前ですね」

「佐藤で結構」

「サトーさん、了解です!」

「で?公務中の警察官を拉致した理由は?」

「あ!その事なんですけど!正確にはサトーさんを召喚、えと拉致したのは僕じゃないんですよ!

僕の師匠の大魔道士シシリア様がサトーさんを拉致したんです」


師匠には申し訳ないが、これは僕は悪くないはずだ。なので正直に洗いざらい喋ることにする。


「なるほど、そのシシリアというやつはどこに?」

「南の島に逃亡中です……」

「国外逃亡済みってことか……クソっ」

「あのう……サトーさん、これからどうしますか?」

「シシリアを逮捕したら元の世界に戻る」

タイホへの執念が凄い……。

「あの、すっごく言いづらいんですけど……元の世界に戻るのはかなり難しいかと……」


「……なん……だと?」


「召喚って呼ぶより、戻す方が100倍くらい難しいんです。戻す先の座標を特定してそこにピンポイントで送らないと建物の壁に融合したり、高さを間違えたら落下死するし、最悪次元の狭間に取り残されたりします。うちの師匠でも出来るかどうか……。しかも魔力も召喚の1万倍くらい必要なので、師匠でも簡単には発動出来ないと思います……」


「……戻れ……ない……?」


そう言うと、サトーさんは黙ってしまう。


僕にはかけてあげられる言葉がない。

普段から僕がもっと師匠をしっかり監督していたら……。師匠のやる事だから仕方ないと甘く考えすぎだったかもしれない。

あの魔法陣が異世界間召喚だと気づいた時にはもう遅かったが……あの人が「魔王と戦わせるためになんか召喚しよー」って言い出した時に、ちゃんと「自分で行きなさい」と言えていれば。


後悔先に立たず。


「あの……サトーさん……」


「……まあ、いいか……」


「……」


(ん??今この人、まあ、いいかって言った?)


サトーさんの意外な言葉に一瞬反応が遅れる。


「黒井、ひとまずお前の言い分は認めよう。

どちらにせよ逮捕監禁罪、及び公務執行妨害罪で真犯人のシシリアを逮捕するまで俺は帰らんからな!!」

「……え?……え、いやいや、あの本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫、とは?」

「だって、元の世界にご家族やお友達もいるでしょうし」

「家族も友達もいない」

「えぇ……で、でも、お仕事だってありますよね?」

「自分の仕事は悪を取り締まることだ。それはどこの世界にいても変わらない。この世界にも悪は蔓延っているはずだ!」


「……」


マズい……僕のめんどくさい人センサーがビンビンに反応している。


(サトーさん……もしかして師匠レベルの逸材?)


師匠が召喚したんだから同じレベルのややこしい人が呼ばれてもなんの不思議もないってことだろうか……?


あれ?目から汗が……


あとそろそろ胃痛が限界……


「サ、サトーさん……胃薬を……胃薬を飲ませてくだ……さい」

「……胃薬?」


そこで僕の意識は途切れた。


つづく!

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