2
ホテルの周囲が夜の深い闇に静まり返った頃、つまりは夜中に。
「おい、起きろ」
シズマはイヴを揺さぶって起こそうとする。
「朝?」
イヴはチェックイン時刻が近いのかと気にする。
「お前以外の血鬼の気配がする。二人か」
シズマは経験によって研ぎ澄まされた気配感知で血鬼が近くに居れば、その気配を感じ取ることができる。半径一キロ以内ならば何人の血鬼が存在するかまで手に取るように分かる。シズマの昔取った杵柄だ。シズマはかつて血鬼狩りであった。
血鬼狩り、その中でももっとも熱狂的な組織の所属であった。その熱狂を『残酷で異常』と理解した故にシズマはそれを辞めた。
「盗人かしら?」
イヴは仕入れたばかりの商品の心配をする。GPSトラッカーを付けているとはいえ、中身だけ盗まれたのならば追跡はできない。
「俺が先行する。イヴ、お前は後から来て、奇襲しろ」
シズマは何処からか取り出した剣を腰に帯びている。
「シズマ、できれば生け捕りの方がいいけれど、難しいなら
イヴは自分の商品に手を出すような相手の想像をする。相手次第ではうかつに実行犯の命を奪うと面倒になる背景の者も居る。だが、その面倒で伴侶を失うことは耐え難い。
「
「モノが盗まれても、それは奪い返せばいいのだけれど。貴方の命は一つしかないのよ」
イヴはシズマの身を案じた。相手の本気度次第ではシズマでも危ういだろうと考えたのだ。
「そんなに心配されるほどの相手じゃないと思うが」
本気でイヴに喧嘩を売るならば、ホテルを爆破するくらいはするだろう。本気で盗むならば、気配も気取られぬだろう。だから相手はそれほどでもない相手と推測できる。
シズマは宿泊客やホテルの従業員に気取られぬようにホテルを走り、駐車場へと辿り着く。
車の中央には積み込んでいた荷物を取り出すのに十分な大穴が開かれていた。
車体に開いた穴は鋭利。人影は周囲にない。
しかし、シズマの気配感知は犯人の逃げる気配を感知する。
まだ気配感知の範囲を抜けていない。
駐車場のアスファルトを強く踏みしめ、走り出す。
一キロも離れていないため、シズマは直ぐに追いつく。
厚手のアウターを着た白人男性が二人。一人は木箱を肩に担いでいる。その姿は外国人観光客という風には見えない。剣吞な雰囲気に鍛えられた肉体が、観光客に見えない。
木箱を担いでいない方の男がシズマの前に立ちはだかる。時間稼ぎである。
「その身のこなし、只者ではないな。今まで見てきた血鬼狩りの者どもでも貴様ほどの男は居なかった」
男は人差し指の爪で反対側の掌を切る。流れ出た血が両刃の剣を形成した。
血鬼が標準で身につけている機能、血液操作である。
男が血鬼となってからの長い人生(二百年ほどか?男は百年を超えた段階で自分の年齢を数えることをやめた)で、初めて見るほどの人間の剣士。それがシズマの評価であった。
血鬼の男たち二人に提示された報酬が、ただの盗みにしては相場に対して高額であったわけを今更ながら理解する。
「まず俺への評価については感謝。それはそうと盗んだものを返せ。でなければ殺す」
シズマは剣を抜き、切っ先を男に向ける。殺すつもりはないが、殺気を向ける。牽制である。
「これは私たちの商売だ。追い詰められたからといって仕事を投げ出せば信用を失う」
男はそう語りながら、剣を投げる。剣は空中で形を崩し、無数の破片に再構築される。上下左右から破片がシズマに迫った。破片は銃弾ほどの速度であり、ただの人間ならば当たれば、負傷。悪ければ即死は免れないだろう。
シズマは剣を振るう。破片が斬撃で吹き飛ばされた。吹き飛ばされた瞬間には駆け出す。
「理解しなくはないが、俺の女に迷惑をかけないでくれ」
シズマの剣が男の腕を斬り飛ばす。血鬼である男の動体視力でもシズマの動きに追いつけなかった。卓越した技量と『剣』の基本効果である身体能力向上、そして鍛えられた肉体が起こした当然の結果である。
シズマの当然は、この血鬼の男の能力を超えていた。
「まだ私の相手をしてもらうぞ!」
血鬼の男は噴き出た血を操作する。血は腕の形に成形された。血鬼の再生能力であれば切断した腕を繋げることも可能だが、それでは時間がかかるのだ。
男が血で出来た腕を振るう。シズマは当然のようにそれを避け、男の手足を切断していく。
「しないよ」
シズマはそう言うと、『剣』を男の胴体に突き刺し、アスファルトに縫い付ける。
「ぐあああああああ!!」
かつて血鬼狩りであったシズマの『剣』、それは当然のように血鬼に“死”を押し付ける。再生能力を阻害するのだ。刀身が直に触れ続けるのであれば、その阻害は効力を増す。
シズマは男に背を向けて走り出した。男を殺すつもりはなかったからだ。殺すつもりならば、首を落とし頭を粉砕する。
血鬼は首が胴体から切断されでもしない限り死ねないのだ。
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