「膨らむ」

ぽふ、

第1話

目を覚ますと、彼が、ホットケーキを焼いていた。


ふわぁ、って、まるでシフォンケーキのように膨らんでいて、


「あぁ、ごめん。起こしちゃった?」


彼の、心も膨張しているのかと思う。真夜中。


「ううん、目が覚めただけ」


ねぼけたまま。


そうか、匂いで目が覚めたのか。


すこしまえから、広いフローリングのリビングダイニングキッチンに、ベッドを置いているのだった。


いつでも、ぐうたらできるように。


カーディガンを羽織って、起き出した。


「ケーキ・・・・・・?」


「んふふ」


曖昧な表情で、笑う。


「コーヒーを入れるね」


カップを手に取り、インスタントのコーヒーの、瓶を棚から降ろして。


まだできてないよ、という彼に、うん、と返事した。


「あ。お湯、忘れてた」


ねぼけたままの、あたまのなか。


膨らんでいくホットケーキ。


いったい、どこまで膨らませるの?


「ふわっふわ」


彼の隣に立って、ふだんの数倍の厚さになったホットケーキを、ただ見つめる。


どうしたの? って聞くこともできずに。


私は。


ベッドに戻って、腰を掛けた。


んー、ぱたん。


そのままの形で、横に倒れた。


ねむい。

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