近未来的私小説『永遠は凪いだ空色の味がした』

空花凪紗

Etudes

EtudeⅠ 今朝見た夢のプロット

「いつか連れてってよ。あの宇宙そらに」

「いいよ。僕が連れてってあげる!」

「やったぁ! 約束ね、――くん」


 ピピピピピピピピピピ。


 子供の頃の夢を見た。遠い日に交わした約束。あれは確か晴れた冬の夜の思い出。青かったあの日の僕らは仰いだ夜空に向けてお互いの将来の夢を語った。遥か未来へと続く悠久の宇宙に……。

 目覚ましを止めながら考える。そういえば今日久しぶりにあの子と会うんだった。だから夢に出てきたのかな。

 あの子ともうどのくらい会ってないんだっけ。いつ僕は夢を諦めたんだっけ。どうして僕はこんなにダメになってしまったんだっけ。全て忘れてしまった。別に思い出せなくてもいいか。

 惰性で続く毎日を垂れ流すだけの人生に何の意味があるのだろうか。代わり映えのない景色のループ。退廃的な生活。人生という檻に囚われただらしない僕。

 彼女と出会った。彼女はあの頃よりも綺麗になっていた。香水をまとって、すっかり大人になっていた。

 二人であの日と同じ公園に行き、あの日のように夜空を眺めた。全て変わってしまったはずなのに、夜空だけは変わらないでそこにあった。

「こうして二人で夜空を見てるとさ……昔を思い出すよね」

「昔?」

「そう。――くんがいつか宇宙飛行士になって、私をあの宇宙に連れてってくれるって約束したでしょ?」

「覚えててくれたんだ」

「もちろん!」

「懐かしいな」

「ね! 懐かしい……」

 もう全ては過去のことだ。いくら回想したってあの日には戻れない。タイムマシンは実現不可能なのだから。

「なら謝らなくちゃいけないな。僕にはその約束、果たせそうにないや。ごめん……」

「え……」

「僕はもう、夢とか叶えられないから」

 あの頃抱いていた夢は宇宙の果ての遥か彼方に追いやられてしまった。あの日の想いはかつて夢みた宇宙の孤独に冷やされ、今では心の奥底で静かに眠っている。

「いや、できるよ!――くんなら」

「そうかな……」

「そうだよ! だって――くんだよ!」

「僕のこと過大評価しすぎだよ」

「そんなことない!」

「あの頃の僕はもういないんだ……」

 そうだ。あの頃の夢を抱いていた少年はもういない。あの頃にはもう戻れない。あの日には……。

「ねぇ。私思うの。きっと私たちにできないことなんてないって。だって、だってね」


 今日は残りの人生の最初の日なんだから。


 ドキッとした。枷が外れる音がした。心臓の鼓動が聞こえた。世界が色付いた。歯車が動き出した。止まっていた時間が流れ始めた。

 確かにそうだ。今日は残りの人生の最初の日だ。そう考えればなんだってできる気がする。いや、できないはずなんてない!

 かつての想いはまるで冬眠から起きるかのように僕の心が蘇り、確かな灯火となった。

「その言葉……いいね。確かになんでも出来る気がしてきた」

「でしょでしょ! 私の一番大好きな名言なんだ」

「夢諦めてたけど、おかげでやっとまた始めることが出来そう」

「そうなんだ、良かったね!」

「情けない僕でごめんね」

「ううん。大丈夫だよ。それに、謝るくらいなら『ありがとう』って言って欲しいな。そしたら私喜んじゃう」

「ありがとう。本当にありがとう……」

「えへへ……」

 僕らは可能性でできている。どんな時だって生きてさえいれば未来がある。明日が来る。

 過去なんて忘れちゃえ。あるのはこれから先の人生なんだ。どう生きたかじゃなくてどう生きるかなんだ。

 どんな人生が待っているんだろう。期待で胸が膨らむ。

 行きたい、遠くへ。飛びたい、高く。叶えたい、僕らの夢。


 君は言った。

「いつかあの宇宙に連れてってよ」

 あの宇宙の向こうに行けるかは分からないけど、それでも僕らは進んでいける。飛んでいける。羽ばたいていける。今はそう強く思う。



EtudeⅠ 今朝見た夢のプロット[完]


EtubeⅡへ続く――

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