第18話

学園長のフィールドには、全ての色を統合した究極の竜『五元竜 ティアマット・ゼロ』。そして、効果を制限する『神の威光』。

完璧な布陣。1000年の歴史が積み上げた、難攻不落の要塞。

​私の手札には、最強の相棒『イリス』と、ガチャで引いたゴミカード『無垢なる白紙』。

そして……この1ヶ月、ネットの海を泳いで見つけた、たった1枚の「魔法」。

​(……震えが止まらない)

​恐怖じゃない。

私の全細胞が、この瞬間のために叫んでいるんだ。

​「学園長。アンタの『全色』は綺麗だよ。

完成されてて、隙がなくて……まるで美術館の絵画みたいだ」

​私はデッキの一番上、運命のカードに指をかけた。

​「でもね。完成した絵には、もう何も描けないんだよ!」

​第34章:決着! 神を超える白(ホワイト・アウト)

​🃏 Turn 7 : Iroha (Rainbow)

​「私のターン! ドロー!!」

​引いた。

全ての準備(パーツ)は揃った。

​「行くよ、アーク!

まずは私の最強、『虹彩の創界神(イリス・ジェネシス)』を召喚!!」

​ゴゴゴゴゴ……!

本日二度目の降臨。七色の女神がフィールドに舞い降りる。

攻撃力5000(5色)。ティアマット(4000)を上回っている。

​「イリスの効果発動!

登場時、フィールドのカード1枚をデッキに戻す!

消えろ、『ティアマット・ゼロ』!!」

​「……ふむ。当然、そう来るね」

​学園長は眉一つ動かさない。

​「だが、無駄だ。

『ティアマット・ゼロ』の効果。

1ターンに1度、相手のカード効果を無効にし、破壊する。

……『虹彩の遮断(プリズム・ジャマー)』」

​パァァァン!!

ティアマットの5つの首が光線を吐き、イリスを包み込む。

私の相棒が、効果を発動する前に粉砕され、光の粒子となって消えた。

​「これで君の『1ターンに1度』の権利も、私の妨害も終了だ。

さあ、盤面は空っぽ。手札のゴミ(白紙)で何ができる?」

​学園長が勝ち誇る。

イリスがやられた。私の最大火力が消えた。

会場が絶望に包まれる。

​けれど。

私は、消えゆくイリスの光を見つめながら……笑った。

​「ありがとね、イリス。

アンタのおかげで……『キャンバス』は真っ白になったよ」

​「……何?」

​私は、残ったマナをタップした。

1マナ。たったの1マナ。

​「召喚!

『無垢なる白紙(ホワイト・ブランク)』!!」

​フィールドに、頼りない人型のモヤ――『白紙』が現れる。

攻撃力0。守備力0。効果なし。

​「そんなバニラカードで、神(ティアマット)を止めるつもりかね?」

​「止める? 違うよ。

こいつはね、アンタを超えるために来たんだ!」

​私は、最後の手札を叩きつけた。

路地裏のジャンクショップで見つけた、誰も使い道がわからなかった魔法カード。

​「魔法発動! 『未来への上書き(オーバーライト・フューチャー)』!!」

​カッ!!!!

スタジアムが、強烈な白色光に包まれる。

​「な、なんだそのカードは!? データにないぞ!?」

​「効果はシンプル!

このターン破壊された自分のモンスター(イリス)の『攻撃力』と『色』を……

フィールドの『無色モンスター』に引き継がせる!!」

​「なっ……死者の力を継承だと!?」

​墓地のイリスが輝き出し、その七色の光が『白紙』へと流れ込んでいく。

0だった攻撃力が跳ね上がる。

1000、3000、5000……!

​「さらに!

この効果で強化されたモンスターは……

『相手フィールドの全ての色を”吸収”する』!!」

​「きゅ、吸収……!?」

​『白紙』の背中から、無数の光の触手が伸びる。

それが学園長の『ティアマット・ゼロ』に突き刺さった。

​「ティアマットの色は『5色』!

赤、青、緑、白、黒……その全てを白紙が飲み込む!

1色につき攻撃力1000アップ!

5000 + 5000 = 10000!!」

​ズガガガガガガッ!!

ティアマットから色が失われていく。

輝かしい虹色の竜が、ただの灰色の石像へと変わり果てていく。

​「馬鹿な……! 私の『全色』が……色が抜けていく!?」

​「アンタの世界は完成されすぎてて、もう何も描けない!

だから……私が全部『白紙』に戻してやるんだよ!!」

​光の触手が収束し、『白紙』の姿が変わる。

それは、イリスでも、ティアマットでもない。

全ての色を内包し、まばゆい白光を放つ、新しい神の姿。

​「誕生せよ!

『原初の白き神(プリミティブ・ホワイト・ゴッド)』!!」

​攻撃力10000。

対するティアマットは、色を失い、効果も耐性も失った攻撃力0の石像。

​「終わりだ、アーク!

アンタの1000年の退屈……私が塗り潰す!!」

​「……ああ。

ああ、見えるよ。美しい……」

​学園長は、迫りくる白い光を見上げ、恍惚の表情で涙を流した。

​「これが……君の描く『未来(いろ)』か……!」

​「いっけえええええええ!!

ホワイト・アウト・インパクトォォォッ!!」

​ズゴオォォォォォォォォォン!!!!

​閃光が、天空塔を、スタジアムを、そしてこの管理された世界を飲み込んだ。

完璧だった計算式が崩れ去り、新しい時代が産声を上げる。

​『 WINNER : Iroha Yusaki 』

​エピローグ:新しい色、新しい朝

​光が収まると、そこには何もなかった。

学園長の1軍デッキは散らばり、彼自身は大の字に倒れていた。

​「……はぁ、はぁ……」

​私は立っていた。

右腕を突き上げたまま。

私の手の中にある『白紙』のカードには、下手くそな落書きのような、でも温かい**「虹」**の絵が浮かび上がっていた。

​「……見事だ」

​学園長が、ゆっくりと身を起こした。

その顔には、憑き物が落ちたような、清々しい笑顔があった。

​「私の完敗だ、遊崎いろは。

君は私の『完成』を、『可能性』で打ち破った」

​彼は立ち上がり、私に近づく。

そして、胸元から一つの鍵を取り出し、私に手渡した。

​「約束通り、この学園の全権限(マスターキー)を君に譲ろう。

ランクも、校則も、ランチのメニューも……君の好きにしたまえ」

​私は鍵を受け取り……そして、ニカっと笑って彼に投げ返した。

​「いらないよ、そんなの」

​「……へ?」

学園長が素っ頓狂な声を上げてキャッチする。

​「私が欲しかったのは、『美味しいご飯』と『自由なデュエル』だけ。

支配者なんて面倒くさいの、パス!」

​私は会場の仲間たち――ソウタ、ミカ、カイ、レイに向かって手を振った。

​「それにさ。

ルールは『上』が決めるもんじゃない。

私たちが『現場』で作っていくもんでしょ?」

​「……ふ。ふふふっ!」

​学園長は肩を震わせ、やがて大声で笑い出した。

​「ハハハハハ! 傑作だ!

神の座を蹴るとは! 君は本当に、どうしようもない『規格外(エラー)』だ!」

​彼は涙を拭い、私に告げた。

​「わかった。権限は私が預かろう。

ただし……公約通り、ランク制度の撤廃と、食堂のメニュー改善は即座に行う。

そして、脳死(統合)システムも廃止だ」

​その言葉に、会場から割れんばかりの歓声が上がった。

消えかけていた神楽会長たち生徒会メンバーも、実体を取り戻し、泣き崩れている。

​「……ありがとな、いろは」

グレンが、サイラスが、私に敬意を表して頭を下げる。

​「どういたしまして。

さあ、みんな! 腹減ったでしょ!」

​私は叫んだ。

​「食堂へダッシュだ! 今日は私が奢ってやるよ!!」

​「「「「うおおおおおおおお!!」」」」

​Eクラスも、Sランクも、生徒会も入り乱れて、食堂へと駆け出していく。

そこにはもう、ランクの壁も、敵味方もない。

ただの「カード好きの腹ペコたち」がいるだけだ。

​私は振り返り、もう一度だけ学園長を見た。

彼は、虹色の空を見上げながら、どこか嬉しそうに呟いていた。

​『……退屈しない未来になりそうだ』

​私はパーカーのフードを被り直し、仲間たちの輪へ飛び込んだ。

私のターンは終わらない。

この世界にはまだ、知らないカードと、倒すべきライバルが山ほどいるんだから!

​「デュエル、スタンバイ!」

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