死2別 死別2
飛龍上半身(バウ・アタッカー)
1
裏切りがあった。
狩人(あるいは裏切り者)が居た。全ての血鬼を狩る誓いを裏切り、人間と血鬼の境界に立つことを決めた者だ。
ある血鬼の君主が居た。表社会でオカルト(神秘)とされるものを商う、風変わりな血鬼だった。
二人は初め敵対していたが、ついにはお互いがお互いを大切にしているという関係になった。
二十数年後。西暦二千二十五年。日本海側の某地方都市に雪が振っている。
基礎工事のために地面を掘り起こしている途中の工事現場がある。
どうやら冬場に入る前の段階で工事が止まっているようだった。
一台のワゴン車があった。ナンバープレートにはこの県から遠く離れた地名が記載されている。
厚手の防寒着を来た二人の若者が、木箱をワゴン車に積み込んでいた。
木箱がワゴン車に積み込まれると、二人の若者の内、年上の青年がワゴン車の助手席に近寄る。
「積み込みました、ロード」
青年が助手席に座る人物に話しかける。
「ご苦労さまですわ」
ロードと呼ばれた女が、助手席から降りる。
女の黒い髪が、風でたなびき、白い外の風景に浮き上がって見えた。
まるで人工的に整えたように端正な顔をしていた。そして瞳は血のように紅い。
外見年齢は成人しているかどうかほど年若く見えた。
身に纏う防寒着もキャンプ用品の有名なメーカーのもので値の張るもののようだった。
女は車のバッグドアを開け、木箱の積み込みや車内への固定を確認する。
そして木箱の上蓋を開き、中身を見る。
この工事現場で発掘された謎のミイラを確認する。人型ではあるが、大きさは子供のように小さい。
このミイラは初めは記録の存在しない未発見の即身仏と見なされ、表の学者たちによって調査が行われた。だが、身長が百センチ程度なことや頭部に角状のものが見られること、決定的要因として放射性炭素年代測定を行ったところ一万年前のものと測定されたことにより表における調査は凍結された。
日本に仏教が伝来したのは西暦五百年代であり、仏教が発祥したのも二千数百年前のため、このミイラの存在は既存の常識を根底から覆す可能性を秘めていた。
表の資料は回収され、日本国におけるオカルト(神秘)を取り扱う部門――文部科学省全領域未解明事象情報規制室――に保管された。
発見から一年が過ぎ、調査資料のコピーと共にミイラを女が買い取ることになった。
日本政府はオカルト関連費用を削減しようと常に考えているため、オカルト的に重要な資料であっても簡単に手放す傾向にあった。
女はミイラの入った箱にGPSトラッカーを入れた。万が一の保険である。
「よろしい」
女は蓋を閉め、木箱の固定がしっかりとなされていることを確認し、青年の持つ受領証にサインをした。
青年たちは文部科学省全領域未解明事象情報規制室の正規職員であった。出土場所であるこの場所で木箱の受け渡しを行うためだけにここまで出張してきたのだ。
木箱と女を乗せたワゴン車は工事現場から走り去った。
ワゴン車はしばらく走ると市内のホテルに入った。
女と運転手の男は二人で同じ一室に入る。
「寝る」
女は防寒着をハンガーにかけるとベッドに倒れこんだ。
「早えよ、イヴ。せめて着替えてから寝ろ」
運転手の男が言う。黒髪をオールバックに纏めているが、髪には白髪が混じる。
身のこなしから鍛えられた肉体を持つことがわかる。
イヴは振り向き、男の顔を見る。初めて会ってから時が過ぎて、老けたなと思った。あとどれだけの時間を共に過ごせるか考え、感傷的になり、その考えを振り払う。
「
イヴは長距離の移動で疲れている旨を主張しながら、枕の位置を調整し始める。
「泥のように眠り、朝早く起きて身を清めますわ」
そして流れるようにスマホを開き、カレンダーの予定を確かめて、目を閉じようとする。今日はもう人と会う予定がないのだからという判断である。
「お前は運転してないだろ」
もっともなツッコミであった。
「シズマ、長距離移動は乗っているだけで疲れましてよ。明日も長時間走るのですから早く寝なさいな」
イヴは長距離移動で疲労している旨を引き続き主張し、運転手――シズマ――にも早く寝るように促す。
「夕飯も食べないのか?食べないなら俺一人で外に出るが?」
「
イヴはさほど食事に関心があるタイプではないが、シズマとの食事は極力共に摂取しようとしていた。関心がないため、白米と納豆と玉子だけの食事を毎食繰り返し続けても苦痛を感じない。
「寝ると言っていただろ」
二人はホテルの近くの居酒屋で刺身や魚のフライを食べ、ホテルに戻って寝た。
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