異世界から青い制服の男が召喚されました☆

@mikemiyasaki

第1話

みなさん、こんにちは!

僕はこの世界最強の大魔道士シシリア様の弟子をしています。

師匠は歴代の大魔道士様たちの中でも飛び抜けた才能の持ち主で、大抵のことが指先1本でできてしまうほどの天才です。


ただ、そのぶん……少しだけわがま……もとい、“自分の思う方向に一直線すぎる”というお茶目な一面も。

偉い人の前でも遠慮なく自分の意見を言えてしまうのは尊敬すべき点……なのですが、僕の胃にはかなりの負担がかかります。


そんなシシリア様が、先日王宮に呼び出されました。

「めんどくさいから行きたくない」と師匠は全力で抵抗していましたが、なだめて連れていくのも僕の日常業務です。

そして────あの日の王宮での命令と、いつも通りの師匠の暴走によって僕はあの人と出会うことになったのです。




─────王の間


「大魔道士シシリアよ。南の地に“魔王”を名乗る者が現れ、周辺諸国を次々と襲っておる。このままでは我が国も危うい。……シシリアよ、魔王を倒すことはできるか?」


(王様、そんな普通の言い方じゃ絶対やりませんよ!)


僕は心の中で叫ぶ。もちろん口には出せない。

そして、そんな本音が師匠の口から飛び出さないよう、事前に“師匠の大好物の焼き菓子”を彼女の口いっぱいに詰め込んである。


「モゴ……モゴモゴ……」


美しいと評判の顔が台無しになろうとも師匠は気にしない。


「……?」


案の定、王様も大臣も困惑している。

が、これは僕の日常風景のひとつ。


「王様! 我が師匠シシリアは──必ずや魔王を討つと申しております!」

「モゴ!? モゴモゴ!!」

「おお、そうか! では頼んだぞシシリアよ!」

「はい!!」


僕は元気よく返事をして、モゴモゴと抗議する師匠を半ば引きずるようにして王宮をあとにした。

考えてみれば、いつ首が飛んでもおかしくない綱渡りの人生。

だからこそ、胃薬は僕の最良の友である。

(今日の胃薬くんは……いつにも増して苦味が強いし心なしか塩が効いてるなぁ……)




──────数時間後、古代神殿跡地


僕の目の前には、見たことのない服装の男が立っている。

水色のシャツ。

紺色の厚手のチョッキのような服。

同じく紺のズボンに、奇妙な形の帽子。

そして手には……小型の武器?


「……」

「……」

「……」


沈黙が数秒。

男が口を開き、低い声で言う。


「……どこだ、ここは……」


(うん!そりゃそうですよね!)


この人は──恐らく元いた世界から、なんの前触れもなく突然この世界に召喚されたわけで。

一応補足しておくと、この古代神殿の跡地は魔力がとても集まりやすい場所だ。

といっても、建物はとうの昔に崩れ去っていて、残っているのは巨大な大理石の土台だけ。

その中央に、師匠が描いた魔法陣がまだ微かに青く光っている。


「そこのお前……両手を上げろ」


(……え? 僕ですか?)


男は手に持った“武器と思われるもの”をこちらへ向けている。

なんなのかは分からないけど、危険が危ないのは確実なので、素直に両手を上げた。


(あ、そうだ。師匠は……?)


────いない!!?

さっきまで横にいたはずなのに、よりによって視覚阻害魔法で姿を消して、僕を置いて逃げやがった!!

男が武器を構えたまま、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


圧……圧がすごい。


めちゃくちゃ怖い。


けど、この迫力なら確かに魔王軍相手でも戦えそうな気がする。


「ここはどこだ。状況を説明しろ」

「あの、本当に申し訳ありません!

あなたは“魔法”によってこの世界に召喚されたのです!

ここは──おそらく、あなたが今までいた世界とはまったく別の世界です!」


謝罪と説明は、僕の日常業務の八割を占めている。

もはや体が勝手に動き、口が勝手にしゃべる域に達しているので、立て板に水とはこのことである。


いつか『謝罪術~これであなたも許される! 完璧謝罪マニュアル!~』という本を出版し、売上で悠々自適に暮らすのが僕の夢だ。


「マホウ……? どういう仕組みか知らんが、本人の意思を完全に無視して、勝手に連れてきたということか?」

「すみません!!

その……異世界間召喚の仕様上、召喚前に対象者の方へ意思確認を行うことができず……!

おっしゃる通り、完全にあなた様の意思を無視した形となっております!

本当に申し訳ございません!!」


両手を上げたまま深く頭を下げて謝罪する。

異世界間召喚は、召喚対象者の人権上の問題もあり、禁忌魔法だ。


師匠は「魔王討伐に行くのめんどくさい」という理由で、


カジュアルに禁忌魔法を使い、


異世界から人を呼び寄せ、


人の都合をまったく考えない……。


(普通の人にはできないことを平然とやってのけるっそこにシビれないし!あこがれない!)


「なるほど……それは拉致・誘拐ということだな。逮捕監禁罪に該当する。しかも自分は公務中だったから公務執行妨害罪も適用する」


(……!?……これ完全に許されてないやつかな?)


「両手を下ろして前に出せ」


言われるがままに両手を前に出す。



──カシャン。



見たことのない金属製の器具で、両手が拘束された。


「10時36分。逮捕監禁罪、及び公務執行妨害罪で現行犯逮捕する」




つづく!


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