第4話 監視開始──三勢力は“人類では届かない存在”を理解する

午前九時一〇分。

ユウトの家の前は、静かだった。


だが静けさの裏に、

三つの巨大勢力の“目”が潜んでいる。


アヤが窓の外を見ながら、淡々と言った。


「監視強度が上昇。

 MDI、アーク、深層会。

 三つの勢力が同時に行動を開始しています」


「……面倒な朝だな」


「肯定。

 しかし、予測された結果です」


ユウトは軽くストレッチをしながら、

空気の振動を感じ取った。


(ひとつ、ふたつ……六か所か)


空気の歪み。

圧力の揺らぎ。

微細な電磁波の乱れ。


すべてが“観測する者の存在”を示している。


(人間の気配とは違う……装備ありの部隊だな)


まだ彼らに敵意はない。

だが、緊張が張り詰めている。


■ MDIの“非殺傷制圧”


ユウトが玄関から一歩外へ出た瞬間――


「桐生ユウト! 落ち着いて行動してください!」


右側の高木の影から、

MDI隊員が非殺傷銃を構えた。


青白い“拘束フィルム弾”が放たれ、

一直線にユウトの胸元へ飛ぶ。


普通の相手なら、

動きを封じる強力な粘着拘束だ。


だが――


弾は、ユウトの身体に触れる寸前で「流れ落ちた」。


水のように、重力方向とは違う方向へ滑って地面へ落ちた。


MDI隊員は目を見開いた。


「命中……していない? 回避したのか?」


ユウトは首を横に振る。


「いや、避けてない。

 “当たれない”だけだ」


「なっ……」


アヤが補足した。


「あなたの攻撃は物質層にのみ干渉。

 ユウトには情報層の反発が働き、軌道が変わります」


(つまり、俺に向けた時点で“誤差”になって落ちるわけか)


ユウトは内心で分析しつつ、動かなかった。


MDI隊員が続いて拘束網を放つ。

だが――

網はユウトの五センチ手前で“分解”された。


「……バグか? こいつは……」


隊員の声が震えていた。


■ アーク捕獲班の接近


その時、背後の空気が大きく揺れた。


アークの捕獲班だ。


黒い戦闘服の男女が三名。

うち一人は“覚醒者”特有の濃い魔素をまとっている。


「対象確認。距離三十。

 拘束術式コア・ロック展開」


術式陣が空中に浮き、

ユウトの身体へ“情報層の鎖”が伸びていく。


だが――

鎖は触れた瞬間、砕けた。


砕ける音もなく。

光もなく。


ただ、存在が“消えた”。


「……嘘だろ。

 術式が無効化……いや、存在ごと消えた……?」


アーク隊長が呆然とする。


アヤが冷たく言った。


「深層層に近い存在を拘束するには、

 あなた方の情報層技術では精度が不足しています」


(つまり、俺はもう“人間の体系”では掴めない)


ユウトは小さく息を吐いた。


■ 深層会の“影吏”の一撃


最後に、

住宅地の影に“黒い人型”が現れた。


深層会の影吏。

情報層・存在層に干渉する暗殺者。


背後でアヤが言った。


「影吏一体。

 攻撃は“存在削り”。

 人間なら即死です」


影吏が手を掲げる。


空間がねじれ、

周囲の色が薄くなる。


“削られた”のだ。


存在そのものを。


普通の生命体なら、

触れるだけで消滅する。


だが――


削られたはずの空間が、

ユウトの身体の周囲に達した瞬間、

逆に影吏側が削られた。


「……っ……!?」


影吏の仮面が割れ、

影の身体が揺らぐ。


「存在揺らぎ……逆方向……?

 そんな馬鹿な……」


アヤが静かに解説した。


「深層層への適合値が足りていないのは、

 “あなた”の方です」


影吏は、理解しないまま消えた。


■ 三勢力の結論


アーク・MDI・深層会。

それぞれが無線で同じ言葉を発した。


「……接触不能」


「攻撃が届かない」


「存在干渉が逆に作用する……?」


ユウトは静かに言った。


「人類の兵器や術式じゃ、俺は倒せない。

 たぶん“世界基準”が違うんだろうな」


アヤが頷く。


「あなたは三層存在。

 物質層・情報層・深層層の“全階層に同時存在”しています」


「つまり……分類として“人間”じゃない」


「肯定。

 そしてあなたを破壊しようとすれば、

 世界が壊れます」


アーク隊長は青ざめた。


「……なぜ、こんな存在が……」


アヤははっきりと言った。


「世界が“選んだ”から」


■ 深層圧の漏れとアヤの制御


その瞬間、

ユウトの周囲五メートルが“揺れた”。


空気が重く、

世界が二重に見える。


(……またか。

 制御が甘い)


アヤが即座に演算を行い、

手首の端末から青い光が広がった。


揺らぎが収まり、世界が修正される。


「危険。

 あなたは感情の変化で深層圧が漏れます。

 都市規模の崩壊につながる可能性がある」


「分かってる」


ユウトは深く息を吐いた。


「だから俺には……“制御”が必要なんだ」


アヤは静かに頷く。


「はい。

 あなたは世界最強。

 だからこそ、あなた自身が世界を壊す危険物です」


ユウトは空を見上げ、

静かに言った。


「なら――俺は俺自身と戦う。

 世界のために、まずは自分からだ」

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