第21話「太陽の下の誓い」
サルディスとの戦争は、バシラの完全勝利に終わった。
奇跡の力で国を救ったノアは、国民的な英雄となった。倒れた後、彼は王宮で手厚い看護を受け、数日後に無事意識を取り戻した。
そして今日、ジャファルが軍を率いて、王都へ凱旋する日。
王都は、勝利を祝う民衆で埋め尽くされていた。誰もが、王の名と、そして「影の聖人」ノアの名を、熱狂的に叫んでいる。
ノアは、民衆の歓声に迎えられ、王宮の門前でジャファルを待っていた。少しだけ痩せたが、その顔にはもう、かつてのような翳りはない。自信と喜びに満ちた、穏やかな表情をしていた。
やがて、堂々とした足取りで、ジャファル率いる凱旋の行列がやってきた。先頭で愛馬にまたがるジャファルの姿は、まさに国の英雄そのものだった。
彼は、ノアの姿を認めると、馬からひらりと降りた。そして、他の誰にも目もくれず、まっすぐにノアの元へと歩み寄る。
そして、ジャファルは、満場の民衆が見守る前で、ノアの前に深くひざまずいた。
「……!ジャファル様!?」
驚くノアの手を、ジャファルは恭しく両手で取った。
「ノア」
彼の声は、拡声器を使ったかのように、広場全体に響き渡った。
「かつての私は、民を愛しながらも、この国を焼く太陽に無力感を覚えていた。王でありながら、日陰者だったのは、むしろ私の方だったのかもしれない」
民衆が、固唾を飲んで王の言葉に聞き入っている。
「そんな私の前に、お前が現れた。お前は、私を、そしてこの国を照らす、唯一の光だ」
ジャファルは、懐から小さな箱を取り出した。それを開くと、中には、夜空の星を閉じ込めたような、美しい瑠璃色の宝石がはめ込まれた指輪が収められていた。
「ノア。私の妃となり、永遠に俺の隣にいてくれないか」
それは、王から一人の青年への、最高のプロポーズだった。
ノアの青い瞳から、大粒の涙がいくつもこぼれ落ちた。追放され、絶望の雨に打たれていた自分。そんな自分が、こんなにも多くの人に祝福され、世界で一番愛する人から、永遠を求められている。
答えは、決まっていた。
ノアは、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、最高の笑顔で、力強く頷いた。
その瞬間、広場を埋め尽くした民衆から、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
ジャファルは、歓喜の表情で立ち上がると、ノアの指に誓いの指輪をはめ、その体を強く抱きしめた。
そして、灼熱の、しかし今は祝福の光となって降り注ぐ太陽の下で、二人は永遠の愛を誓う口づけを交わした。
忌み嫌われた影の力は、国を救う奇跡となり、日陰で生きてきた青年の人生は、太陽よりも眩しい光で満たされたのだった。
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