第15話「古文書に記された創世の力」
サルディスの不穏な動きを察知したジャファルは、来るべき戦いに備え、あらゆる手を尽くし始めていた。そんな中、彼は王宮の地下深くに位置する、禁断の書庫へと足を運んだ。そこには、バシラ王国の建国以来の歴史と、公にはされていない秘密が記された古文書が眠っている。
何か、サルディスに対抗できる情報はないか。ジャファルは、羊皮紙に特殊なインクで書かれた古文書を、一枚一枚丁寧に調べていった。
何時間も経った頃、彼の目に、ある記述が飛び込んできた。
それは、初代国王が記したとされる、神話の時代の伝承だった。
『世界の始まり、神は二つの力を地上に遣わした。一つは、すべてを照らし育む「光」。もう一つは、生命を灼熱から守り、安らぎを与える「影」。光が強すぎれば大地は焼け、影が強すぎれば大地は凍てつく。二つの力は、互いが存在することで、世界の均衡を保つのだ』
ジャファルは息を呑んだ。ノアの故郷が「光」を司り、ノアが「影」を司る。まるで、この伝承そのものではないか。
彼は、震える指でページをめくった。
『影の力は、天蓋を作り日差しを遮るのみにあらず。その真髄は、生命の力を活性化させ、乾いた大地を潤す恵みの力なり。荒れ狂う砂嵐さえも、その前には頭を垂れ、静寂を取り戻す。故に、古の民は影の力を「創世の力」と呼び、深く敬った』
「創世の、力……」
ジャファルは、その言葉を呆然と繰り返した。
ノアの力は、単に日陰を作るだけの便利な能力などではなかった。大地を潤し、砂嵐を鎮め、生命そのものに働きかける、神にも等しい「創世の力」の一端だったのだ。
だからか、とジャファルは思った。ノアが影の天蓋を作った場所では、いつもより作物の育ちが良かった。新しくできたオアシスの水も、不思議なほど澄んでいた。それは全て、ノアの力がもたらした奇跡だったのだ。
そして、古文書の最後には、こう記されていた。
『影の力を持つ者は、その優しき心故に、人々の祈りを力に変える。民の信じる心が強いほど、その力は増し、やがて星をも動かす奇跡を起こさん』
「なんと……」
ジャファルは、古文書を手に、しばし立ち尽くしていた。
ノアの力は、この国を守るための切り札になりうる。いや、それどころか、この砂漠の国を未来永劫、豊かで平和な楽園へと変えることができる、まさに神から与えられた恩寵だったのだ。
(ノア……お前は、やはり私の、いや、この国の光だ)
ジャファルは、ノアという存在のあまりの尊さに、畏敬の念すら覚えていた。
同時に、固い決意を新たにする。
これほどの奇跡の力を、サルディスのような欲望の塊に、絶対に渡してはならない。利用させてはならない。
この力は、ノアの優しい心と共に、この国と民を守り育むために使われるべきなのだ。
ジャファルは書庫を出ると、すぐに宰相と将軍を呼び寄せた。彼の瑠璃色の瞳には、もはや迷いはなかった。愛する人を、そして愛する国を守るため、戦う覚悟は、完全に決まっていた。
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