エピローグ:光と影が紡ぐ永遠の詩

 サルディスとの戦いから、数年の月日が流れた。


 ノアは、ジャファルの正式な伴侶――すなわち妃として、バシラの民から「影の聖妃(せいひ)」と呼ばれ、深く敬愛されていた。


 彼の持つ「創世の力」は、もはや影の天蓋を作るだけにとどまらなかった。ノアが祈りを捧げた大地には、次々と緑豊かなオアシスが生まれ、砂漠の国バシラは、かつてないほどの豊かさと平和を謳歌していた。人々はもう、灼熱の太陽を呪うことはない。なぜなら、自分たちには、太陽から守ってくれる優しい「影」と、その影を愛する力強い「太陽」のような王がいることを知っているからだ。


 リヒトハイム侯爵家とは、ユリウスの尽力により、節度ある国交が結ばれている。ユリウスは兄の幸せを心から喜び、時折、光の力で育てたという美しい花を贈ってきてくれた。


 月が、砂漠の夜を青白く照らす、ある晩。


 ノアは、王宮のバルコニーで、後ろからジャファルに優しく抱きしめられていた。


「見ろ、ノア。お前のおかげで、この国はこんなにも緑が増えた」


 眼下に広がる王都は、月明かりとオアシスの水面に反射する光で、きらきらと輝いている。


「すごいのは、俺の力じゃありません。俺を信じてくれた、あなたと、民の皆さんのおかげです」


 ノアがそう言って振り返ると、ジャファルは愛おしそうにその唇を塞いだ。


 長い口づけの後、ジャファルはノアの額に自分の額をこつんと合わせた。


「お前と出会って、俺の世界は光に満ちた。日陰者だった俺を、王にしてくれたのはお前だ、ノア」


 その言葉に、ノアはくすぐったそうに、そして幸せいっぱいに微笑み返す。


「あなたの隣が、俺の光です、ジャファル」


 もう、そこに虐げられていた忌み子の姿はない。いるのは、絶対的な愛に満たされ、自信に輝く、一人の美しい青年だけだ。


 捨てられた「影」は、光を渇望する砂漠の王に見出され、唯一無二の存在となった。


 光と影は、もう二度と離れることなく、寄り添い、支え合い、この砂漠の国で永遠に幸せな詩を紡いでいくだろう。


 物語は、静かに、そしてどこまでも続く幸福な未来を予感させながら、幕を下ろす。

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不吉な『影』の力で追放された僕、流れ着いた砂漠の国では『聖なる天蓋』と呼ばれ、若き王に『我が国の至宝だ』と溺愛されています 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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